第34話

文字数 711文字

「その他、一般的なマナーの方は大丈夫でいらっしゃいますでしょうか?」
「え? ごめんなさい、恥ずかしながら、全く、そう言うのは……あの……」
「かしこまりました、御無理を申しているのはこちらの方だというのも理解しておりますので……でも……さて困りましたね」

 夜光は瑞稀に助けを求めるように顔を向ける。瑞稀は大げさにジェスチャーを入れながら音色に向き直り、言葉する。

「失礼ながら音色()、スタイルは申し分ない、その美しさと存在感だけで社長の格が上がる。これはアクセサリー的な女性軽視の考え方ではなく、寧ろ女性の存在と華やかさがステータスそのものであるという認識からくるものです。ただ社長のお傍で微笑んでいてくだされば結構です、粗相のないようお気をつけさえ頂ければ……一応側に居られませんが会場内には私も控えておりますので、安心してください」

 物は言いようである、『笑ってればいい』なんて装飾物以外、受取ようが無いではないだろうか。しかしながら『ステータスそのもの』とか『スタイルと美しさは申し分ない』だなんて言われたのなら、音色は舞い上がってしまってどうしようもない。その気になる以外のテンションが見当たらない。

(きゃっ! そんな風に思ってたなら、美容室ですぐ言ってくれれば良かったのに……ま、言われても恥ずかしいっか? ひょっとして瑞稀さんのような人でも照れちゃったのかな?)

 生まれてこの方地味に生きてきて、そんなこと言われたことのない音色は言葉に酔いしれる……。音色の不安は彼方へと吹き飛び、『綺麗』と言われた恥ずかしさだけが何時までも残っていた。無機質な会議室が百貨店のVIPサロンよりもラグジュアリーな空間と化していた。
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