【?】ある未来の海原にて鳴り響く

文字数 1,198文字


 チク、タク。チク、タク。

 新たに。海の中から響いた。
 流れる時を示す音。
 世界が動き続ける事を証明する音。
 しかし、そんなものに意味は無い。
 何故なら。
「クロックアップ、加速」

 カチッ、カチ、カチカチカチカカカカ――!

 僕の止まった世界の流れとは、全く違うから。
 海が弾け、中から飛び出した巨体が大船に降ってきた。
「吹っ飛べェ!!」
 その二足歩行の大きなワニが、両前足に握った斧を振り下ろす。僕を狙っての行動だけど、その斧が壊した床の上に僕がいたのは、もうずっと前の話だ。
 床の板を派手に破壊して、押し付けられるように一瞬沈んだ船が海を叩く。爆発のような水の音が、他の音を殺した。
 やはり、その斧の形は僕の杖に似ている。先端が大きく円い時計になっていて、その針は世界の時を示す。
「オレの名はクロノダイル!お前の時計、良いなァ。それは今から、オレの物だァ!」
 斧時計の周りに刃が回る。鋸のカラクリだ。それは乱暴に振り回される。
「そんなに急がなくてもいいのに」
 ふらふらと避ける。この程度で奴は対処出来なくなる。僕のすぐ近くで板の壊れる音がする。
「馬鹿なァ!?確かにオレの攻撃は当たっているはず……!?」
 僕と奴の時計の針の動きは違った。奴の時計は、現在しか示さない。
 安心と、少しの落胆。そして確信を持って僕は宣言する。
「時の流れは、僕だけが操れる」
 杖の鋭い後ろの先で奴の足を突き、隙が出来る。時空操術に使う魔力を強める。杖に装飾されている鎖が僕の周囲を舞い、僕の時間を固定する。
 杖の先端、僕の背後、足元。そして左目の視界に沢山の時計が回り始めた。
 現在の、過去の、未来の。僕の、奴の、世界の時間が示される。その全てを見るのではなく、対象とそれに関する時間を確認する。彼の心の深くは見ない。そんな心は、もう持ち合わせていない。
 君の時を貰おう。本来ならもう少し後になるけど、最後まで、果てまで進んで貰おう。
「ワールド・エンド」
 奴の時計の針が、見えなくなるほどの速度で回った。――へぇ、時計を持ったまま受けるとそうなるんだ。
 数秒足らずでクロノダイルは骸となって消えた。奴の時間はもう終わったのだ。
「キミの事は、忘れるまで忘れないよ」
 そう吐き捨てて戦闘終了。

騒がしく名乗られて、流石に覚えさせられた。すぐ忘れるだろうけど。
 再び平和になった船だが、揺れ、傾き、海へ沈んでいった。あのワニ、どうやら少し壊しすぎたらしい。
「まあいいや、あの斧の時計は時空操術じゃなかったし。ほんと、つまらないなぁ」
 船が沈むのを待たず、広い海へ身を投げた。とりあえず、航海に出る前まで戻ろう。無駄な時間だった。
 海中、大きな時計が目の前に現れ、針が左方向へ回る。ここにいる僕は、ある未来の可能性のひとつになった。
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登場人物紹介

エンデガ

物語の主人公。幼くして家族を失っている。芸術を始めとした世界の文化に関心があり、今住んでいる狭い浮島から抜け出したいと思っている。

ノエル

エンデガと同じ神学校に通う、サンタクロースの娘。神々への信心がとても深いが、信心の無いエンデガの意思を尊重出来る心も持っている。

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