第11話 F自治会の秘密

文字数 1,299文字

 僕はいま、中古の戸建て住宅に引っ越し中だ。会社の独身寮を年齢制限で追い出されたからで、家電製品は全て新しく買いそろえた。すると、この地域のF自治会の会長と名乗る人物が現れた。

「F自治会に入っていただけますよね」

「はぁ」

「ではF自治会アプリを使えるようにユーザー登録しておいてください。うちは回覧板を廃止して、このアプリにしたんです」

 会長はQRコードが入った紙を置いて帰って行った。めんどくさいなぁ、と思いながら僕はスマホでF自治会アプリを開くと、なかなか充実したものだった。

 自治会運営会議の開催予定と、過去の議事録。
 ゴミ出しでの違反事例。
 道路工事の予定。

 といった、いままでの回覧板の情報のほかに、

 不用品の譲渡情報。
 趣味では、将棋・囲碁・麻雀を自治会館でやるにあたって、予約をいれることができる。
 また、個人が管理者になってのコラムを作れる。会長は、いままでの人生の自慢話を語っているが、コメントが結構な数入っている。
 おせっかいなおばさんが、独身の男女をマッチングさせようとするアプリもあり、自治会員であれば希望者は簡単に登録できる。35歳独身の僕は、ダメもとでこのマッチングアプリに登録してみた。すると、おせっかいおばさんから、さっそくダイレクトメールが来た。自治会員の親戚で僕にぴったりの女性がいるので、本当に結婚を前提にお付き合いする気があるのなら、写真を送付するようにとの文面であった。
 僕はあまりの早い反応に半信半疑になったが、自治会のアプリだからと信用し写真を送信する。すると、すぐ相手の写真と顔合わせの日時の候補が送られてきた。写真の女性は、美人とはいえないが、どことなく愛嬌がある雰囲気で、会ってみようと思い、日時を連絡した。

 初デートの日、彼女は本当にやってきた。僕たちは相性がいいようで、会話がはずみ楽しい時間を過ごした。そして直接の連絡先を交換し、次のデートの約束をして別れた。

 僕は上機嫌で帰宅した。あれっ。ドアに鍵がかかっていない。慌てて家の中に入ると、家電製品や、衣類、金目のものが一切なくなっている。僕はスマホでF自治会のアプリを開こうとするが、開かない。

「やられた~、彼女もグルなのか?」

 その時スマホに着信が。なんとさっき別れた彼女である。彼女は涙声で、帰宅したら家財道具そっくり無くなっていたことを告げる。2人は各々110番し、警察の実況見分のあと、そろって事情聴取を受けた。
 彼女はベッドまで持っていかれたとのことで、今夜はビジネスホテルに宿泊することにした。彼女の怯える様子に、とても1人にできず、僕たちは1夜を同じ部屋で明かすことになった。
 その後の警察の調べで、自治会の会長は偽者、自治会アプリも架空のものであることがわかった。そして、不思議な事に、盗まれた僕と彼女の家財道具が、廃校となった小学校の教室で発見された。何一つ不足がないので、納得いかなかったが、僕たちは被害届を取り消しにして、この事件の捜査は打ち切られた。
 僕たちは、あの事件が『吊り橋効果』となって親密度が増し、その後も交際を続けたが、それ以前にあの日の夜のたった1度の
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み