映えスポット

文字数 1,852文字

 あきちゃんは映えスポットを見つけるのが上手。
 なんていうか着眼点が人と違うんだよね。
 あきちゃんが何か投稿するたび、みんながその場所に群がって次々と追っかけ投稿するの。
 最初のうちは学校の人気者程度だったけど、すぐに地域の有名人になり、気がついたときにはもう、そこらのインフルエンサーに負けないくらいフォロワーがいた。
 人気が出てもあきちゃん自身は変わることなく、淡々と新しいスポットを見つけてはアップし続けた。
 そのうち熱狂的なファンも現れだして、新しいあきちゃんスポットにうちらが駆けつけたときには既にもう撮影順番待ちのミニ行列ができていることもざら。
 でもあの人ら、ちょっと怖いんだよね。
 こだわりあるのはわかるけど、引くぐらい撮り直ししてんの。

「ねぇちょっと、いい加減にしなよ」

 うちらの仲間がとうとうキレて注意した。
 あきちゃんの映えスポットは、光の条件が厳しくて、時間帯を逃すとエモさ激減りすることも多くて。
 あんまり待たされちゃうと、今日はもう撮影できないなんてこともあるから。
 でもその子、反応が思ってたんと違った。

「これ、どう思う?」

 逆にうちらに聞き返してきた。
 スマホ画面をこちらに向けて。
 絶句したけど、とりあえずは確認したのね。
 画面いっぱいに白い四角いモヤみたいなのがたくさん写り込んでいた。
 ひと目見ただけで、背中がゾクゾクした。
 思わず後ずさったの、うちだけじゃなかったもん。

「……これは撮り直しちゃいますよね」

 自然と敬語になったのは、撮ってた子の目にまで白いモヤみたいなのが浮かんでいるように見えたから。
 その日、うちらは待たずにそのまま帰ることにした。

 でも、次の日以降もその手のヤバいのが続いた。
 毎回画面を見せてもらったわけじゃなく、あの白いのが写り込んだままアップしちゃう人が現れ始めたってこと。
 しかもそういうのをアップした人たちはほとんどがその後、体調を崩したって書き込んだり、アカウントごと消えたりして、あきちゃんスポットは実は心霊スポットなんじゃないかって噂まで出た。
 それでもあきちゃん自身はアップをやめなかった。

 一度、あきちゃん本人に聞いてみたんだ。
 直球で、「あきちゃんスポットって、実は心霊スポットなの?」って。
 あきちゃんはちょっとだけ考えるような顔をしてから一言、こう言った。

「あの白いのは、オボログルマじゃないかな」

 イミフだからググったんだ。
 そしたら朧車ってのがヒットした。
 平安時代の妖怪だってね。
 貴族たちがお祭りを良い場所で見たくって、自分の牛車で場所取りバトルしたのがきっかけで生まれた妖怪だって書いてあった。
 へぇ。時代が変わると、妖怪って形が変わるのかもね。
 とにかくうちはその一言で冷めて、あきちゃんスポットへ行かなくなった。
 今考えれば異様だったから。
 みんな我先にって鼻息荒く場所取りしてたもんね。
 流行って鮮度が命だから仕方ないって思ってたけど、なんかそういうこと言ってられない怖さをうちだけは感じていた。



 心霊スポット騒動から少し経ってから、あきちゃんはアカウントをまるっと消しちゃった。
 それで終わるはずだった。
 でもミッチが言い出したんだよね。

「あきちゃんの投稿、いくつか写メったの残ってる」

 それからはみんなの写メを集めてみたら実はけっこう数あって、流れでうちがまとめて地図アプリにスポット登録するってことに。
 そんで真面目に一つずつ登録してたらね、気付いちゃった。
 あきちゃんスポットをうまく線で結ぶと一本のグルグル線になるってことに。
 撮られた順番じゃなく、撮られた時間の順番に結ぶのがミソ。
 でね、そのグルグル線の行き着く先が問題だった。
 そこ、小学生の頃にあきちゃんをイジメていた子の家だったんだ。
 しかもその子、違う高校なんだけど、ついこないだ自殺したって聞いてたから――理屈はわからないけど、何か関係しているような気がして、うちは作業を中断した。
 仲間はみんな、あきちゃん信者みたいになっていたから、そのことをみんなには言えなくて、うちは学校を何日も休んだ。
 みんな心配してけっこう連絡くれたんだけど、うちの心配よりもスポット登録の完成のほうが気になっているみたいだった。
 うちはますます学校に行けなくなった。

 そして今日、ミッチから嫌なメッセージが届いた。

『ねぇ、知ってる? あきちゃんがまた新しいアカウントで映えスポット撮り始めたよ』

 そのスポットが、うちの家にやけに近くて。



<終>
朧車
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