3-9. 宇宙でランデブー

文字数 1,627文字

 二人は宿の上空でふわふわと浮かびながら準備をする。
 ルコアはヴィクトルの背中におぶさり、ヴィクトルは二人の周りに卵型のシールドを何枚もかけ、さらに、水中でも息が苦しくない魔法を自分たちにかけた。

「これで準備OK! じゃあ、宇宙へ行くよ!」
 ヴィクトルはワクワクしながら言う。
「本当に大丈夫ですか? 寒かったり暑かったりしないんですか?」
 ルコアは不安げだった。
「それは行ってみないと何とも……」
「大賢者様たのみますよぉ……」
「いやいや、宇宙行った人なんて誰もいなんだから仕方ないよ」
「ふふっ、二人で世界初のランデブーですねっ!」
「ラ、ランデブーって……。行くよ!」
 ヴィクトルは頬を赤らめながら飛行魔法に魔力を注入し、軽やかに宇宙へ向かって旅立った。

 夕暮れの日差しにオレンジ色に輝く石造りの街が、どんどんと小さくなっていく。やがて城壁に囲まれた王都全体が視野に入り、それも小さくなる。
「すごい、すごーい!」
 ルコアは楽しそうにヴィクトルをギュッと抱きしめた。
「おとなしくしててよ!」
「いいじゃないこれくらい……。ふぅ――――」
 ルコアはヴィクトルの耳に温かい息を吐いた。
「もう! 降ろすよ!」
「ハーイ、おとなしくしまーす」
 ルコアは棒読みのような返事をする。
「もぅ……」

 そう言ってる間にもどんどんと高度は上がり、雲を突き抜ける。
 眼下には王都を囲む山々が見え……、それも小さくなっていく。

「さて、そろそろ全力で行くぞ! つかまっててよ!」
「はーい」
 ルコアはうれしそうにギュッとヴィクトルを抱きしめた。

 ぬおぉぉぉ……!
 ヴィクトルは魔力を全力で投入する。
 二人は凄い加速を受け、一気に音速を超えた。

 ドン!
「きゃあっ!」
 ルコアが顔を伏せる。
「大丈夫だよ、どんどん行くよ!」
 二人は夕陽に照らされる中、どんどんと高度をあげた。
 シールドはビリビリと音をたて、先端は空気を圧縮し、赤く輝きだす。

 眼下には山々と、入り組んだ海岸線。地図でしか見たことのなかった国土の全貌が子細に見渡せる。
「こんな形してたんですねぇ……」
 ルコアが感慨深げに言う。
「暗黒の森はまだまだもっと西だね。もっと高度を上げるよ」

 さらにしばらく上がっていくと、シールドが静かになった。もう外は空気が無いらしい。そして、青かった空はいつの間にか真っ黒となり、宇宙へと入ってきた事が分かる。
「うちの星、丸いですねぇ……」
 ルコアがつぶやく。
 西の方には大陸が広がっており、地平線は丸く湾曲し、太陽が沈みかけている。東の方はずっと海が広がっていて、すでに真っ暗、夜になっていた。国土は細長い島のようになっていて、西側の大陸と東側の海の間に浮いている。王都の辺りはちょうど昼と夜の境目だった。
「昼と夜はこうやって作られてるんだね……」
 ヴィクトルは、昼と夜の境界線を感慨深げに眺めながら言う。
「私、こんなの初めて見ました……。すごい……幻想的……」
 ルコアは、青く美しい星に描かれる光と闇の境界線に見とれていた。

「さて……、月だけど……、これ、どうかなぁ……?」
 ヴィクトルは上空はるか彼方にある上弦の月を見ながら言った。
「全然近づいてませんねぇ……。むしろ小さくなってませんか?」
 ルコアは嫌なことを言う。
「小さく見えるのは錯覚だと思うけど……、全然近づいてる感じはしないよね」
「これ、何日もかかるんじゃないですか?」
「うーん、そうかもしれない……」
 ヴィクトルは困惑した。
「おトイレは……どうするんですか?」
 ルコアが心細げに聞いてくる。
「え? もうしたいの?」
「まだ……我慢……できるかも……」
 モジモジしながら言った。
 なるほど、長時間かかるならその辺の準備もしないとならないのだ。
 ヴィクトルは大きく息をつくと、
「月は相当に遠い事が分かった。この星も丸いし、国の形も良く分かった」
 そう言って魔力をゆるめる。
「良かった……」
 ルコアはホッとしたように、ふぅとため息をついた。
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