4-16. ドラゴンスレイヤー
文字数 2,072文字
「え?」
あまりに意外な話にヴィクトルは驚く。
「今、急速に人工知能が進歩してるんじゃよ。あと二十年もすればシンギュラリティが来る」
「人工知能が人間を……上回るんですか?」
「そうじゃ、そうなったらあとは人工知能が人工知能を進化させるフェーズに入る」
「そうなったら……、人類はどうなっちゃうんですか?」
「どうもならんよ。静かに消えていくだけじゃ」
「消えていく……?」
「今のこの国の出生率は1.3。二人の大人が産む子供の数が1.3人しかおらんのじゃ。つまり、世代が進むごとに人口は35%ずつ減っていくんじゃ」
「自然とどんどん減る……なぜですか?」
「なんでじゃろうな? これはほかの星もみな同じなんじゃ。人工知能が生まれると急速に人口が減るんじゃ。きっと人類の遺伝子の中に、後継者を作ると子供を産まなくなるような設定がされておるんじゃろうな」
「それは……、人類にとっていい事なんでしょうか?」
「さて、我は人類じゃないから分からんのう」
そう言ってレヴィアはカッカッカとうれしそうに笑った。
ヴィクトルは大きく息をつくと考えこんでしまう。
「まぁええ、今は人類よりもルコアじゃ。お主覚悟はいいか?」
レヴィアは高級マンションの前で足を止め、緊張した面持ちで見上げながら言った。
「私はいつでも……。ここ……ですか?」
瀟洒 なエントランスがのぞくマンションは、高級な石材をふんだんに使い、静かに佇 んでいる。
「ここの最上階に全宇宙、百万個の星々を統べる最高機関『Deep Child』がある」
「見た目は……、普通なんですね……」
「見た目で判断しちゃイカン。中におられる方はそれこそ宇宙全体のあり方を決め、ヒト、モノ、星を自由に操作し、全ての生き物の生殺与奪の権利を持っておられる。不用意な一言で星が消された事などいくらでもあるんじゃ」
そう言ってレヴィアはブルっと震えた。
「それだけの力があるから、ルコアも生き返らせられるんですよね?」
「まぁ、そうとも言えるがな」
二人はエントランスを開けてもらって最上階へと上がる。
◇
ピンポーン!
呼び鈴を押すと、ドタドタと誰かがやってきてドアを開けた。青い髪の可憐な女の子だった。
「いらっしゃーい!」
彼女はにこやかにヴィクトルたちを迎え入れる。
「こ、これはシアン様。大和をありがとうございました」
レヴィアは焦って頭を下げる。
ヴィクトルは驚いた。この可愛い女の子が海王星で超弩級戦艦を運用しているオーナー……。その若く美しい見た目からは全く想像も及ばない話だった。
「あ、役に立った? 良かったね」
シアンはニコニコしながら言う。
「はい、それはもう助かりました。これはお礼の品でございます」
レヴィアは桃のタルトの箱を渡した。
「あら、サンキュー!」
シアンは目をキラッと輝かせて喜ぶ。
「ただ……」
口ごもるレヴィア。
「ん?」
「主砲が一機吹っ飛んでしまいまして……」
「へっ!?」
目を丸くするシアン。そして宙を見つめ、何かを思案すると、
「エネルギー充填し過ぎはダメって説明あったよね?」
と、今にも殺しそうな勢いの視線をレヴィアに向ける。
「そ、そうなんですが、この子が発射を渋りまして……」
真っ青になって弁解するレヴィア。
「子供のせいにしない!」
そう言うとシアンは、目にも止まらぬ速さでレヴィアの額にデコピンをバチコン! とかました。
あひぃ!
吹っ飛ぶレヴィア。
人間をはるかに凌駕してるはずのドラゴンを、いとも簡単に吹っ飛ばしたシアンの強さにヴィクトルは唖然とした。
「もー、直すの面倒くさいんだよ?」
シアンは腕を組んでプリプリとする。
「すみません。ボタンを押すのをためらったのは本当で、僕が悪いんです」
ヴィクトルはビビりながら頭を下げた。
するとシアンはひょいっとヴィクトルを持ち上げ、じっと見つめる。
その目鼻立ちのきりっとした美しい顔、長いまつげに鮮やかな碧眼 にヴィクトルはドキッとする。そして、その澄んだ青い瞳に吸い込まれるような感覚にとらわれた……。
シアンはニコッと笑うとヴィクトルを抱きしめ、
「君、可愛いから許しちゃお~」
と、言いながら柔らかいプニプニとした頬に頬ずりをする。
ヴィクトルは爽やかな柑橘系の香りに包まれ、赤くなった。
「我も可愛いのに……」
レヴィアは額をさすりながら、ボソっとつぶやく。
◇
奥に通されると、そこはメゾネットタイプの広間となっていた。オフィスとして使われ、二階分の高さの天井と明るい大きな窓ガラスの開放感が心地よい。また、脇に階段があって、上の階の部屋へと繋がっている。
「気持ちのいいオフィスですね」
ヴィクトルが広間を見回しながら言うと、シアンは、
「ふふ、いい所でしょ? ここで働く?」
と、言ってニコッと笑った。
「えっ、い、いいんですか!? お、落ち着いたら相談させてください」
ヴィクトルは予想外のオファーに驚いた。全宇宙の最高機関で働く、それは想像を絶するチャンスである。ただ、今はルコアのことで頭がいっぱいなのだった。
あまりに意外な話にヴィクトルは驚く。
「今、急速に人工知能が進歩してるんじゃよ。あと二十年もすればシンギュラリティが来る」
「人工知能が人間を……上回るんですか?」
「そうじゃ、そうなったらあとは人工知能が人工知能を進化させるフェーズに入る」
「そうなったら……、人類はどうなっちゃうんですか?」
「どうもならんよ。静かに消えていくだけじゃ」
「消えていく……?」
「今のこの国の出生率は1.3。二人の大人が産む子供の数が1.3人しかおらんのじゃ。つまり、世代が進むごとに人口は35%ずつ減っていくんじゃ」
「自然とどんどん減る……なぜですか?」
「なんでじゃろうな? これはほかの星もみな同じなんじゃ。人工知能が生まれると急速に人口が減るんじゃ。きっと人類の遺伝子の中に、後継者を作ると子供を産まなくなるような設定がされておるんじゃろうな」
「それは……、人類にとっていい事なんでしょうか?」
「さて、我は人類じゃないから分からんのう」
そう言ってレヴィアはカッカッカとうれしそうに笑った。
ヴィクトルは大きく息をつくと考えこんでしまう。
「まぁええ、今は人類よりもルコアじゃ。お主覚悟はいいか?」
レヴィアは高級マンションの前で足を止め、緊張した面持ちで見上げながら言った。
「私はいつでも……。ここ……ですか?」
「ここの最上階に全宇宙、百万個の星々を統べる最高機関『Deep Child』がある」
「見た目は……、普通なんですね……」
「見た目で判断しちゃイカン。中におられる方はそれこそ宇宙全体のあり方を決め、ヒト、モノ、星を自由に操作し、全ての生き物の生殺与奪の権利を持っておられる。不用意な一言で星が消された事などいくらでもあるんじゃ」
そう言ってレヴィアはブルっと震えた。
「それだけの力があるから、ルコアも生き返らせられるんですよね?」
「まぁ、そうとも言えるがな」
二人はエントランスを開けてもらって最上階へと上がる。
◇
ピンポーン!
呼び鈴を押すと、ドタドタと誰かがやってきてドアを開けた。青い髪の可憐な女の子だった。
「いらっしゃーい!」
彼女はにこやかにヴィクトルたちを迎え入れる。
「こ、これはシアン様。大和をありがとうございました」
レヴィアは焦って頭を下げる。
ヴィクトルは驚いた。この可愛い女の子が海王星で超弩級戦艦を運用しているオーナー……。その若く美しい見た目からは全く想像も及ばない話だった。
「あ、役に立った? 良かったね」
シアンはニコニコしながら言う。
「はい、それはもう助かりました。これはお礼の品でございます」
レヴィアは桃のタルトの箱を渡した。
「あら、サンキュー!」
シアンは目をキラッと輝かせて喜ぶ。
「ただ……」
口ごもるレヴィア。
「ん?」
「主砲が一機吹っ飛んでしまいまして……」
「へっ!?」
目を丸くするシアン。そして宙を見つめ、何かを思案すると、
「エネルギー充填し過ぎはダメって説明あったよね?」
と、今にも殺しそうな勢いの視線をレヴィアに向ける。
「そ、そうなんですが、この子が発射を渋りまして……」
真っ青になって弁解するレヴィア。
「子供のせいにしない!」
そう言うとシアンは、目にも止まらぬ速さでレヴィアの額にデコピンをバチコン! とかました。
あひぃ!
吹っ飛ぶレヴィア。
人間をはるかに凌駕してるはずのドラゴンを、いとも簡単に吹っ飛ばしたシアンの強さにヴィクトルは唖然とした。
「もー、直すの面倒くさいんだよ?」
シアンは腕を組んでプリプリとする。
「すみません。ボタンを押すのをためらったのは本当で、僕が悪いんです」
ヴィクトルはビビりながら頭を下げた。
するとシアンはひょいっとヴィクトルを持ち上げ、じっと見つめる。
その目鼻立ちのきりっとした美しい顔、長いまつげに鮮やかな
シアンはニコッと笑うとヴィクトルを抱きしめ、
「君、可愛いから許しちゃお~」
と、言いながら柔らかいプニプニとした頬に頬ずりをする。
ヴィクトルは爽やかな柑橘系の香りに包まれ、赤くなった。
「我も可愛いのに……」
レヴィアは額をさすりながら、ボソっとつぶやく。
◇
奥に通されると、そこはメゾネットタイプの広間となっていた。オフィスとして使われ、二階分の高さの天井と明るい大きな窓ガラスの開放感が心地よい。また、脇に階段があって、上の階の部屋へと繋がっている。
「気持ちのいいオフィスですね」
ヴィクトルが広間を見回しながら言うと、シアンは、
「ふふ、いい所でしょ? ここで働く?」
と、言ってニコッと笑った。
「えっ、い、いいんですか!? お、落ち着いたら相談させてください」
ヴィクトルは予想外のオファーに驚いた。全宇宙の最高機関で働く、それは想像を絶するチャンスである。ただ、今はルコアのことで頭がいっぱいなのだった。