第3話

文字数 295文字

 亨はいいように走り回る野良猫に遊ばれていた。あたかも先ほどまでの哀しみを忘れさせるように。
 そう、亨は知らない。
 梓は亨に言えない秘密を一人胸に抱えてあの世へと一人旅立った。あまりにも重い、決して誰にも言えない事柄と苦悩を抱いた亨との生活。
「おい、お前はいいな。梓の気持ちなんて何もわかっていないんだろう。のんきな奴だ。だから、一人になってしまったのに。まだわからないのか」
 猫は二階の洋間のベッドの下で亨が来るのを待っていた。猫は亨の父親の生まれ変わりだった。いつもは遠いところから亨の家族を見守っていた。今は最愛の妻を亡くした息子のことがやるせなくて、距離を置くことができなかった。

 

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