第32話 誠と初デート①(改)

文字数 7,130文字

啓祐side
美登里と予行練習してから早いもので数週間が経ち、とおとお、啓子として初めて誠とデートする当日の10月6日日曜日の朝を迎えた。
ここ数週間の出来事と言えば、テレビで毎日のように俳優近藤秀司行方不明の真相、その件についての記者会見が行われた。
週刊誌、記事の見出しには行方不明俳優近藤秀司が突如事務所に現れる!と大きく取り上げられた。
近日、新作ドラマの撮影が行われるとあって初の主役に抜擢している秀こと近藤秀司は制作発表の為またまた記者会見をやるそうだ。
公美子から教えてもらった。
今ではすっかり秀はお騒がせ俳優として話題の人で有名になっていた。
公美子は秀から忙しくても定期的に連絡を取り合っているみたいで、もしかして?
ふたりは付き合い始めたのかな?
オレはと言えば本番のデートに向けてひたすら女に戻るための特訓を続けていた。
なれないスカートを家で履いて足を閉じ内股で歩いたり、喋り方を意識してみたり、学校内でも歩き方も意識していたので周囲の人には変な目でみられた。
そんな辛い修行の成果もあり、スカートはようやくなれてきて自然と内股になった。
と言うか成らざるおえなくなった。
親父がいやらしい目で見てくるからで自然と警戒心がつのった。
いよいよ、明日が本番だと言う事で昨晩は女性らしさの本を読んだり、最終チェックとして話し方、仕草などお(おさら)い何度も繰り返し本日の朝を迎えた訳だけど、、 
喋り方は癖でどうしても一人称がオレになってしまうので、凄く不安だ。
今日一日、

は封印しようと

は自分に誓った。
枕元の置き時計を見ると朝の6時、昨晩は緊張して中々寝つけなかったのに意外とすんなり目覚まし無しでも起きれたので自分でもビックリだ。
押し入れの中の突っ張り棒にかかっているハンガーには昨晩準備して置いた、予行練習時に着た茶系のお気に入りのワンピースがかかっていた。
先ずは掛け布団を(めく)り、身体を徐々に起こすと微かに香る甘い匂いに誘われ、窓を開けるため立ち上がる。
窓に近づくと紺色カーテンを右手で右横へ半分引きずらしていく。
カーテンレールがカタカタ音を鳴らし、窓の真ん中辺りの内側についている手動式の鍵の上のツマミを同手で掴み手前へ下ろすと右へスライドして左側を開ける。
開け切ると身体を外へ乗り出して匂いのする方に目を向ける、辺り一面金木犀の花を咲かせているのがわかった。
もう秋なんだな。
そういや、オレ、じゃなかったワタシ、昨晩サラシつけたまま布団に入ったんだっけ?
なんか緊張し過ぎたせいか覚えてないな。
でもなんかいつもより胸締め付けられてない解放感があるような。
え?もしかして?
と思い、いつもサラシが畳んで置いてある筈の枕の右横にあるか見る事に、、
やっぱりないや、首の変成器チョーカーのみ置いてあるだけだ。
でも妙に自分の胸あたりをみると膨らみのラインが、、なんで?
やばっオレ、いや、ワタシ今、思い切り不味い姿で身体を乗り出してたよな?
もし朝倉おばさんがみてたらやばいよな?
いつもの習慣で男物のパジャマ姿なのだ。
しかも、ウィッグ被ってないから思い切り啓祐だし
だけど胸の膨らみ見たら女だってバレるし
おばさんにバレたらって思うとぞっとした。
なんせ、おばさんはお喋りだからあっという間に近所に知れ渡るからだ。
身を乗り出した時、隣近所の朝倉家のバルコニーの状態どうだったんだろ?
見とけば良かった。
今更、後悔しても遅い
カツラ、、じゃなかった、ウィッグどこだっけ?
念のため被った方がいいよな。
でもパジャマいつもの着てるから朝倉おばさんに指摘されたらなんて言い訳しようか?
念のため隣近所の朝倉家の向かいのバルコニーの窓の方を見ると閉め切っていて人の居る様子はないので一瞬ホッとしたが、洗濯竿に干してある筈の衣類がないからなんだか気になる。
もしかして取り込んでる時こっちみてないよな?
考えすぎかな?
きっと大丈夫だ!
そう思ってると緊張感も少しだけとれてきて思い切り両腕を上に伸ばし伸びをして大きく口を開けて欠伸まで出てきた。
こんな姿見たら公美子なら呆れた顔して女の子がみっともないって怒るんだろうな
その瞬間、何かが落ちてく感じがした。
え?サラシ?足元を見るとサラシが落ちていた。
寝てるうちに緩んでたのか、、
そのサラシを両手で拾うと小さく畳んで元あった場所に置くため、窓から離れた。
枕元にそれを置くと足は押し入れの方へ移動、美登里と予行練習時に購入した店のネームのロゴの入ったショッピングビニール袋が押し入れの真下に置いてあるのが目に入る。
その袋を右手で掴みしっかり止めて閉じているテープを剥がし袋を開き中に右手を突っ込み手探りでそれを取り出す。
それを身につける為、上半身からパジャマを脱ぎ胸が露わになってからそれを身につける。
なれないそれをつまりブラジャーを10分程かけてつけるとハンガーの方へ右手を伸ばす為、身体の向きを変え両手で引き抜きぬいたワンピースを着る。
(結局、洋服買う時間がなかったのでいつもの茶系のワンピース)
ロングソックス(下着売り場で購入したモスピンクの長いアクリル製のソックス片面に同色でチューリップが刺繍されていて可愛いくて自分で選んだ奴、結構気に入ってる)は、おばさんに貰ったピンクのストールに揃えて買った物で直ぐに取り出せるようチェストの上から二段目の引き出しに入れてある。その引き出しに右手をかけると手前へ引き、両手でそのロングソックスを取り出す。(チェストも押し入れの中)
そして右足から素早く履いていく。
左足と全て履き終え、置き時計を見たら6時半、思ってたより時間が経ってなくて安堵している時、何かを忘れていた事に気づいた。
窓が開いたまま、カーテンも開いたままだと言うことに、、
いつもなら窓を閉めて、カーテンも閉め直してから着替えるのにこの日に限って忘れるなんて
窓から押し入れまで距離はかなり離れてるから大丈夫だとは思うけど、、
今日は朝からドジ連続だな。
やっぱり寝が足りてないのかな。
あ!?さっさとウィッグも出さないとだな
ウィッグは机の引き出しの中だ。
わかりやすいよう右側の一番上の引き出しの中と予め決めていた。
鍵付きなので仮に家族以外の誰かが部屋に来ても勝手に開ける事は出来ないから安心だ。
押し入れは今後考えないとな。
どうやって女物の洋服を隠すか、、
母さんのクローゼットに入れさせてもらうかな。
しばらくのあいだだけ、それに既に女性用の制服も置かせて貰ってるし、、そうするか、、って
今何時だ?時計を見たらもう7時になっていた。
最近、独り言が多い気がする。
下降りるかな。
さっさと朝ごはん食わないとじゃなかった、食べないとな。
そして、ウィッグを素早く引き出しから出すと猛スピードで階段を駆け下りる。
???「啓祐!いや今日は啓子なのね。パンなら焼けたから早く食べなさいね。簡単なメイクならしてあげられるからね」
そう言う母さんは嬉しそうに涙ぐんでいた。
「そういや今日は親父は?」
母さん「大学にいる将春叔父さんから連絡が来て凄いの発明したからすぐ来てくれって言われた。って言って大学に行ったわよ。」
「そうなんだ。なんか助かった。最近親父オ
、ワタシを見る目がやらしかったからな」
母さん「きゃーめちゃ可愛いわね。流石わたしの娘だわ。ワンピースよく似合ってるわよ。本当に駅まで見送らなくて良いの?」
「うん!その駅で待ち合わせしてるから母さんと一緒にいたら変に思われそうだし」
最後の一枚のトーストを口へ運びながら言うと
母さん「なんだか見違えたわね。以前はガツガツ足開いて忙しなく食べてたのに、しっかり足閉じて手を受け皿のように運んで脇も引き締めて上品に食べてるわよ。母さん、嬉しくて(泣)」
嬉しそうに微笑み返し徐々に泣き出した。
「ごちそうさま!母さん!泣かないで、嬉しいのはわかったから、お皿片付けるよ。」
母さん「流しに運んでくれるだけで良いわよ。あとは私がやるから、それより忘れ物大丈夫?」
「ピンクのバック忘れてた!あとで取りに行ってくる!」
母さん「やっぱり、いいわ。全部わたしがするから出かける準備しなさい。まだ髪セットしてないでしょ」
「かあさん!わりい、、じゃなくてごめんなさい。」
母さん「良いから良いから」
そう言うとさっきまでトーストが乗っていた空の皿と飲みかけのコーヒーを重ねると両手でテーブルから持ちあげダイニングキッチンへ向かう母さんの後ろ姿をさり気無く確認するといったんテーブルに置いていたウィッグを右手で取り鏡のある洗面所へ向かうべくワタシも立ち上がった。
洗面所の前に立ちいつもと違う自分を見て、なんだか急に恥ずかしくなった。
今は恥ずかしがってる場合じゃない。
バスの時間もあるから早いとこやろう。
考えてみたら女らしさとは?の本にメイクの仕方載ってたんだよな。
母さん待ってるより自分でやった方が早く済みそうな気がする。
一応練習したんだしやってみるか
確か練習時にメイク道具が入った小さい花柄ポーチを洗面所に置いた筈、、
それで母さんをびっくりさせちゃおう
心の中で呟くと自分の顔が映っている鏡を見て頷いた。
先ずは右手で掴んだままのウィッグを頭に被り地毛と馴染ませ、公美子のママこと陽子おばさんに教わった事を思い出しながら挑む。
自分で慣れない手つきで腕時計の時間を気にしながらメイクをしていく。
因みに男装時は腕時計は左手首に女らしさの本によれば女性は右手首にする人が一般的らしい。
なので思わず左手首を見るくせが出てしまいがちではあるが我に変えるとあ?そっかと思い右手首を気にしながらそして最後の仕上げに唇にベースとなるリップを塗り終え口紅を塗って完成!
鏡で上唇と下唇を馴染ませる為、上下に摩擦!
「これでよし!とはじめてのわりには上手くいったんじゃねえ、、いやこの場合はいったんじゃないかしら?なんか自分で言うとキモい。舌噛みそうな言いまわしだし(苦笑)」
とさりげなく腕時計を確認
時計はいつの間にか7時20分になっていた。
「やべぇ、、そろそろ行かねーと、、あ!またやっちゃった!」
鏡を見て
「ちゃんと女の子に見えるよな?って元々女だけど
って言ってる場合じゃないってぇの」
自分で言って自分でツッコミ入れてどうすんだ。
さてととりあえず、母さんに見せよう。
バスは確か35分だよな?
ギリギリか、、
駅に8時だから何とか間に合いそうだけど初デートだから余裕もって行きたいとこだ!
メイク道具は洗面所の棚に戻すと母さんが戻っている筈のリビングに向かう。
リビングのテーブルには先程まで置いてあったお皿などきれいに片付けられパンの食べカスも綺麗に拭かれていた。
もしかして?ワタシの部屋かな?
おばさんにメイク教えてもらって良かった。
待ってたら約束の時間に遅れる。
とりあえず、置き手紙でも書いておこう。
早速、ワタシは新聞紙と一緒に積んである裏面無地のスーパーのチラシを見つけるとリビングテーブルの引き出しからペンを右手で取り出し素早く

書くとペンを元の場所へ戻した。
更に時計を見る
「やべえ、、バス間に合わねー、、あ!まただ!焦ると駄目だな」
メモはリビングテーブルの真ん中辺りに置くと玄関へと向かう。
次のバスって何時だろ?
予め調べとくんだった。
玄関の土間を降りピンクのパンプスを履き終えると
「行ってきます。」
と母さんがいないリビングに向かって言うが、
な!なんかわすれてるような?と足が止まった。
そうだ、バックだよ!バックなきゃバス乗れないって、、今の言い回しおかしくないよな。って自分に関心してる場合じゃないって
今、まさにその時だった!
凄い勢いでこちらへ向かうフローリングを走る音が聞こえて来たのは、、
振り返ると
母さん「はぁ(息を切らして)間に合って良かったわ。啓祐、じゃなくて啓子、これ忘れてるでしょ?」
そう言う母さんの顔は汗で(にじ)んでいた。
「母さん、、わりーじゃなくて、ごめん、、自分ついさっき気づいてたとこ、、ところでおかしくないかな?」
そう言って自分の顔を右人差し指で指す。
母さん「あら?見違えたわよ。凄いわね。啓子が自分でやったのよね。可愛いわよ」
「可愛いかな?ありがとう。おかしくないならいいんだ!じゃあ行って来ます。」
そう言いながら目の前に差し出されたピンクのバックを右手で受け取った。
母さん「他に忘れ物ないわよね?」
「大丈夫だよーじゃあね!」
母さん「行ってらっしゃい。気をつけてね」
母さんに向かって手を振り頷くと再び止まっていた足を動かしてドアノブを右手で掴むと手前に引き外へ出た。
腕時計を再び確認!7時50分?やばい待合わせ時間より遅くなりそう。LINEするか
スマホをバックから取り出すと電源を入れ立ち上げること数分、メイン画面のLINEのアイコンを右人差し指でタップ、LINE画面の友達一覧から飛騨誠を選びタップ、トーク画面で文字を打ち込みはじめようとするが一息深呼吸してからにした。
変な緊張感がする。
そのあいだにも時間は止まろうとはしない、焦れば焦るほど言葉が見つからない。
???「啓ちゃん?なにやってるの?玄関の前で」
美登里の声がする方へ顔を向けると
「美登里か、、あのさ、、待合わせ時間に遅れる場合なんて打てば良いかな?」
美登里「どれどれ?貸してみ、あたしが代わりに打つよ」
美登里にスマホを渡した。
物凄いスピードで文字を打ち込んでいるので待つこと1、2分くらいでスマホを返された。
めちゃはえーな。じゃなくて早いな、、か
内容を確認することに


美登里「これなら無難でしょ?難しく考えすぎだよ。タメ口話づらいなら敬語オンリーでしょ」
「サンキュー!それはそうなんだけどいざとなると緊張しちゃって頭真っ白になるんだ」
美登里「啓ちゃん、かわいい」
「別に、かわいくね、、ない」
美登里「仕方ないな。あたしも丁度ママからお使い頼まれてるから一緒に行くよ。そのかわり駅に着いたら解散ね。あたしがいたらおかしいでしょ?」
美登里は珍しくラフな格好なので物珍しそうに見ると
美登里「何よ?急にジロジロみて」
「悪い。美登里っていつもワンピースやスカートだからオーバーオールのズボン珍しいと思ってさ」
美登里「可愛いでしょ?そういや結局あの日、洋服買う時間なかったよね。ごめんね。そうだ。おわびとして早めに誕生日プレゼントとして啓ちゃんが似合いそうな服プレゼントするよ。確か早生まれだよね?何月だっけ?寒い時期だってことはわかってるんだけど」
「美登里、いいって気を遣わなくてさ。」
美登里「あ。ごめん、立ち話なんかしてたら余計遅くなるよね。歩きながら話そうか、バス乗り場近いとはいえ、」
「そうだぞ。じゃなくてそうだよ。」
美登里「クス、あたしといる時は無理して言い直さなくていいよ。疲れない?」
話しているあいだにもバスは数台行ってしまった。
眼と鼻の先にバス停が見えてるのに一向に辿りつかないでいた。
これもついつい立ち止まって話し込んだのが原因で
漸くバス停に着いた。
待つこと3分
軽井沢駅南口行きのバスが右側を見ると遠方からこちらへ近づいてくる。
バスが停留所に止まる。
前後のドアが同時に開くと、
乗客が後ろのドアから次々と降りていく。
ワタシたちはバスの入り口の段差に気をつけながら前側のドアの方から入り、行き先を告げ支払いを済ませた。
このバス停は後払い式と前払い式のバスが交互に運行しているのでよく間違える乗客が多いらしい。
空いている後ろの方の進行方向向かって一番前の左側の窓側にワタシは座り、美登里は通路側に座った。
到着するまでのあいだしりとりをすることになり
美登里「ロリータ」
「た?えっと、、うん?タの付くやつ他にあったけ?」
ワタシが考え込んでいると
バスの運転手「お待たせ致しました。軽井沢駅南口!軽井沢駅南口終点です。お忘れのないようご注意ください」
運転手のお知らせのアナウンスが聞こえてくると美登里は不機嫌になり
美登里「え?もう?まだ決着ついてないよね?啓ちゃんがグズグズするからだよ」
「おい!オ、、ワタシのせいにすんなよ!思い付かないんだから仕方ないだろ。それよりさっさと降りようぜ。お前が先に出ないと出られないだろ?」
美登里「啓ちゃん?いくらあたしには無理しないでいいって言ったけど一人称以外完全に男言葉になってるよ?少しは意識しないと」
「あのなーお前がさっさと出ないからだろ?」
美登里「わかったわよー。そんな怒らなくってもいいじゃない。あたしが悪いのよね。悪かったわよ。こんなとこで喧嘩してたら目立つし謝ればいいんでしょ。ごめんなさい。これでいい?」
そう言うとようやく立ち上がり席から離れた。
ワタシが出やすいように左側へ退()いてくれた。
「確かに目立つのは不味いからここは休戦!ところで今、何時?」
美登里は自分の右手首に()めてある腕時計を見ると
美登里「8時30分だよ」
「え?誠、怒ってないかな?初デートから遅刻になっちゃったから、現に30分も待たせてるし」
美登里「きっと大丈夫じゃないの?それより折角退いてるんだから早く降りるよ。」
「あ!ごめん。人の事言えないや」
慌てて出入り口の後ろドアへ向かい降りる。
駅前の改札口の前の側面が丸い柱に背中を(もた)れ待っているお洒落な容姿の誠が居るのに気づいた。
じゃあね。と美登里は捨て台詞を残し、バスから降りると同時に解散!
美登里は先にショッピングプラザの方へ向かっていく。
ワタシは緊張しながら誠に近づいていく。

第33話 誠と初デート②に続く









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