第4話
文字数 436文字
梓は亨と出会った初めのころ、好きな気持ちに気が付いた自分の中で、漠然とこの人と一緒にいたい。離れたくないという心の中の声に自分を律することができなかった。告白こそしなかったが、偶然の出会いと思われる二度の出会いを運命とも知らずに、母親を失った後の一人だけの生活にひと肌を求めた。
亨には梓と同じような、薄幸感が漂っていた。本能的に梓はそれを感じ取った。自分がどう思われているかなどどうでもよく、ただただ亨のそばにいたいという思いは通じてしまっていた。
梓は自分の男性との付き合いのなかった人生の中で、亨にすいよせられた。特別な引力、それは本当の意味での運命だった。亨の家に初めて行ったときに仏壇にある母の遺影は見たことのある老女、鴨川で亨と偶然出会った初めての時は亨の母が梓に声をかけたことから始まった。
その一年以上前に梓は母を病気で亡くしていた。しかし、お互いの母の共通点はともに夫がいなかったことだった。亨の母は離婚していたし、梓に至っては顔も名前も知らなかった。