殺したのは私たち

文字数 1,314文字

 みぃくんとみぃちゃんは大の仲良し。
 誕生日も一緒、名前も漢字が違うだけで一緒、おっとりとした性格も似ていて、違うのは性別と住んでいるところだけ。
 でもお隣同士なので幼稚園は一緒で、この春に同じ小学校の同じクラスへ進学した。
 そんな二人が、キノコ山への遠足の最中、行方不明になった。
 大規模な捜索が行われたが見つからず、やがて捜索が打ち切られた。
 それでも二人のそれぞれの両親は諦めず、ずっと探し続けた。

 三ヶ月が過ぎた頃、二人はひょっこりと戻ってきた。
 夜が明けるか明けないかという彼は誰時に、仲良く手をつないで自宅まで徒歩で。
 それぞれの両親は自分たちの子どもを抱きしめ、とても元気そうに見えたから、まずはお風呂に入れようとした。
 随分と汚れていたから。
 しかしそれが汚れではないとすぐに気付いた。
 土気色(つちけいろ)の肌。そしてなんとも言い難い、腐敗臭に似た臭い。
 二人ともが食欲がなく、というより水も食事も摂ろうとはしなかった。
 二つの家族は一方の家へと集まった。
 そして互いの子どもが「同じ状態」であることを確かめた。
 みぃくんとみぃちゃんは、そんな親の心つゆ知らず、二人で仲良く遊んでいる。
 話しかければ返事をするし、子ども同士でも会話は成立している。
 二つの家族は、自分たちの子どもを「生きているもの」として扱うことに決めた。
 帰っては来たが、小学校へは行かせず「不登校児」として。

 しかし、問題はそれでは収まらなかった。
 大々的に捜索をしたせいで、周囲からの注目も認知度も高かったから。
 二人が帰宅していたことが周囲にバレ、やがて医師やクラス担任、マスコミから突撃系動画配信者までもが押しかけた。
 子どもを周囲に見せないことで虐待さえも疑われた。
 SNSでは無責任な言葉が飛び交った。
「私たちはただ、静かに暮らしたいだけなのに」
 片方の母親が泣きながらテレビに映ったとき、報道に対する批判が殺到した。
 やがて別の新しい事件が注目されるようになり、その隙に、二つの家族は引っ越した。
 だが、その引越のせいで再び注目を浴びてしまった。
 父親の転職をきっかけに引越し先まで特定され、人の不幸などお構いなくゴシップで金を稼ぐ連中が集まった。
 子どもたちを映した盗撮動画がネットに公開され、その異様に痩せた姿にとうとう行政が動いた。
 児童相談所と警察、そして救急隊員に自治体職員までも揃って踏み込んだとき、二つの家族は身を寄せ合うように自分たちの子どもを抱きしめていた。
 医師が子どもの脈を取り、首を振る。
 しかしそれを見た子どもたちは面白がって真似をする。
 現場に居合わせた者たちは状況を飲み込めず、子どもたちの両親はとうとう彼らが遭遇した不思議な状況全てを告白した。
 はじめのうちは家の中に人が多いことに興奮してはしゃいでいたみぃくんとみぃちゃんだったが、両親の語る言葉の中にある単語が出現した途端に、動きを止めた。
「ぼくたち、ミイラなの?」
 みぃくんが尋ねた。
「ミイラって死んでるんだよね?」
 誰よりも早くみぃちゃんが答える。
 その途端、二人は崩れ落ちるようにしゃがみ込み、再び確認した医師により死が宣言された。



<終わり>
ミイラ
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