1-16. 美しき暗黒龍

文字数 1,962文字

 と、その時だった。激しいエネルギー反応を感じ、ヴィクトルはあわてて回避行動を取る。
「危ない!」
 鮮烈な火炎エネルギーがヴィクトルをかすめて上空へと消えていった。

 見ると、巨大な魔物が大きな翼をバッサバッサと羽ばたかせながら近づいてくる。鑑定をかけると、

ルコア レア度:★★★★★★
暗黒龍 レベル 304

 なんと伝説に聞こえた龍らしい。確か(いにしえ)の時代にこの龍の逆鱗に触れて街が一つ滅ぼされた、という話を聞いたことがある。

小童(こわっぱ)! 断りもなく我が地を飛び回るとはどういう料簡(りょうけん)じゃ!」
 厳ついウロコ、鋭いトゲに覆われた恐竜のような巨体が重低音で吠え、大きく開いた真っ青に光る瞳でギョロリとにらむ。
「これは失礼。そうとは知らなかったもので。でも、いきなり撃ってくるというのもどうですかね?」
 ヴィクトルはにらみ返した。
「生意気な小僧が! 死ね!」
 そう言うと暗黒龍ルコアはファイヤーブレスを吐いた。鮮烈に走る火炎放射はまっすぐにヴィクトルを襲う。
 ヴィクトルは直前でかわすと、間合いを詰める魔法『縮地』でルコアのすぐ横に迫った。
「へっ!?」
 驚くルコアの横っ面を、思いっきりグーでパンチをする。

 ギャゥッ!
 悲鳴を残してルコアはクルクルと回りながら落ちて行く。
「暴れ龍め! 僕が食ってやる!」
 ヴィクトルは全力の飛行魔法で追いかけると、音速の勢いのまま、どてっぱらに思いっきり蹴りを入れた。

 ドーン!
 蹴りの衝撃音はすさまじく、山にこだまする。

 グハァ!
 蹴り飛ばされた龍の巨体は崖にぶち当たり、めり込んで止まった。
 ルコアはヴィクトルをにらみ、
「き、貴様ぁ……」
 と、言うと、真紅の魔法陣をヴィクトルに向けて展開する。
 それを見たヴィクトルは、それに比べて二回りも大きな銀色の魔法陣をルコアに向けて同時に展開した。
「へっ!?」
 ルコアが気がついた時には、すでに真紅の魔法陣から鮮烈なエネルギー波が発射されており、それはヴィクトルの魔法陣に反射され、そのままルコアを襲った。

 ウギャ――――!!
 重低音の悲鳴と共にルコアは大爆発を起こし、爆炎が崖や周りの森を焦がす。
 ブスブスと辺りが立ち上がる煙にけぶる中、ルコアは崖から落ちてくる。

 ズーン!
 地響きを起こしながら巨体が岩場に転がった。
 ヴィクトルはルコアの脇に降り立つと、ニコニコしながら言う。
「魔石になるか、僕の手下になるか選んで」
 ルコアはボロボロになった身体をヨロヨロと持ち上げ、チラッとヴィクトルを見て、目をつぶって言った。
「わ、我を倒しても魔石には……、ならん。我は魔物では……ないのでな……」
「ふぅん、じゃ、試してみるね!」
 そう言うとヴィクトルは腕に青色の光をまとわせ、振り上げた。
「ま、待ってください!」
 ルコアはそう言うと、ボンッ! と爆発を起こす。
 そして、爆煙の中から美しい少女が現れたのだった。
「えっ?」
 ヴィクトルは唖然(あぜん)とした。
 少女は白地に青い模様のワンピースを着て、流れるような銀髪に白い透き通るような肌……、そして、碧眼の澄み通った青がこの世の者とは思えない美しさを放っていた。
「手下……になったら何をさせる……おつもりですか?」
 少女は不安そうに聞く。
「え……? 何って……、何だろう……?」
 ヴィクトルは、あまりにも美しい少女の問いかけにドギマギとし、言葉に詰まる。
「エッチなこととか……、悪いこととか……」
 少女はおびえながら上目づかいで言う。
「そ、そんなこと、やらせないよ!」
 ヴィクトルは真っ赤になって言った。
「ほ、本当……ですか?」
「手下って言い方が悪かったな……。仲間……だな。一緒に楽しいことする仲間が欲しかったんだ」
 ヴィクトルはちょっと照れる。

 少女はホッとしたように笑顔を見せると、ひざまずいて言った。
(ぬし)さま、ご無礼をいたしました。かように強い御仁には生まれてこの方千年、会ったことがありません。ぜひ、喜んで仕えさせていただきます」
 少女はずっと山の中ばかりでさすがに飽き飽きしていたのだ。もちろん、たまにちょっかいを出しに来る輩もいたが、弱すぎて話にならない。そこにいきなり現れた異常に強い少年、しかもその強さを欲望の手段にしない高潔さを持ちながら、仲間にしてくれるという。少女にとってはまさに渡りに船だった。

「あ、ありがとう。君は……暗黒龍……なんだよね?」
 ヴィクトルは、龍が美しい少女になったことに驚きを隠せずに聞く。
「うふふ、この姿……お嫌いですか?」
 そう言ってルコアはまばゆい笑顔を見せる。
「い、いや、こっちの方が……いいよ……」
「これからは主様のために精一杯勤めさせていただきます」
 ルコアは胸に手を当て、うやうやしく言う。
「あ、ありがとう」
 ヴィクトルは、裸とボサボサの髪を気にして恥ずかしそうに言った。
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