第2話
文字数 567文字
いつの間に、風がカーテンを揺らせている隙をついて野良猫が亨の横を通り抜けた。亨の嗚咽が聞こえる室内に、猫は座り亨の背中を見ていた。
一人娘の天音は神戸の大学に進学したので、亨と梓の二人をのこして
神戸に下宿した。時には喧嘩するほどの距離感の親子、母と娘は名残惜しそうに時間を過ごしたが、梓はきっと娘がいなくなった家に失望したのだろうか。
亨は高校の臨時講師をしていた梓が仕事を辞めて家にいることを、喜んでいたが、それは単純に亨のためでなく梓が自分の体調の変化に気が付いていたことからだと、今頃思っている自分を責めた。
(そんなに僕は頼りない夫だったのだろうか。梓、なぜもっと早く病気のことを打ち明けてくれなかったの?)
亨はそばにいた梓の空気感に寄り掛かると左手のこぶしで涙をぬぐう。脚を室内にいやいやながらに入れて、ゆっくりと立ち上がった。髪に白いものが混じる亨は眼鏡を上げると、小さなマガホニーの仏壇の隣にある自分が撮影した最後の家族写真、そう、天音の成人式の記念に二階の大広間で撮った梓を見た。
「おい、また。家を荒らしたりすると追い出すぞ」
亨は野良猫が家に入り込んでいたことに今更気が付いてそばにあった新聞紙を手に取り、先ほどの窓を大きく開けて猫を追い出そうとした。だが猫は走りだして廊下へと逃げてしまった。
「こらこら……」
一人娘の天音は神戸の大学に進学したので、亨と梓の二人をのこして
神戸に下宿した。時には喧嘩するほどの距離感の親子、母と娘は名残惜しそうに時間を過ごしたが、梓はきっと娘がいなくなった家に失望したのだろうか。
亨は高校の臨時講師をしていた梓が仕事を辞めて家にいることを、喜んでいたが、それは単純に亨のためでなく梓が自分の体調の変化に気が付いていたことからだと、今頃思っている自分を責めた。
(そんなに僕は頼りない夫だったのだろうか。梓、なぜもっと早く病気のことを打ち明けてくれなかったの?)
亨はそばにいた梓の空気感に寄り掛かると左手のこぶしで涙をぬぐう。脚を室内にいやいやながらに入れて、ゆっくりと立ち上がった。髪に白いものが混じる亨は眼鏡を上げると、小さなマガホニーの仏壇の隣にある自分が撮影した最後の家族写真、そう、天音の成人式の記念に二階の大広間で撮った梓を見た。
「おい、また。家を荒らしたりすると追い出すぞ」
亨は野良猫が家に入り込んでいたことに今更気が付いてそばにあった新聞紙を手に取り、先ほどの窓を大きく開けて猫を追い出そうとした。だが猫は走りだして廊下へと逃げてしまった。
「こらこら……」