最終話 恋と蓮の物語

文字数 1,990文字

 翌朝。
 目が覚めた(れん)(れん)に電話し、神社で落ち合う約束をした。
 手に残る柔らかな感触。それが何なのかは分からない。
 でもなぜか、温かい気持ちになった。




 境内で待っている間、(れん)は不思議な感覚に戸惑っていた。

 おかしな夢を見た気がする。
 (れん)くんと二人で、未来の自分たちに会っていた夢だ。
 そこで未来の私たちは、おかしな雰囲気になっていて……
 断片的に、そこであった出来事が脳裏に蘇ってくる。
 いっぱい泣いた気がする。(れん)くんも泣いていた。
 未来の私たちも泣いていた。
 ただ一番最後の記憶、一番強く残っている記憶では、みんなが笑っていた。
 その笑顔を思い出すと、幸せな気持ちになった。

「ま、いっか」

 夢だろうと現実だろうと、みんなが笑顔になれたんだ。
 だったらそれでいい、十分だ。
 真夏の空を見上げてそうつぶやくと、鳥居の方角から(れん)の声が聞こえた。

「ごめん(れん)、遅れちゃった」

(れん)くんおはよう。私もさっき来たところ。大丈夫だよ」

 息を切らせて走ってきた(れん)
 (れん)は微笑み、ハンカチで(れん)の汗を拭った。




「昨日、変な夢を見たんだ」

「え? (れん)くんも?」

「も、ってことは、(れん)も?」

「うん。おかしな夢だったの。でもね、夢にしてはリアルな感じで……本当に経験してきたみたいで」

「僕もそんな感じなんだ。僕たちがね、未来の自分たちに会いに行って」

「ええっ! (れん)くんもその夢見たの?」

(れん)もなのかい?」

「……何だろうこれ……ああ怖い怖い怖い、変な夢だっただけでも変なのに、(れん)くんも同じ夢を見たなんて」

「僕たち、夢の中で意識がリンクしてたのかな」

「リンク? 何だかまた難しい言葉が出て来たけど、まあいいわ、(れん)くんがそう言うんならそうなんでしょう」

「いや、別に難しくもないんだけど」

「それで? (れん)くんはどんな夢を見たの?」




「そっかぁ。お互い、結構かぶってるよね」

「こんなこと、現実にあるんだね」

「でもこれって、本当に夢だったのかな」

「どういうことかな」

「私たちが同じ夢を見てた。そう考えるより、実は夢じゃなくて、実際に経験してきた、そう考える方が自然じゃない?」

「いや、未来に行くってことは全然自然じゃないと思うけど」

「そうなんだけどー、ほんと(れん)くん、夢がないんだから。物語をあんなにいっぱい書いてる癖に」

「ははっ、ごめんごめん。でも確かに、そう思った方が僕もいいかな」

(れん)くん?」

「夢のおかげで、僕は少しだけ心が軽くなった気がするんだ。色々と悩んでることはあるんだけど、それでも前を向いていこう、立ち向かって克服したい、そんな風にね、今思えてるんだ」

「実はね、私もそんな感じなんだ」

「夢の感想まで、僕たち同じなんだね」

 そう言った(れん)の笑顔に、(れん)は思わず赤面した。

(れん)? どうかした?」

「ううん、何でもない何でもない」

「顔が赤いけど、ひょっとして熱でも」

 (れん)が額に手をやる。

「あ……」

 (れん)の手の温もり。覚えがあった。
 そして同時に(れん)の中に、不思議な感覚が蘇ってきた。

「……ありがとう、(れん)くん」

「あ、いや……ごめん、勝手に触っちゃって」

 (れん)が慌てて手を引っ込めようとした。その手を(れん)が握る。



 そうだ……よく考えたら私、昨日(れん)くんと初めてキスしたんだった。
 おかしな夢のせいで忘れてたけど、考えてみたら私、キスして初めて(れん)くんと……



 そう思うと、恥ずかしくて逃げ出したい気持ちになってきた。
 手を離そうとする。
 その手を、今度は(れん)が握り返した。

「え? あ、その……(れん)くん?」

(れん)……」

 (れん)がゆっくりと顔を近付けて来る。
 あの時の感覚が蘇ってくる。
 胸が騒ぎ、体中が震える。
 でも、(れん)にもっと触れたい、そんな感覚。
 (れん)が静かに瞼を閉じる。
 そしてすぐに、唇に柔らかな感触が伝わってきた。
 ああ、(れん)くんの唇だ……
 唇を重ね合いながら、(れん)はいつの間にか笑顔になっていた。
 両手を(れん)の体に回すと、力強く抱き締めた。

「れ、(れん)?」

(れん)くん、だーい好き!」

「僕も……僕も(れん)のこと、大好きだ! ずっとこのまま、(れん)と一緒にいたい!」

「私も! まずはこの夏休みからね。付き合い出して初めての夏休み、楽しい思い出でいっぱいにしないとね。ねえねえ(れん)くん、夏休みの間、これから毎日一緒に勉強しようよ。そしてその後で、どこか遊びに」

「いいよ、毎日だって。僕も(れん)と会いたいから」

「うん! それでね、(れん)くん。色々考えてみたんだ。一日おきにお互いの家に集まって、午前中は勉強、そして午後からは」

 (れん)が嬉しそうに笑顔で話す。
 そんな(れん)を愛おしそうに見つめ、時折(れん)もうなずく。
 お互い、手を握り合ったままで。





「お幸せにね、(れん)ちゃん、(れん)くん」

 鳥居の下で二人を見ていたミウが、そう言って微笑んだ。

「……え?」

 ミウが声を漏らす。
 (れん)(れん)、二人がミウに笑顔で手を振っていた。

「あ、あはははっ」

 ミウが微笑み、嬉しそうに一声鳴いた。

「これからも仲良くね。それじゃ」

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