第30話 初デート予行練習④(改)

文字数 8,267文字

啓祐side
翌朝、目が覚めると本が無造作な状態でページが開いたまま仰向けになっているオレの身体の腰位置あたりで落ちているのを見て寝落ちしたことに気づくと左腕に着けたままの腕時計に目を移した。
「もう9時か、、起きねえとな」
窓ガラスは昨晩と違い静まり返っていた。
どうやら風が穏やかになったようで昨日は竜巻注意報があったけど突風だけで済んでホントに何事もなくて良かった。
かなり風強かったしな、、
そういや、美登里起きたかな?
今日は、前もって約束していたデート予行練習の9月16日日曜日なのだ。
美登里が起きないと準備が(はかど)らない。
身体を起こし朝の陽射しが閉めきった窓の隙間から漏れるのに気づくと、ベッドから下り軽く両腕を伸ばし、欠伸をすると窓へと向かった。
窓のサッシの方に右手を伸ばすと鍵に触れて掴み半回転に手前へ下ろし、窓ガラスを右手でスライドし開ける。
そして、身体全身で陽の光を浴び、再び伸びをした。
眠気眼(ねむけまなこ)で外の天気を(うかが)うと、どうやら昨日の暴風が嘘のように穏やかに吹いていて雨雲ひとつもなく青々とした空には綿菓子のようなふわふわとした雲が浮いていた。
まさに外出には最適なポカポカ陽気で今日は昨日と比べて恵まれていると思い嬉しく感じた。
ふと昨晩読んだ本の内容を何処まで覚えているか声を出してみる事に、、
「えっと女性は夜更かしは厳禁、、お肌のトラブルの原因となる、、あとなんだっけ?」
そうおぼろ気な記憶に悩まされていると、ドア越しからノックの音が二回ほど聞こえてきたので振り返る、、
???「啓ちゃん?起きてる?」
「美登里?おはよう!起きてるよ。っで何時に駅に行くんだ?シュミレーション前もってきめてたんじゃなかったのかよ。じゃなくてなかったの?流石にこの時間は遅えだろ?じゃなくて遅いよね?本番の日、駅で8時に待ち合わせなんだぞ!今、9時回ってるし(汗)予行練習って言ったら普通本番さながらにするもんだろ?」
美登里「そう言う啓ちゃんだって起きたの遅かったんじゃないの?」
図星だったのでこれ以上返せない。
「それはそうだけど、、」
美登里「文句はあとあと、、入るよ」
そう言うと美登里はドアノブを外側から引いて開けて部屋に入って来た。
美登里「まだパジャマのままなの?早く着替えてあんまり時間がないんだから」
「だってなに着ればいいか、わかんねーし」
美登里「啓ちゃん、、しゃべり方が男の子になってるよ、、クス」
「はいはい、しゃべり方直すよ。わかんないし。だろ?、、そんな顔すんなって」
美登里が眉間(みけん)(しわ)を寄せて呆れ顔になっている様子をみてわかったよ!とばかりに観念していい直す事にしたオレ
「だってなに着ていいか、わからないし。で間違いないよね?そんな顔しないで」
美登里「分かんないもなにも昨日着てた服で良いんじゃないの?
オレはふと思いついたように以前公美子と一緒にショッピングプラザに行った時に貰ってきた案内マップ付きパンフレットに行った順に丸で囲った事を思い出しクローゼットの方へと足を運んだ。
クローゼットの中からおばさんに貰ったピンクのバッグを取り出し蓋を開けて中身を目で確めると右手をその中へと突っ込み手探りでそれを取り出し美登里に渡した。
それを両手で受け取ると早速、右手でペラペラ(めく)り、目でそれを追っている美登里の手が止まった。
美登里「これってショッピングプラザの案内マップじゃない、、この丸で囲ったシルシなんなの?」
「公美子と一緒に行った箇所だよ!」
美登里「この矢印は?」
「行った順番に矢印で書いたんだけど、、この時、、オレ、、じゃなかった、自分は丸で囲むのに必死でこのアルファベットまで気づかなかったからどんな意味なんだろうと考え込んだらどの辺なんだろってわからなくなったってゆーか」
美登里「大丈夫だよ!これだけ分かりやすく丸で囲ってあれば、、それにこのアルファベットは啓ちゃんが言うように意味はあるよ。例えばここのFC はフードコートの事でレストラン街を指しているし、要するに分かりやすくアルファベットでエリア分けしてるって事だから、、」
「そうなんだ。なるほどなぁ」
美登里「啓ちゃん、随分駅から遥か遠くの店だけど、、しかもニューウエストの2階って言ったら遥か北の方角だよ!この店なんて店?」そう言うと美登里は丸で囲ったスタート地点の位置を右の人差し指で指すと質問してきたので
「そんなに駅から離れてるの?マジで?確か始めにスタートした店だから婦人用下着専門店だよ」
美登里「下着専門店って下着売ってるのそこしかないの?そんな駅から離れてたら普通気付くでしょ?」
「公美子に任せてあと付いてっただけだし、めちゃなれない服着て緊張して羞恥で周りまでちゃんと見てる余裕なんてなかったし、し、知らねえ、、わからないよ」
美登里「呆れた。まあ良いわ!シルシつけた順番通りに行きましょう。今から決めてたら更に遅くなりそうだしね(笑)」
「うん、、任せるよ」
美登里「そうと決まったらさっさと着替える!」
パジャマを()ごうとするので
「自分で着替えるから大丈夫だって、、美登里も早く着替えて来いよ!」
美登里「着替え手伝うから、、その方が早いって」
「やめろって恥ずかしいから」
美登里「今更恥ずかしがらない。一緒にお風呂入ったでしょ。それに、、ジャーン、、メジャー!」
ドラえもんのようなのりでメジャーを見せると
美登里「ついでに胸囲測っちゃお、、今持ってるブラジャーじゃきつそうだしね(ニコッ)」
なにかを企んでるような笑顔にゾクッとするオレだった。
そしてドア越しからノックの音が三回ほど聞こえてくると
???「二人とも朝御飯出来てるよ!下りてきてね」
どうやら公美子がオレ達を呼びに来てくれたようで
「うん、教えてくれてサンキュー、公美子先に食べてて。オレたち暫くかかりそうだから」
公美子「わかった。ママにはそう言っとくね」
階段を下りていく音が聞こえる。
オレはいつの間にか美登里のペースに捲き込まれ
「、、////わかったから、、早くしてくれ!」
美登里「(ニヤ)」
悪戯しかけてきそうな気になる微笑を浮かべ再びパジャマを掴むと凄い勢いで引っ張り()ぎ取られ肌が(あらわ)になると美登里はオレの胸をじっと見るので恥ずかしくて咄嗟(とっさ)に両手で胸元を隠すが、、
美登里「、、、うらやましい、、どうしたらこの短期間でこんなに大きくなるの?」
「そんなこと知るかって、、恥ずかしいから見んなよ!さっさと測れって!」
美登里「なんだか、、可愛い、、リアクションなんだけど
「////茶化すな!早くしろよ!」
オレが恥ずかしさのあまり顔が火照(ほて)って赤いから美登里はいつもよりもかなりしつこく(いじ)って来る、(ようや)くメジャーを引っ張りだしある程度長めに伸ばすと躊躇(ちゅうちょ)なく
美登里「啓ちゃん!手を上にあげてくれないと測れないんだけど、、」
そう言われ渋々それに従うため徐々に両手を胸元から離し上にあげることにした。
思いきり胸が丸見え早くしてくれと思いながら羞恥(しゅうち)を我慢しているオレの様子を見るなり美登里は再び苦笑いを浮かべている。
わざとなのか美登里はゆっくりとメジャーをオレの胸元前に持ってくるとハイスローで胸にメジャーをあて少しずつずらしながら引っ張っていきメジャーの最終地点まで胸元の谷間までくると
美登里「なるほどね、、終わったよ」
とのんびり言うので
「お前、わざとのんびりやってるだろ?恥ずかしいから早くしてくれって言ってんのに」
美登里「だってこんな可愛いリアクションそう見れるもんじゃないでしょ?終わったから着替えて良いよ」
「お前な、、(怒)」
思わず殴りたいと思ったが()えているので右手が震える。
美登里「早く着替えたいんじゃないの?先輩待ってるから急いだら?、、それとも手伝おうか?」
また苦笑いを浮かべながらいやらしい手つきで右手の指を一本ずつ上下に動かす様子を見てまた嫌な予感がし悪寒が走ったので慌てふためきクローゼットへ向かうと昨日着てたワンピをハンガーから両手で引き抜き素早く着終えた。
美登里「はぁ~つまんないのぅ~」
凄い残念がる美登里を見て
「やっぱりお前楽しんでただろ?」
美登里「ニコッ、、さあなんのことかな」
相変わらず知らばくれて誤魔化そうとするので怒りを通り越して呆れてしまった。
美登里「いっけない!あたしも着替えないと、、じゃまたあとでね!啓ちゃん!」
そう言うと部屋から出ていき、隣の部屋の障子を開閉する音だけが残った。
オレは安堵の溜め息を吐くと忘れ物がないかチェックした。
「よし!あと靴下履くのと上着をクローゼットから出すだけとウィッグとメイクだけだな」
これで準備は自分が出来る範囲までは整った。
いざダイニングへ、美登里はまだかかっているようで和室から出る様子はない。
そこで待たずに先に階段へ向かおうとしたら後ろから(せわ)しなく駆け寄ってくる音が聞こえ、振り返ると可愛いフリルのついたピンクのワンピ姿の美登里でメイクもナチュラル系で決めていた。
「美登里、それってもしかしてオレがおばさんから貰ったロリータだよな。胸がはだけてないしこれならオレでも着れそう」
美登里「そうだよ。先ずは仕立て済んだから着て見せた方が口で説明するよりわかりやすいと思ってね。、、!ところで啓ちゃん!しゃべり方、、また男の子になってるよ。」
「悪い、、めちゃ興奮して意識してなかった。だってめちゃ自分好みのデザインになってるから、、」
美登里「意外!啓ちゃん、可愛いの好きなんだね」
「意外で悪かったな!今まで(おもて)に出さなかっただけだよ。」
美登里「そっかバレないように必死だもんね。さて一緒に下りよう。!っ 啓ちゃん!歩き方大股になってるよ。内股に歩く練習からだね。今日は、、」
やっとダイニングに入ると公美子のママが声をかけてくれて
陽子「啓ちゃん!おはよう、、昨晩は遅かったみたいだけど良く眠れた?」
「おばさん!おはようございます。まあなんとか」
陽子「美登里ちゃんもおはよう!?え?もしかして?それってわたしが啓ちゃんにあげた筈の服じゃ?なんで?美登里ちゃんが着てるの?それに?なにかしら?この違和感は?」
美登里「おばさん、この服、啓ちゃんからお借りしただけなので、気にしないでくださいね。」
陽子「そうなの?それにしてもさっきから気になる違和感ってなんなのかしら?」
公美子「ママ?みんな揃ったからさっさと席に着いて食べて啓祐の準備してあげて!きっとたいした事ないんじゃないの?その違和感?」
陽子「きっとそうね。わたしの思い過ごしね。早く食べちゃいましょう!」
陽子おばさん、公美子、オレ、美登里と順々に席に着いた途端、美登里は舌を出して笑みを浮かべていた。
おばさんが気づかないのをいい事に、、
おばさん、ごめんなさい。折角貰ったロリータ服を勝手に改造してしまって頼んだのはオレだからオレにも責任あるしと心の中で謝罪した。
なんかおばさんにうしろめたさで(めん)と向かって謝りづらくておばさんのガッカリした顔が頭に浮かぶと尚更言いづらい。
陽子「啓ちゃん?手が止まってるけど、、何か悩み事でもあるの?」
「え?、、いえ、なんでもないです。あの、、悩みってほどじゃないと思うんですが、その、言いにくくて////ブラジャーきついのでノーブラで直にワンピ着てしまってなんか落ち着かないって言うか」
陽子「なら洋服の下にTシャツ着てみたらどうかしら?」
「え?Tシャツですか?おかしくないですか?」
陽子「可笑しくないから騙されたと思って着てみてね。さてとご馳走さま。啓ちゃんが食べ終えるまでにメイク道具やTシャツ準備しとくわね。」
そう言うとおばさんは立ち上がりドアへ向かいドアノブを握ると内側へ引き開けると退室した。
おばさんが先程まで座っていた椅子の前のテーブルの上には食べかけのトーストが一枚お皿に残っていてマグカップの中の飲みかけのコーヒーにはまだ湯気が上昇していた。
さりげなく壁時計を見ると10時になっていてあれから一時間経過している。
マジか、、こんな調子で当日大丈夫なのかな?
兎に角不安だけが脳裏を駆け巡り
美登里「あれ?啓ちゃんもう食べないの?」
再び手を止めてぼんやりしているオレよりもオレの前に置いてあるトーストが乗っているお皿が気になる美登里は唾を飲み込み食べたそうにしているので
「美登里?これ以上食べたら太るぞ!」
美登里「いや!啓ちゃんにだけは言われたくない。それに我慢って良くないんだよ。食べたい時に食べないとトーストも浮かばれないよ。だから食べないならあたしが食べてあげないとね」
「誰が食べないって言ったよ!ちょっと考え事しただけだろ」
公美子「まあまあ二人とも朝から何揉めてんの?さっさと食べないとどんどん出掛けるのが遅くなるでしょ?」
俺、美登里「はーい!」
返事が偶然にもシンクロしていて
思わずお互い目が合うとさっきまで揉めてたのが嘘みたいにふたりで吹き出していた。
そして数分後食事も済み、おばさんからTシャツを借りて着替え直し、更におばさんにメイクや髪をセットして貰い終え、店の玄関前までくると
陽子「啓ちゃん、忘れものはない?大丈夫?」
「はい、大丈夫です。お仕事お休みのところありがとうございました。」
ぎこちなく固まっているオレを察したのか公美子は心配そうな顔で
公美子「啓祐、そんなに緊張しなくて大丈夫だからね。何かあったら美登里ちゃんを頼ればいいから」
そう言う公美子を安心させようと美登里は
美登里「はい!先輩!任せて下さい。あたしが見違えるようにレディにして帰ってきます。」
三人はそれぞれ言いたいこと言い終えると公美子は笑顔で玄関先でオレたちを見送ってくれて
オレはそれに応えるように頷く事しか他に言葉が見つからなかった。
そしてバスの停留所迄、無言で森の中の歩道を歩き続ける事20分、(ようや)く目的の停留所に着くとお腹が鳴り出した。
美登里「ぷっ、、もうそろそろ1時になるよね。お腹空くよね。」
「笑うなってそう言う美登里だってお腹鳴ってるだろ」
ふたりのお腹の虫が止みそうもない。
軽井沢駅南口行きのバスが見えて来た。
美登里「ホントだ、、(笑)到着したら何か食べようね。」
そしてバスに乗ること20分ほど経過すると右側の車窓から駅が見えて来たので右隣で寝ている美登里をそろそろ起こそうと構えていたら
「そろそろ着く頃よね」とスッキリした顔して美登里は言った。
なんだよ!起きてたんだったら言えよな!と思いつつも料金入れに小銭を入れバスから降りた。
降りると日曜日と言うだけあって目の前に広がるショッピングプラザの屋外駐車場は満車状態だ。
このあいだ来たとき、こんなに混んでなかったよな。
そんな事を考えていると美登里の口が開いた。
美登里「啓ちゃん?流石がにずっと立ってたから歩くのしんどくない?案内マップ見せて」
バスも混雑してたのでずっと立ちっぱなしだったのと空腹の我慢の限界まできたようで眉間に皺を寄せそのようにぼやく美登里。
そんな美登里にオレはピンクのショルダーバックからマップを右手で取り出すと渡そうと美登里の目の前に持って来る。
美登里は「ありがとう」と言うとそれを右手で上の方を掴むように受け取った。
すると猛スピードでペラペラ捲っているのでオレはその様子を目で追うのがやっとだ。
美登里「啓ちゃん?ラーメンでいい?このマップみるとラーメン屋が一番駅に近いよ。」
オレは大きく頷いた。
オレもかなり空腹に(さいな)まれている状態、この際、どこでもいいやと思ってしまったのだ。
食べる場所が決まると立ち止まっていた美登里の足が動き出したのでオレも慌てて美登里の後をついていくことにした。
人とすれ違う度に美登里は振り返られて見られている。
やっぱりいくら胸元の襟ぐりの深さ詰まらせてもそもそもロリータ服って独特のデザインだから目立つよな
美登里は気にしてないみたいだし、コイツ鈍感なだけか、、そんな事を考えながら歩いていたら
美登里「到着!着いたよ!何食べる?」
急に大きな声を出すので身体全体でビクッと震わせたものだから
美登里「そんなにビビらなくても、、だってようやく食べれるんだよ?普通テンション上がって大きい声になるんじゃない?」
「お前な!いくら嬉しいからってそんな声張り上げたら周りに迷惑だろ?」
お店の入口には白い暖簾(のれん)ラーメン福栄と記されていた。
「それに、突然、何食べる?って言われても、メニュー見ないとわからねえよ」
美登里「そりゃあそうだ!啓ちゃん、喋り方直さないと、今日しか本格的に練習出来ないんだからね」
「はいはい、わかってるよ。気をつけます。」
美登里「よろしい!さて開けるよ」
そう言うと中腰になり暖簾を(くぐ)りながら引き戸を両手で右側からスライドし開けると中へと美登里の後に続いて入った。
中に入ると木の香が(ただよ)う。
入って直ぐ右横には券売機が設置してあり、美登里は迷う事なくボタンを押し、お金を挿入すると、釣銭口から音をたてながらジャラジャラ出てきてその数秒後、食事券が下の受取口から落ちて来た。
「美登里なに頼んだの?」
美登里「ジャーン!味噌ラーメン定食」
相変わらずドラえもん的に答える美登里に此処(ここ)は笑うとこかな?あとで突っ込まれるのも面倒なので渋々笑みを浮かべると
美登里「なに?仕方ないな的な笑い方してさ」
ムスッとして言葉を続ける。
美登里「、、で啓ちゃんは改めて訊くけど何食べるの?」
「オ、自分は豚骨ラーメン定食」
美登里はニヤけてオレが受取口から右手で掴んだばかりの食事券を右手で素早く奪うとそれを即行で出向いたばかりの二十代の男性店員さんに渡す。
店員さんの容姿は黒地甚平のフードハットを頭に乗せ、上着、ズボン、エプロンを腰に身につけている。
男性店員「いらっしゃいませぃ!お好きな席へどうぞ、二名さま入りやした!味噌ラーメン定食、豚骨ラーメン定食!」
店内全体に威勢(いせい)のいい声が響き渡る。
その声は凄く心地よくて緊張感を忘れさせてくれた。
日曜日なだけあって席は殆ど埋まっていて、
客層は親子連れ、カップル、友人同士と和気藹々(わきあいあい)としていた。
タイミングいいところでカップルが立ち上がり帰る支度をし会計場所へ向かうようだ。
この状況からするとすぐに座れそう。
ラッキー!お腹空き過ぎてこれ以上待つの流石にきついもんな
オレの思っていた通り、空いたばかりのテーブルに今度は三十代くらいの女性店員がお盆を持ってきて汚れた食器などをひとつずつ丁寧にそこへ下ろしテーブルの上を素早く濡れた布巾で拭き終えると厨房へと消えて行った。
この女性の容姿は先程の男性の容姿の色違いで小豆色でエプロンは黒地、そして頭には小豆色甚平三角巾を着けていた。
漸く座れると思うと足取りも軽くなり片付けたばかりの席に座ると3分ほどであの威勢のいい男性店員が料理の乗った配膳車を両手で引きながらこちらに近づいてくるのが見えた。
男性店員「お待たせしやした。味噌ラーメン定食と豚骨ラーメン定食です。以上でよろしかったっすか?」と言って間違う事なく美登里、オレの順に置いて行き美登里が頷くと伝票が挟んだ黒いファイルを置いて行き、出入り口へ向かい、来たばかりのお客の対応をしていた。
配膳車、いつ片付けたんだろう?
え?さっきの店員出入り口行ってたよな?いつの間に片付けた筈の配膳車引いて移動してるんだ?
まるで瞬間移動したかのように出入り口からかなり離れたスタッフルームとラベルが貼られたドアへと向かっている。
美登里「啓ちゃん?どうしたの?ボーとしちゃって手が止まってるよ!」
「あのさ、さっきの店員さん、出入り口でお客と対応してた筈なのになんでいつの間にかあそこにいるんだ?」
美登里「あー(笑)あの店員さんあたしも初めて来た時はびっくりしたけど双子らしいよ」
「なるほどな、ああ、びっくりした!」
美登里「次はなに?顔が真っ青だよ?」
その店員さんが対応している客が今、とても会いたくない親子だからで
「どうもこうも、空手道場の師匠とその息子だよ!女の子の姿だから気づかれはしないかも知れないけど万が一気づかれたらと思うとね」
美登里「大丈夫だよー啓ちゃん、めちゃ可愛いから気づかれないって」
息子の方がこちらを見ている?目が合ってしまった!やばい!気づかれた?え?含み笑い?
そのわりにこちらに近づいてこないのできっと気のせいだと思う事にした。
美登里「啓ちゃん!折角チャーハン温かいのに冷めちゃうよ。わたしは食べ終えたよ。これから色々周るんだからさっさと食べる!」

第四章
第四章 登場人物に続く






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