プロローグ

文字数 671文字

「僕を呼び出したのは君か?」

 不気味にはためくカーテン。
 窓が開け放たれている。こんな時間だというのに?

「君は一体、誰だい? そして、また、なんだって僕を――」

 くぐもった含み笑いが質問を遮った。

「なに、呼び出された意味などわからなくてもいい。
 謎を解くのは君の役(・・・)ではないのだから」

「じゃ、僕の〝役〟は何なのだ?」
 
 背中を流れる冷たい汗。不穏な予感を感じて後ずさりを始める。

「いい質問だ!」
 
 もはや(はばか)ることなく、声は高々と笑い出す。

「君は……〈最初の犠牲者〉というわけさ!」

「?」

「これは僕の劇場! 今まさに僕の芝居の幕が斬って落とされる……!」

「ぎやああああーーー」
 

 鮮血がカーテンに飛び散った。
 刹那、群雲(むらくも)が風に流されて、
 昏倒した制服姿の〈犠牲者〉が月の光に浮び上がった。
 だが、もう一人、
 〈襲撃者〉の姿は濃い闇に溶けたままだ。
 
 夜の教室に響き渡る嗚咽のような笑い。或いは笑いのような嗚咽。

「あーははははは……」
 
 血塗れの体に一片(ひとひら)の雪のごとく白い紙片がゆっくりと舞い落ちて行く……

「あはははは……」


          ✙ 1938(昭和13年)9月 5日 月曜日 ✙



 ✙ ここに記されている中学校とは旧制中学校のことです。
   第2次大戦後の学制改革まで存在しました。
   1年生~5年生まで。
   4年生が16歳で現代の高校1年、5年生が17歳で高校2年に当たります。
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