第31話 青竜会と月明会(改)

文字数 8,964文字

背景side
12年前、季節は冬、白い小粒の雪が神社の境内一面に覆うように降り積もり続けている。
活気ある声が何処からか聞こえて来る。
まだ2歳にも満たない少年がその声のする方へと近づくと茶色い木造の建物が見えて来た。
中を見たくて少年は建物の周りを歩いていると正面に差し掛かる。
正面入り口は引き戸になっており右側にはベニヤ板の素材の看板が縦に吊られている。
看板には墨で「空手(からて)道場(どうじょう)青竜会(せいりゅうかい)」と筆書きされている。
引き戸を開けようとするが思いとどまって右手を引っ込めると再び反対方向(左回り)に歩き出す。
今度は窓を見つけるが高い位置にあるため覗き込むのは困難、しばらく棒立ちになり腕を組んで考え込み周囲をキョロキョロ見廻す。
窓の前に桜の木があるのを見つけ見やすい位置まで登りはじめる。

???side
何かが(きし)む音がしたのでなんだろうと練習の組み手を解くと窓の方に目を向けた。
そこには桜木の枝に座り込んでいる可愛らしい女の子のような顔立ちの少年?がいた。
はじめは女の子かと思ったが服装が、青いダウンジャケットに緑色の毛糸の帽子を深く被りズボンは茶色でモコモコして温かそう。
青い長靴を履いている。どう見ても男の子の服装だ。
そう思いながら俺はその窓の方へ近づこうとしたら
???「(がく)!何をしてる?」
後方から青竜会会長の蓮見(はすみ)(つとむ)こと俺の父親の声が聞こえたので慌てて声のする方へ向き、その場で正座すると「押忍!」と言った。

学side
しばらく会長の指示があるまで動かないでいたがふと先程の少年が気になりチラッと木のある方を見ると少年の姿が消えていた。
何故か嫌な胸騒ぎがして心配になり思い切って会長こと父親に声をかけた。
「会長!すみません。小さい男の子が桜の木の枝に座ってたんですが目を離した隙に居なくなってて、もしかしたら?落ちたかも知れないので様子見ていいですか?」
身内同士でも道場内では師弟なので目上に対して敬語は空手に於いて絶対的ルールだ。
俺がそう言うと会長は正座して(しばら)瞑想(めいそう)し、ようやく口を開き、目を未だに開こうとせずにそのまま
蓮見勉「わたしが見に行くから戻るまでのあいだ組み手の練習をするように」
と指示すると目を開けゆっくり立ち上がる。
俺は「押忍!」と一声、今度はさっきよりも壁に跳ね返るような大きな響く声を発し、両手の拳を自分の肩の位置で同時に前から後ろへゆっくり退き、足を閉じた状態で立ち上がり姿勢を正し合掌(がっしょう)すると一礼して閉じた足を崩すと組み手の練習に再び挑んだ。

勉side
息子が珍しく練習を中断していたのでどうしたのか気になり声をかけると「押忍!」と一声上の空で発していた。
明らかにいつもと様子がおかしいので注意深く監視していたら窓の方を見て取り乱したようになり私に(すが)るような目で「桜の木から少年が落ちてるかもしれないから見ていいですか?」と意外な質問に私は驚愕(きょうがく)したが冷静に対処すべく学には私が見てくるから練習するよう指示した。
学の言うように少年が木から落ちて打ち所が悪かったら一大事。
私は学に指示を出すと足早に外に出ようと引き戸に手をかけ開けると小さな男の子がほっぺを紅くして立っていた。
白い息を吐きながら寒そうにしているので中へ入るよう言い導くと道着の裾を引っ張る感覚がした。
男の子は私の道着の裾を小さな右手で掴んでいた。
「もしかして?桜の木に登っていたのは君かな?」
そう訊ねると男の子は小さく頷いた。
見た感じまだあどけない。
まだ2歳にはなってないのでは?
「そんな事したら危ないよ!親は近くにいるのかな?」
男の子「平気、ボク木登り得意らから、、いらいよ。ボクひとり!たぶんあとれくるよ。」
「兎に角寒いだろう。入りなさい。」
男の子「入っていいにょ?」
「風邪引くといけない。それに見たかったんだろ?」
男の子「うん。ありがと。おじちゃ」
ほっぺを更に紅くして嬉しそうに微笑むので思わずわたしもつられて微笑み返す。
なんて可愛らしいんだ。まるで天使ではないだろうか?
無意識に男の子の右手を握ると中へと(うなが
)
した。
その直後、外から車のエンジン音と共にタイヤに絡むチェーンの(こす)れる音が暫く鳴っていたが徐々に静かになっていくのを感じた。
誰か来たようだ。もしかしたら彼の親御さんだろう。
バタンと車のドアを開閉する音が止むと慌ててズボズボ積雪を歩く音が聞こえこちらに近づいてくる。
引き戸を叩く音と声が同時に聞こえてきた。
???「トントン、、ごめんください。」
息を切らしたような(かす)れた男性の声
私は男の子を握っていた手をはなすと
「坊や、君はここで待っててね。多分君の親御さんだろうから」
男の子「うん」

香苗side
数時間前、神条家にて、、
???「香苗!昨日、仕事の帰りに駅前でポケットティッシュ配ってる大学生くらいだと思うんだが少しでも仕事早く終わらせてあげたいと思って何回も並んでティッシュ貰ったんだがティッシュに入っていた空手教室のチラシが気になってな!啓祐にやらせようかと思うんだが」
夫、啓造はアルバイト中の学生たちの仕事に貢献出来て自己満足の笑みを浮かべ私に言いました。
「あなた!わたしは絶対、反対ですからね。何でそんな野蛮なスポーツをやらせようとするんですか。それでなくても普段から気が気じゃないって言うのに、、もしも何かあった時に傷つくのはあの子なんですよ?わかってるんですか?」
啓造「でも香苗!何かあった時に自分を守るだけの強さも必要だと思うんだ。」
わたしが反対すると自分の都合の良い方へとこじつけて正当化させようとしますが引き下がる訳にいきません。
「だからわたしは初めから反対だったんです。普通に育てればこんな気苦労この子にさせないで済んだんですから」
???「ふたりともケンカダメ!ボク空手やってみてもいいよ。おもちろちょう。この前、パパとテレビみたにょ」
香苗「啓祐!そんなケガするようなスポーツ、ダメよ。」
啓祐「ママ?なんで!?カッコイイにょ」
啓造「啓祐!ママじゃなくて母さんって呼びなさい!」
啓祐「パパ?なんで!?ママじゃだめにゃの?」
啓造「良いからそうしなさい。あとパパじゃなくてオヤジって呼びなさい!ボクじゃなくてオレって言いなさい。」
啓祐「なんで?変にゃの」
「啓祐?別に喋り方はいつも通りでいいのよ。だけどこれだけはママと約束してくれるかな?決してママ、パパ以外の人の前で裸になってはダメよ」
啓祐「なんで?まさおじちゃ、きよおばちゃ、しゅうの前もダメ?」
「絶対ダメ!ママと約束して、指切りげんまんハリセンボンのーます。指切った。良いわね」
啓祐「わかった。約束するからボク空手したい。めちゃカッコいいにょ」
「ダメって言ったでしょ。ケガしたらどうするの?」
啓祐「なんで、ボクがやりたいことパパもママもダメっていうにょ?ボクおママごと好きだけどパパはダメらって、ぬいぐるみほちいけどダメらって」
啓造「それはだな。男の子がおママごとしたら他の男の子にバカにされると思ったからだぞ。啓祐もバカにされたくないだろ?ぬいぐるみも女の子が欲しがるものだぞ!空手は男らしいから俺は反対しない。香苗もいいじゃないか、空手をやらせても」
啓祐「ママ、、」
「啓祐、、(泣)」
わたしは、啓祐の訴える顔を見ると思わず涙腺が(ゆる)み涙が一筋の線となり流れ落ち、無意識に抱きしめていました。
啓祐「ママ、、苦ちいよ。なんで泣いてるにょ?」
「ごめんね。いつかは話すから今はどうしても言えないの。だけど空手だけは絶対ダメよ!啓祐が傷つくから、ぬいぐるみは買ってあげるからパパには内緒よ」
啓祐「ママ?ボク傷つかにゃいにょ?変にゃの。ぬいぐるみ嬉しいけどボクが持ってちゃおかしいでちょ!ボク、男の子だからがまんできるにょ」
「啓祐!違うのよ。ホントはあなたは、、なんでもないわ。男の子が持っててもおかしくないわよ」
啓祐「ホント?じゃあほちい!空手どうちてもダメ?」
「ダメよ!あなたを思って言ってるのよ」
啓祐「ママのわからずや」
そう言うと玄関へ向かい表を飛び出して行きました。
わたしは慌てて啓祐を捜しに外に出ようとしたら
啓造「あとは俺に任せてくれないか?どこに行ったか見当はついている。きっとここだよ」
夫はそう言ってポケットティッシュの中からチラシを取り出し広げて私に向けてみせました。

  



学side
啓祐と出会ってから早いもので7年の歳月が経過していた。
父、会長の話によればあの時、父親が来て月謝を払い申込に来たそうだ。
その翌日、母親が来て月謝を返して欲しいと私は主人から申し込んでたなんて聞いてませんと言いに来て何故か空手を習わすのに反対していたそうだが、そのあと、父親が来て夫婦で言い合いになり揉めたようだ。
父はふたりの間に入り何とか(なだ)めて渋々母親は承諾(しょうだく)したそうだ。
そしてあれから丁度、今日が7年目の冬、もうすぐ啓祐の両親が来ると言うのに当の本人は行方不明。
アイツいったいどこ行きやがった?
もしやと思い例の桜の木へ向かうことにした。
木に近づくにつれ(すす)り泣く声が聞こえて来る。
「おい!啓祐!やっぱりそこに居たのか?なんで泣いてんだ?」
啓祐「学にい?オレ、、別にないてねえよ、、ヒック」
俺は啓祐が居る枝のところまで登ることにした。
登りきり啓祐の隣に座る。
啓祐の顔を見ると泣き過ぎて目が真っ赤で顔も真っ赤、ホッペも真っ赤でまるで林檎のようだ。
「啓祐!嘘ついても無駄だぞ!いったい何があった?もうすぐ両親来るんだぞ!そんなところにいたら困るだろ?」
啓祐「学にい!空手辞めたくないけど辞めなきゃいけなくなったんだ。ヒック!あと、、やっぱり、、言えない、、ヒック!今までのようには、もう無理なんだ。」
「辞めたくないならそう親に言えばいいだろ?それに勿体ないだろ?折角、黒帯になったばかりでこれからって時に、、その年齢でなるのは凄いことなんだぞ」
啓祐「オレ、、他の奴と違って腕力ないから必死だったから、、学にいは、、例えば今まで思っていた自分じゃないって知ったらどうする?それを受け入れる?まだ小学四年のオレじゃ、、わかんねぇよ、、ヒック!あのさぁ学にい?」
泣きながら言う啓祐に首を傾げて
「なんだよ?あと意味わかんねぇこと言って、お前?今まで思っていた自分じゃないってどう言う意味だ?」
そう問い詰めるといきなり抱きついてきたので後ろへ落ちそうになると慌てて太目の木の枝に右手で掴む。
啓祐は俺の胸に顔を()もらせ身体を震わせながら泣いているのでコイツの頭をさり気無く撫でてやった。
ふと俺は思いついたように思い出話のつもりで話す事に、コイツが笑い飛ばして元気になると思った訳だが
「そういやさ、お前、覚えてるか?クリスマス会の時、女装する羽目になったのにお前、嫌そうなこと言いながら結構乗りが良かったよな!あれってさ!本当はまんざらじゃなかったとか?例えば本当は女の子だったとか?そんな訳ねえか?笑えない冗談だよな?他の話に変えるか、、笑えそうな事って他になにかあったかな?」
そう考え込んでいたら元気になるどころか益々、啓祐は意外な反応でいるので
「学にい?なんで?知っ、、知ってるの?ヒック、、なんで?そんな事、今、言うんだよ、、ヒック、、オレ、、学にいが好き!、、だから辞めたくない。ずっと男のフリしちゃダメなの?」
思ってもみない言葉が返って来たので思わず言葉を失いかけ数秒沈黙になると再びなんとか話かけることを試みる。
「啓祐?今、なんて言った?お前?、、マジ?女なの?」
俺は我に変えると慌てて抱きついてきた啓祐を軽く押し退けた。
啓祐「学にい?なんで?」
啓祐は首を傾げて涙目で俺に訴えて来る。
そう言われて見ると啓祐って可愛いよな?
なんで今まで気づかなかったんだ?
いや、なんとなくわかってたのかも?
はじめて会った時からやたら可愛い子だな。
って意識してたしな。
今思えばアレが俺の初恋なのかもしんねえけど、
今はそんな事を思っている場合じゃ、、
「なんで?って、不味いだろ?お前女なら男にむやみやたら抱きつくんじゃねぇ、、それにお前、今まで自分で疑問に思ってなかったのか?他の男子と違うって」
頬を染めて恥ずかしそうに
啓祐「////!っ、、えっと、、笑うなよ!、、いつか生えてくると思ったんだ!だって親父がオレのこと男だって言うから、、だからおママごともするな!ぬいぐるみ欲しがるな!って言われた!母さんだけはいつも味方して泣いてたけど」
「そっか!そんな風に言われたら信じちゃうよな。笑わねえよ、、だからなんだな、お前の母親が空手するの反対した理由がわかったよ。お前は本当はクリスマス会の時、本当は嫌じゃなかったんだな。女の子の格好になれて凄く嬉しそうだったもんな。父親のエゴでずっと我慢してきたんだな。お前は俺の事が好きって言ったけどきっと兄貴として好きなんだよ。お前は本当に空手好きでやってたのか?父親に言われたからはじめたんじゃねえの?本当に好きなら女の子に戻ってからでもいいんじゃねえの?」
啓祐「学にい?オレ、、確かに色々我慢して来たけど正直、初めは空手は親父にやるよう言われて始めたのもあるけど嫌で始めた訳じゃねえよ。練習すればする程、段々面白さがわかってきて強くなる度に達成感が生まれて自信が持ててめちゃ嬉しくて楽しかったんだ。嘘じゃねえよ。いきなり昨日、母さんに本当は女の子なんだからって言われて信じたくなかった。でも自分でもなんとなくわかってたのかもしれない。でも母さんに今は大丈夫でも身体が変化したら誤魔化し切れないってあそこまで言われたら、辞めるしかないんだって、自分に言い聞かせるけど、だけど本当は辞めたくなかったんだ。ヒック、、ずっと続けたかったんだ。」
やっぱりコイツ、女の子なんだな。
長いこと男として育てられても、心は凄く(もろ)く壊れやすい普通の女の子なんだ。
それを知ったとき、守ってやりたい。
でも俺を好いているのは正直嬉しいが今は兄貴として彼女の悲しみを受け止めようと思った。
「しゃあねえなぁ。少しだけだぞ、、」
手を差し伸べ、啓祐に向かって言うと再び、抱きついてきて俺の胸で啜り泣き続けた。
俺は優しくコイツの頭を撫でる。
俺は、やっぱり初めて会ったときからコイツの事が好きだったんだな。
凄く胸が熱くドキドキして、このまま離したくないと思った。
だけどコイツが世間では男として生活している以上今は、俺はコイツの兄貴でいい。
いつか女の子に戻ったその時には正直に告ろう。
そういや、思い当たることいっぱいあるな。
啓祐のお袋さん、あんなに空手反対してたのに積極的に大会の役員して駆けずり回ってたなぁ
啓祐の為に個室貸し切ったり奮闘してたような気がする。
あれは啓祐の秘密を必死に守るためだったんだと思うと、、
(むし)ろおばさんが言ってる事は正しい。
世間では男として生活して居る以上、このまま空手を続けて万が一秘密がバレた時、真っ先に傷つくのはコイツだ。
おばさんの気持ちを思うと別れたくなくても引き止める権利は俺にはない。
気の利いた言葉をコイツにかけることも出来ない。
どうすればコイツは元気になるんだろう。
とりあえず、今思っている事を言うことにしよう。
「啓祐!俺も反対だよ!女だってバレたらお前が傷つくんだぞ。さっき言ったように女の子に戻ったらまたやればいいじゃねえか、、俺はいつでも待ってるから、、兄貴としてな!いつか啓祐も本当の恋をするようになるんだろうなぁ、、兄貴として楽しみだ!きっと再会した時は見違えるような美女になってるんだろうな」
思ってもみない事を口走ってしまった。
コイツに俺以外に好きな奴が現れてたまるか
啓祐「学にいのこと好きな気持ちって恋じゃねえの?こんなに好きなのに」
「マジで言ってる?恋ってのはそばに居るとドキドキ心臓が爆発してこんな風に抱きつけねえよ。」
啓祐「ドキドキ?心臓が爆発?よくわかんねえ」
「だろ?だから恋じゃあねえんだよ!ただ兄貴として好きなんだよ。俺はドキドキしてるけどな」
啓祐「え?///なんだろ?急に胸が熱くなってこれが恋?」
「え?////啓祐?////それはきっと違うぞ?たぶんドキドキしてるって俺が言ったからだ!勘違いすんなよ?俺のドキドキは急にだな、、お前を女の子として意識しちまっただけだからな」
啓祐「じゃあ、オレも学にいのこと異性として意識したって事なのか、、恋って複雑だ!なんかいつか空手やれるかも知れないって思ったら涙腺乾いちゃった。学にい!胸貸してくれてありがとな。うん!いつか道場に帰ってくるよ!待っててくれよな!兄貴!再会時、美女になってるか期待すんなよ」
そしてあれから更に5年経ち現在、俺は高校二年生になっていた。
思いもかけない場所で啓祐と再会する。
それは、父と軽井沢ショッピングプラザ内で母からお使いを頼まれ二人で買い物済ませ立ち寄った福栄というラーメン屋でだ。
父は啓祐が、女の子だと言うことは知らないので出来るだけ目を逸らしたが、
勉「学!向こうに腰掛けてる女の子、啓祐くんに似てないか?その隣に居る女の子凄く目立つな!今、あのファッションが流行ってるのか?今の若者は恥じらいとかないのか?それにひきかえ啓祐くん激似の女の子はセンスがいいな。凄く落ち着いていて可憐だ。」
俺は思わず苦笑いした。
幸いにも父は俺が苦笑いしてる事やこの女の子が啓祐本人だと気づいていないようだったが、、
さりげなく啓祐を見たら目が合ってしまった。
彼女は青い顔をしていた。
そんなに俺たちに会いたくなかったのか、、
それとも女の子に戻った姿を見られたくなかったのか、、
勉「どうした?学?」
「別に、、なんでもないよ?腹減ったな!父さんはなに食べるか決まった?」
上手く誤魔化して父さんの目から視界を妨げるよう自販機の方へ然りげ無く誘導する。
しかし、啓祐すっかり見違えたな。
面影はあるけど凄く可愛くなってたし、他の男性陣に注目されてるよな。
あれだけ美人になってたら納得だ。
連れの女の子も、、それなりに可愛いけど、、
そろそろ道場に戻ってくるのかな?
だとしたら俺のとこに連絡よこすよな。
なんだか気になる。
あとで神条家に連絡してみるか?
そんな事を考えていると
勉「学?どうした?さっきからボーとして、早く食べないと伸びるしラーメン冷めるぞ」
父さんの声で我にかえると無意識に席に座っている事に気づいた。
え?いつの間に?
父さんが変に思うのも(うなず)ける。
「あ、、ごめん、ちょっと考え事してただけなんだ。たいした事ねえから、、安心して」
勉「そうか、それなら良いが心配事があるなら父さんに相談しなさい。」
そう言うと止まっていた右手が再びお箸を掴み、麺を口へと運ばれ中へと入り美味しそうにすする。
「ありがと、そうするよ」
俺もテーブルに置いてあるお箸を掴むと食べ始めようとした時、椅子がズレる音が聞こえる。
その音の方をチラ見すると彼女たちは席から立ち上がり身支度をしていてこれから帰るようだ。
また、啓祐に会えるだろうか?
次会う時は、父さんがタイミングよくいない時に話しかけてみるか?
そう思いながら麺をすするのだった。

背景side
築30年の1Kアパートの周りには、台風の名残で無数の彼岸花は静寂の中で元気よく見事な紅を空中に漂わせている。
そのアパートの204号室のドアに近づくブラウン系トレンチコート、紺のスラックスの身長162くらいの30代前半の(くるぶし)の長さまでの短めの黒いボブヘア女性は、左横のチャイムの方へと右手を伸ばし人差し指で押す。
数分後内側から身長170くらいの15才の少年がラフな服装で顔だけ出す。
容姿は青い英文字の入った白いトレーナー、紺のGパン。
彼はドアを開けその女性は中へと躊躇(ちゅうちょ)なく入る。

飛騨誠side
???「まーくん!お久しぶり、しばらく見ないうちに大きくなったんじゃない?」
今日はお袋の誕生日とあって丁度1年ぶりに我が家に遊びに来ていた多江(たえ)おばさんが言った。
多江おばさんはお袋の幼馴染で親父の元相棒だった。
つまり刑事だ。
そして俺の空手の先生でもある。
俺が多江おばさんに初めて会ったのが赤ん坊の頃らしいが覚えていない。
物心ついた時から多江おばさんから空手を習っている、現在も空手は週一必ず通うようにしている。
月明(げつめい)会館内に空手教室がある。
そこに定期的に特別コーチとしておばさんは空手を教えに来ているのだ。
茜「多江!いらっしゃい。今日は来てくれてありがとね。高そうなケーキまで申し訳ないわね。ご馳走さま。そうそう、この子ったら髪の色黒く戻したからどうしたのか問い詰めたらどうやら彼女できたみたいなのよ!」
多江「へー、まーくん!どんな子なの?」
「お袋、余計な事言うなよ!まだ彼女になってくれるかわかんねぇし、、ようやくデートする約束出来た感じでまだ進展してねえのに、、どんな子って言われても、、あんまりしゃべってないしな。そうだな、、可愛いよ、、大人しい感じかな」
多江「へー、あのシャイなまーくんがねぇ」
多江おばさんこと長谷部(はせべ)多江(たえ)巡査は親父の一つ下のお袋とは同い年で、幼稚園からの友人だ。
お袋と親父の初めての出会いは合コンらしい。
多江おばさんがお袋を合コンに誘ったのがキッカケだそうで、親父もお袋も恋愛に関しては奥手で二人を見兼ねた多江おばさんが二人を引き合わせる事にしたそうだ。
そして会館内の空手道場なら個人経営じゃないので月謝が安いとあっておばさんより月明会を紹介され通いはじめて今に至る。
正式名は国際玄制流空手道連盟 月明会 総本部道場
有名なオリンピック選手も小さい頃から通っていたという事でかなり有名らしい。
多江おばさんから聞いての話だが
多江「で、まーくん!デートはいつ行くのか決めてるの?土曜日行くなら予め空手の練習のお休み連絡当然したわよね?」
「当然だろ!」
多江「応援してるわよ」
そう言うと台所の椅子に腰掛けてお袋がいつの間にか入れたブラックコーヒー入りの白いマグカップを右手でひと口飲むと静かにテーブルの上に置き、両腕を横へ引き寄せ枕を作るとその上に顔を伏せ寝てしまった。
きっと夜勤明けで疲れていたんだな

第32話 誠と初デート①に続く












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