第21話 女ごころ

文字数 4,203文字

 啓祐side 
誠の母親に、公美子の家まで送って貰い、あっという間に到着。
すると、誠が先に車から下り、ドアを開けてオレが下りやすいように手を差しのべるその手を戸惑いながら(つか)み、外に出ると(うつむ)いたままドキドキしながら無言でお礼のつもりで軽く会釈をし、急に我にかえりさっきまで忘れていた羞恥心(しゅうちしん)がよみがえり、慌ててオレは、誠の顔を合わせる事なく、田辺美容室と書かれている看板目指し、逃げるように小走りで店正面の引き戸を横に引いて開けると中に入った。
外では公美子と誠の話声が近く聴こえてきたので気になり壁に耳をあてて聞く態勢(たいせい)をとった。
どうやらお店の正面まで来ているようだ。 
公美子「飛弾くん!送ってくれてありがとう。彼女、悪気はないから気にしないでね。ただ、シャイなだけだからね」
誠「うん!わかってるよ。あのさ、田辺」  
公美子「何よ?」 
誠「いや、やっぱりいいや、なんでもねぇ」 
公美子「飛弾くん?、、今日、何だか変だよ、、どうしたの?いつもの飛弾くんじゃないから調子狂うよ(苦笑)」 
誠「やっぱり田辺、お前にだけは正直に話すけど、、今までの俺は、本来の自分じゃないから、、その、、今更、信じねえかも知んねえけど、、なんて言うかここ最近、いや多分、、随分前からだと思うんだ、、笑わないで聞いてくれ。啓祐がすげー気になっててよ。相手が男なのに可笑(おか)しいだろって悩んでいたんだ、、だけど啓祐の従妹の啓子ちゃんだっけ?啓祐に激似で、、初めはこんなに取り乱すと思わなかったけど、、(ようや)く吹っ切れたって言うのかな、、今まで悩んでたのが自分でも信じられねえみてえに嘘みたいに吹っ飛んで、、やっぱり俺って正常何だって思ったら気が抜けて本来の自分に戻ったってのが正直なところかな、、」 
公美子「それって、つまり自分がホモ何じゃないかと悩んでたから、平常心を保つためにチャラ男になったり女の子ナンパしまくってたって言うの?」
誠「お前、、笑わねえのか?気持ちわりーとか普通思うだろ?正直にぶっちゃけるとそうなるな、、彼女、啓子ちゃんの存在で以前の俺に戻ったって感じかな、、ようやく本気で好きな女の子に巡り会えた気がするよ。」
公美子「へーそうなんだ。クス」 
誠「そこは普通引くとこだろ?意外な反応だなぁ、、もっと驚くか、軽蔑(けいべつ)するかと思ったけど」 
公美子「要するに彼女とお近づきになりたいってこと?本当の飛弾くんってシャイなんだ」
誠「まあな、、、地毛は元々黒だし、髪染めるの未だに抵抗感あるのに今まで無理して染めてたしな、、そういや、お前はどうなんだよ?啓祐と最近一緒にいるようだけど付き合ってんの?」  
公美子「付き合ってないよ。悩みの相談にのってるだけ。それに親友だよ」  
誠「親友?異性でも親友って言いきれるとこスゲーな、、アイツに悩みがあるなんて初耳だぞ、、なんで俺にも相談しないんだ?」 
公美子「それは、、ううん、、なんでもない、、そのうちわかるんじゃない?そろそろ良いかな?家に入りたいんだけど、そんなに彼女が気になるなら啓祐に直接聞いてみたら?」
誠「あ!わりー、すっかり遅くなっちまったな。わかった、、啓祐についでに悩み事とかも聞いてみるよ!正直聞きにくいけど、またあさって学校で会おうな、、おやすみ」
公美子「うん、おやすみなさい。また学校でね」  
(ようや)く二人の会話は終わったようで、
気づけばオレは、一部始終を引き戸越しの壁際に右耳を近づけて聞いていて、急に胸が苦しくなり、今まで女の子をナンパしてたのは、故意ではなく平常心を保つため?
そうさせたのは自分のせいなんだと思うと、居たたまれなくなり嗚咽(おえつ)が走り、涙が(あふ)れだし止まりそうもない心境に(さいな)まれた。 
正直にオレの秘密を打ち明ける事さえすれば、こんな苦しい辛い思いをしないで済んだかも知れないと思うと、悲しくなったと同時に両思いだと知り嬉しくもあり、ホッとしている自分に気づかされた。  
ガラガラ、外から引き戸が開く音がして公美子が中へ入ってきた。
公美子「啓祐!?そこで、、もしかして、、全部話聞いてた?、、折角のお化粧が台無しじゃない、、涙で睫毛(まつげ)がすごい事になってるよ?マスカラが、ぼろぼろじゃない」
公美子は、右肩にかけている赤い小さなショルダーバッグからテディーベア柄のハンカチを取り出すと、そのハンカチでオレの目を左右交互に拭いてくれた。
そしてつま先立ちになると優しく両腕で抱擁(ほうよう)して頭を右手で撫でてくれたお陰で少しずつオレは、落ち着きを取り戻すが、それでも涙腺(るいせん)はそう簡単にはとまらず、、涙があとからあとから切りもなく滝のように溢れて 
「ヒクッ公美子、ありがとう。オレ、ヒクッいや、ボク、いや、わたしヒクッ頑張るから、ヒクッ誠に胸はって女だって、ヒクッ自分も好きだよって告白出来るよう女の子に女の子らしくなるから、ヒクッ色々教えて下さい。お願いします」 
公美子「わかったから、わたしに任せてその代わり厳しいよ。今の内に覚悟決めて心の準備しようね。女の子に戻る目標期間は最低でも10月中旬までね。」
「え!っあと二ヶ月もないじゃん。幾らなんでも無謀だよ。もう少しゆとりくれると助かるんだけど?なんで期間中じゃなきゃだめなの?なんか公美子、オレに隠してない?じゃなかったわたしに」  
公美子「、、、、」  
しばらく黙り込んでいた公美子は難しい顔になり考え込むと(うなず)き観念したように漸く話す決心をしたようだ。 
その内容は、オレが想像してたよりも衝撃的で、びっくりするような意外な話で面食らった。 
公美子「ごめんね。秀くんに口止めされてたから中々言えなくて」  
「つまり、あの時みた週刊紙の記事に載ってた行方不明の俳優って秀の事なんだね。いくら親父に頼まれたからって、

、、ばっかじゃねえの?」
公美子「啓祐?そんな言い方酷いと思うよ(怒)秀くんは啓祐が大好きだからなんとかしてあげたい一心(いっしん)で啓祐のために演技の勉強と自分に言い聞かせながら大胆にも

して啓祐と同じ立場になり秘密を共有しながら助けたいと思ったんだよ!相手が大切だという強い思いがなきゃ普通、こんな恥ずかしいこと、中々出来るもんじゃないと思うよ。わたしは、啓祐が羨ましいな。そんな風に異性に思われた事ないからね」 
「秀がオレを助けたい一心で、、

知らなかった。ごめん。それにオレのことが好きってアイツが言ってたの?」  
公美子「そうだよ、、、実は秀くんが啓祐に好きな人がいるの初めから気づいてたみたい、それでも必死になって私に協力して欲しいって言ってたの。わたしなら自分の好きな人が他の人を好きだって知ったらショックで辛くてこんな自分にマイナスになるようなこと出来ないと思う。だから、秀くんの気持ちも察してあげて、、わたし、感情的になりすぎたかも知れないね。ごめんね。そうだ!わたしの家に泊まること、おばさんに報告した?」
「まだしてないよ。」  
公美子「お泊まり今晩だけじゃないから約一ヶ月半ね。びっちり至極(しごく)からおばさんに学校に必要なもの全て持って来てもらうよう報告ついでに伝えてね。」  
「うん!わかったよ!だけど公美子?なんか肝心なこと忘れてない?」
公美子「肝心なこと?」 
「世間の目だよ。実際は女同士でも、世間ではそうじゃないってことだから、毎日お泊まりは不味いんじゃ、、」
公美子「そっか、周囲に変な目で見られて問い詰められると啓祐が困るよね、、じゃあこうしない?毎週土曜日は啓子になってお泊まりで、それ以外の日は、学校から帰ったら直ぐに啓子になってうちに通うこと。それなら問題ないでしょ」  
「わかったよ!そうなると部活どころじゃないからふたりで退部届あさって桃先生に渡そう。男装用下着もWebであとで調べたいし、 とりあえず今晩だけ泊まらせて貰うよ。先生!お手柔らかに(笑)」 
公美子「男装用下着?Webで調べる前に啓祐のお父さんに発明品にないか聞いた方が早くない?、、それに女の子に戻ったら男装用下着なんて必要無くなるしそれにお金かけるの勿体ないよ。どうせお金使うなら最近のトレンドファッション雑誌やストレッチの本、美容に必要な物とかだよ。咄嗟の思い付きなんだけど、、カモフラージュとしてメンズファッション雑誌も買うと良いかもね、、」 
「メンズファッション雑誌?たとえばどういう時につかうの?」
公美子「例えば、、教室でファッション雑誌みるとき表紙だけメンズにして中身はレディースって感じにすれば、うまく誤魔化せるでしょ」
「なるほど、、この要領なら他の本読むときとかもカモフラージュできそうだな、、」
早速、スマホで母さんに公美子の家に一晩だけとりあえず泊まらせて貰う事と明日、女の子の姿で帰る事を報告した。
母さん「啓祐が、、女の子の姿で?、、そんな格好で帰宅したら不味いんじゃないの?」
「大丈夫だよ。表向きは、、女の子の姿のオレは従妹の啓子だから、」
母さん「それなら良いけど、、、でも明日辺り台風が来るみたいよ、、、大丈夫なの?まあいいわ。明日も連絡頂戴ね」
「うん、わかった。必ず連絡するよ、、、またね、、おやすみ」
母さん「おやすみなさい」プツンッ電話が切れた。
その後、浴室に案内され公美子が一緒に入ろうというので一緒に入った。
女同士でも普段、独りで入る習慣になれているのでやっぱり恥ずかしいな、、
女物のパジャマを借りてはじめて着てみるがやっぱりなれないせいかむずがゆい。 
二階の客間に案内されて障子を開けてふたりで中に入ると和室六畳の部屋には既に畳の上に布団が敷かれていた。  
公美子「啓祐、、おやすみ」 
「公美子、、今日もありがとう。おやすみ」
お休みの挨拶をお互い済ますと、公美子は客間から出て自分の部屋へと帰って行った。 
オレは、布団に入り今日の事を振り返ると興奮して中々寝付けないでいた。
 
第22話 癒されるも奮闘①に続く
 

 
 

  
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