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文字数 2,080文字
✙第1犠牲者 5年Ⅰ組 毛利天優 /文芸部部長/
襲撃日9月5日(月)夜8時頃
襲撃現場/文芸部部室
✙第2犠牲者 5年Ⅳ組説田龍蔵 /美術部部長/
襲撃日9月6日(火)夜8時頃
襲撃現場/美術室
✙第3犠牲者 5年Ⅱ組鬼塚一平 /写真部部長/
襲撃日9月7日(水)夜8時頃
襲撃現場/写真部部室
✙第4犠牲者 4年Ⅱ組鳥住勇 /放送部部員/
襲撃日9月8日(木)夜8時頃
襲撃現場/渡り廊下
「ううーーーん」
連続襲撃事件の被害者について記されたノートから顔を上げ天井を見つめて唸る志儀 。
2杯目の紅茶を絶妙のタイミングで差し出して助手・内田若葉 は訊いた。
「どうです? 何かわかりましたか? 一連の襲撃事件の共通点とか関連性とか?」
「すぐに気がつく共通点は襲撃時間だな。全員夜の8時頃。中学生の下校時間としては遅いんじゃないの? 何だってこんな時間に校舎内にいたんだろう?」
「あ、その謎は簡単に解けますよ。そして、そのことは同時に、犠牲者たちの肩書きにも関連してくる」
可憐な笑顔を浮かべて助手はスラスラと答えた。
「文化祭の準備をしていたんだと思います。ほら、襲われた4人全員が文化部で、しかもその内の3人は部長だ」
「あ、なるほど!」
毎日探偵社へ入り浸っていて学校活動にさほど興味のない志儀は気づかなかったが。K2中学恒例の〈文化祭〉が10月の最初の週にあるのだ。
「この時期、各文化部は総力を挙げて活動しています」
「待てよ! てことは……」
志儀の目が煌めいた。
「例外 に注目したほうがいいかもな!」
「と言うと?」
「ほら、この4番目の鳥住勇? 彼だけ4年生で部長じゃない。しかも、襲撃場所も部室ではなく渡り廊下だ」
「だから?」
「だから――」
腕を組んで生徒会室の天井を睨む志儀。暫くして、
「いや、やっぱり、まだ全然わかんないや!」
ノートを放り出した。
長い睫を伏せて助手がノートを拾い上げる。
パラパラと頁を繰り、挟んであったマニラ封筒の中から数枚の写真を取り出して机の上に並べた。
思わず声を上げる志儀。
「あれ? そんなのあったんだ?」
「僕には良く分からないけど……一流の探偵ともなると現場を記録した写真から隠された真実を発見したりするんですよね?」
「うん。僕のところの興梠 さんなんかは絵画からも謎を読み取ったりするよ」
「だったら、僕たちも、こっちの現場写真を詳細に分析してみてはどうかなあ?」
「そんなのわかってる! いや、これからやろうと思ってたんだよ!」
「あ、それは失礼しました!」
ここで、ふいに志儀は気づいた。
(なんで現場写真なんかがあるんだ? 出来すぎじゃないか?)
怪訝そうな志儀の顔に気づいて若葉が慌てて説明した。
「全ては我がK2中が誇る俊英、生徒会長・三宅貴士 さんのお手柄です!」
瞳を潤ませて若葉が言うには、最初の犠牲者が出てすぐに貴士は万全の体制を整えた。万が一、同じことが起こった場合に備えて写真部員にカメラを肌身離さず持ち歩くよう指示したのだ。そして、校内で起こる異変の全てを即座に撮影するよう命じた。結果――
「4名の犠牲者たちは夜襲われ、発見されたのは他の生徒が登校した翌日の早朝なんですが、最初に被害にあった毛利さん以外は全員、その現場をカメラに収めることが出来たのです」
「なるほど、そういうわけか」
説田龍蔵は美術室に倒れている。鬼塚一平が昏倒しているのも写真部の部室、鳥住勇は渡り廊下だ。
最初の犠牲者である毛利天優だけ、本人のいない現場写真だった。
文芸部の部室。その床と窓のカーテンに散った血飛沫 。
そのシンプルな構図が却って見る者の肌を粟立たせる。
「おや? これは何だ?」
改めて真剣に写真を凝視していた志儀が小さく叫んだ。
「何か見つけましたか?」
期待に満ちた声で若葉が飛びついて来た。
「おい、近すぎるよ! 僕の膝にだっこしたいのか、チワワ君?」
「あ、ご、ごめんなさい」
頬を染める若葉。流石、校内美少年投票の準優勝者だけあってその可愛らしさったらない。
とはいえ、志儀はそんなことは微塵も気に留めずに、襲撃された生々しい犠牲者たちの現場写真を指差した。
「ほら、ここ、そして、ここと、ここにも!」
志儀は勝ち誇って指摘した。
「3人の体の上に小さな紙片が置かれているじゃないか!」
改めて確認すると――
「あった!」
本人のいない第1番目の襲撃現場、文芸部部室の写真にも、床に一片の白い紙片が写っている。
「これは一体何なんだ?」
襲撃日9月5日(月)夜8時頃
襲撃現場/文芸部部室
✙第2犠牲者 5年Ⅳ組
襲撃日9月6日(火)夜8時頃
襲撃現場/美術室
✙第3犠牲者 5年Ⅱ組
襲撃日9月7日(水)夜8時頃
襲撃現場/写真部部室
✙第4犠牲者 4年Ⅱ組
襲撃日9月8日(木)夜8時頃
襲撃現場/渡り廊下
「ううーーーん」
連続襲撃事件の被害者について記されたノートから顔を上げ天井を見つめて唸る
2杯目の紅茶を絶妙のタイミングで差し出して助手・
「どうです? 何かわかりましたか? 一連の襲撃事件の共通点とか関連性とか?」
「すぐに気がつく共通点は襲撃時間だな。全員夜の8時頃。中学生の下校時間としては遅いんじゃないの? 何だってこんな時間に校舎内にいたんだろう?」
「あ、その謎は簡単に解けますよ。そして、そのことは同時に、犠牲者たちの肩書きにも関連してくる」
可憐な笑顔を浮かべて助手はスラスラと答えた。
「文化祭の準備をしていたんだと思います。ほら、襲われた4人全員が文化部で、しかもその内の3人は部長だ」
「あ、なるほど!」
毎日探偵社へ入り浸っていて学校活動にさほど興味のない志儀は気づかなかったが。K2中学恒例の〈文化祭〉が10月の最初の週にあるのだ。
「この時期、各文化部は総力を挙げて活動しています」
「待てよ! てことは……」
志儀の目が煌めいた。
「
「と言うと?」
「ほら、この4番目の鳥住勇? 彼だけ4年生で部長じゃない。しかも、襲撃場所も部室ではなく渡り廊下だ」
「だから?」
「だから――」
腕を組んで生徒会室の天井を睨む志儀。暫くして、
「いや、やっぱり、まだ全然わかんないや!」
ノートを放り出した。
長い睫を伏せて助手がノートを拾い上げる。
パラパラと頁を繰り、挟んであったマニラ封筒の中から数枚の写真を取り出して机の上に並べた。
思わず声を上げる志儀。
「あれ? そんなのあったんだ?」
「僕には良く分からないけど……一流の探偵ともなると現場を記録した写真から隠された真実を発見したりするんですよね?」
「うん。僕のところの
「だったら、僕たちも、こっちの現場写真を詳細に分析してみてはどうかなあ?」
「そんなのわかってる! いや、これからやろうと思ってたんだよ!」
「あ、それは失礼しました!」
ここで、ふいに志儀は気づいた。
(なんで現場写真なんかがあるんだ? 出来すぎじゃないか?)
怪訝そうな志儀の顔に気づいて若葉が慌てて説明した。
「全ては我がK2中が誇る俊英、生徒会長・
瞳を潤ませて若葉が言うには、最初の犠牲者が出てすぐに貴士は万全の体制を整えた。万が一、同じことが起こった場合に備えて写真部員にカメラを肌身離さず持ち歩くよう指示したのだ。そして、校内で起こる異変の全てを即座に撮影するよう命じた。結果――
「4名の犠牲者たちは夜襲われ、発見されたのは他の生徒が登校した翌日の早朝なんですが、最初に被害にあった毛利さん以外は全員、その現場をカメラに収めることが出来たのです」
「なるほど、そういうわけか」
説田龍蔵は美術室に倒れている。鬼塚一平が昏倒しているのも写真部の部室、鳥住勇は渡り廊下だ。
最初の犠牲者である毛利天優だけ、本人のいない現場写真だった。
文芸部の部室。その床と窓のカーテンに散った
そのシンプルな構図が却って見る者の肌を粟立たせる。
「おや? これは何だ?」
改めて真剣に写真を凝視していた志儀が小さく叫んだ。
「何か見つけましたか?」
期待に満ちた声で若葉が飛びついて来た。
「おい、近すぎるよ! 僕の膝にだっこしたいのか、チワワ君?」
「あ、ご、ごめんなさい」
頬を染める若葉。流石、校内美少年投票の準優勝者だけあってその可愛らしさったらない。
とはいえ、志儀はそんなことは微塵も気に留めずに、襲撃された生々しい犠牲者たちの現場写真を指差した。
「ほら、ここ、そして、ここと、ここにも!」
志儀は勝ち誇って指摘した。
「3人の体の上に小さな紙片が置かれているじゃないか!」
改めて確認すると――
「あった!」
本人のいない第1番目の襲撃現場、文芸部部室の写真にも、床に一片の白い紙片が写っている。
「これは一体何なんだ?」