第32話

文字数 1,424文字

まどろむ意識の中で考えた。

どうしてこんな事になったのか。
さぁ、資料を仕上げようか




えっ?あれ?
なんでなんだこれ?


目の前にいるのは小学生の頃の自分で
その頃の俺は必死だった。
必死に元気だった。まだ絶望していない純粋な俺。

ん?あっ?
なんだ?

急に目の前に大きなアルファベットの小文字が並び踊り出す。
どうして、定数がabcで変数がxyzなのか。

っていうか
そんなことはどうだって良いんだよ。

いや、そんなのはおかしい。
なぜ?なぜおかしい?



なぜアルファベットで初めと終わりなのか?



「どっちでも良いんだよ。好きなもので
なんなら、すいかでもみかんでもりんごでも何でも・・・
田中は、アイスが好きですよ〜。」



目の前にあのバカ女が立っていた。




「は?アイス?
果物じゃないし、そもそも果物じゃねぇーし!!!」



「だから、どっちでも良いんですよ!!そんなもの。だから柊さんは大事なことが見えないんです。どうでも良いことは放っておけば良いんですよ。」
偉そうに見下すようにバカ女はそう言って目の前からスッと消えた。




気づかなかったが真っ黒な空間にいた俺は
どうやら小さな小学生に戻っていたようだ。
自分の体が小さくなって居るから見下ろされていたんだなと。


ふと思い出した。
中学受験の為に通い始めた塾で数式を習った時になぜだか腑に落ちなかったアルファベットの文字。
なにも意味を持たない羅列に疑問と違和感があったけど

先生に質問しても「そんなことは良いから問題を解いて」と明確な答えを聞くことができなかったな〜。


にしたって、ここはどこだ?


真っ黒な空間
そしてあのバカ女。

10メートルほど先に光の玉が見えた。


あぁ、出口か。
長いトンネルからようやく出られたんだ。
なんだったんだ、あれは・・・。





気がつくと自分の部屋だった。
朝日がカーテンの隙間から差し込んで眩しかった。



ん?
なんだ?
え?何時なんだ?


うつむくと昨日の格好のままだった。


あぁ、帰宅して疲れて寝てしまったのか・・・。




あっ・・しまった・・・・
資料をまとめるの忘れてた・・・。
まずいなぁ・・・・
今日までに仕上げるって向坂さんに言っちまったよな・・・確か・・・
しかもミーテイングするって・・・あぁぁぁぁ〜
時間もねぇ〜



俺は準備をして出社するしか出来なかった。



出社するとバカ女が向坂さんと笑い転げて話していた。


「おぉ、柊ぃ〜大丈夫かぁ〜?しっかり眠れたかぁ〜?」

「あぁ、向坂さん・・・。帰宅したらすぐ眠ってしまったようで、目が覚めたら朝でまだ資料まとめてないんで、急いで仕上げるんで、2時間いただけますか。すみません。自分のせいで業務が滞ってしまって・・・」



向坂さんに申し訳ないことをしてしまったなぁ・・・。
向坂さん、優しいから怒ってないように見えるけど、あぁもうだめだ俺は向坂さんの信用を失ってしまった・・・。

出社してすぐに倒れて帰宅を勧めてくれたのに
俺はその状況に甘んじて・・・・くそっ・・・。
きっと、もう軽蔑されたに違いない・・・そう思い向坂さんの覚めた眼差しを覚悟して頭を上げると、向坂さんは穏やかな表情で


「柊、大丈夫だ。その件ならもう田中さんが仕上げてくれているから問題ないんだ。」




は?
なんだって・・・?

あの・・バカ女がありえない。

俺は・・・?俺はなんだったっていうんだ?!


あぁ眩暈がする・・・。
バカ女がニヤニヤ笑ってやがる。俺をバカにしやがって・・・。





向坂さんまで取り込みやがって・・・なんで、いつもこうなんだ。
俺だけが・・・
いつもこうなんだ・・・。









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