第22話 癒されるも奮闘①

文字数 6,381文字

 背景side
日付が変わって間もない九月九日日曜日の早朝、全国的に、久々の荒れ模様で、ここ軽井沢も台風の目が近づいている。
森の中に一軒さみしくそびえ立つログハウスに見える洒落(しゃれ)た二階建ての美容院にも強風が田辺美容室とペンキで書かれた看板を風圧が押し寄せ、今にも吹き飛ばされそうである。
  
 啓祐side  
オレは、いつの間にかあんなに興奮してたのに慣れない買い物巡りの疲労のせいかいつの間にか寝ていたようだ。
雨戸に当たるガタガタする暴風と雨の音、布団の中で何かが足に絡まっている事すらも気づくことなく熟睡していた。 
ギャーというすごい雄叫(おたけ)びで流石(さすが)に何事かと思い、驚愕(きょうがく)して重たいまぶたを徐々に開いてみると布団の中から白い毛むくじゃらが一瞬だったので定かではないが出てきたような気がした。
いったいこれは何だろう?と思っていたら、階下からバタバタ階段を駆け上る音と障子が勢いよく開く音でオレは完全に目が覚めた。
すると血相変えてあわてふためいている公美子がそこに居た。
公美子「ここにいたのね。探したんだからね。」 
その毛むくじゃらを(いと)しそうに抱え、それに話しかけている公美子の姿がそこにあった。
公美子「啓祐、、起こしちゃってごめんね。このこ、メインクーンっていう猫の種類だから普通の猫より大きいけどこれでもまだ一才の子猫なんだよ~。名前はミルキー、好奇心旺盛な性格で直ぐに何処かに行っちゃうからずっとここ一週間探してたんだ、、いつの間にか無事に帰って来てくれて良かったよ。ハァ(安堵(あんど)の溜め息)人懐こくてさみしがりやで甘えん坊だから布団の中、知らぬ間に入って来るからわたしもうっかり彼女の尻尾踏んじゃうのは日常(にちじょう)茶飯事(さばんじ)なんだよね。今朝も恐らくそうだよ。踏まれてあまりの痛さにびっくりして泣いて布団から飛び出したんだと思うよ。本当にごめんね。ところで啓祐?猫大丈夫?」
「大丈夫だよ。突然だったからびっくりしただけ、小さい頃から猫好きで親に飼いたいってお願いしたけど駄目だっていわれてて、へぇ、ジャガイモみたいな面白い名前の種類の猫いるなんて知らなかった(笑)子猫でそんなに大きいんじゃ大人になった時、更に大きくなるだろうから育てるの大変そうだね。」
ミルキー「▪▪▪▪ゴロゴロ」
公美子の腕の中で喉ゴロゴロならして顔の回りを前足で掻いて眠そうにしている様子を見ると何だかこっちも再び眠たくなる。
そんなオレに気づくと 
公美子「啓祐!眠いのはわかるけど、あんまりゆっくり出来ないよ!先ずは眠気覚ましにストレッチしようね」 
そう言った直後、気持ち良さそうにうとうとしているミルキーを畳にそっと下ろすとミルキーは即座に身体を丸くしてスースーといびきをかいて寝てしまった。
その様子を公美子は微笑ましく見届け終えるといきなり畳の上にひっくり返る。
公美子「今からわたし、見本見せるから真似してみて、、眠気覚ましに効果的なんだって」
「わかった。やってみるよ」
オレは、掛け布団を(めく)り身体を起こしやすいよう仰向けになると少しずつ立ち上がり、先ずは両腕を同時に真っ直ぐ上げ思い切り伸びをして欠伸をする。
「ヨシ!眠気覚ましに伸びしたから、さっきよりかは眠気半減!お待たせ、、準備OK!公美子、、やってやろうじゃあねえか、、」
オレはモチベーションをあげてやる気スイッチがつくと再び布団の上にひっくり返り仰向けになり、、公美子をみて真似しだした。
先ずは横向きに身体をずらし、胸を張るように背筋を伸ばす。
両手を肩の位置まで上げ、前方へ伸ばして合わせる。
公美子「啓祐、、ついてきてる?流石、部活で鍛えてるだけあるよね?ここまでは問題ないと思うけど、次からはかなりきつくなると思うから吸う、吐くを必ず取り入れてね。」
そう言うと公美子は、股関節と膝を90度に曲げ、骨盤を動かないよう固定している。
それを見ながら真似するが、結構難しい。
公美子「啓祐、、無理なくね、、ここでポイントなのは長くやりすぎないってことだよ」
「公美子って普段からストレッチやってんだな。凄いよ、、オレは、どうしても骨盤が動くからかなり練習しないとだな。、、うん、わかった、、無理なく行くよ」
公美子「啓祐、キツかったら言ってね」
「まだまだ~大丈夫、いけるよ」
公美子「わかったよ。次もひっくり返って出来るストレッチだから、そのままの態勢で居てね。引き続き無理なく行こう」
「了解!先生、引き続き見本よろしくお願いします。」
公美子「OK、、始めるよ。ついてきてね」
再び、公美子の動きをみてまた真似をする事に、、
上の手と頭を後方へ返しながら胸椎(きょうつい)を開く。
周辺からひねり、胸の筋肉を伸ばす。
肩が床についたらゆっくりと元の位置に戻す。
総合のポイントとしては左右交互に、無理なく、骨盤が動かないようにするのが注意点だそうで、、
(ようや)くストレッチ終わった。ホッと溜め息を吐くとその様子を見ていた公美子は溌剌(はつらつ)としていた。 
「公美子、ストレッチ教えてくれてありがとう。お腹周り気になってたから、これで()せる気がするから有り難いよ。」
早朝から汗だくだくだけど、、何だろう、、この充実感、満足感は、、
公美子「お疲れ様~初めてなのに啓祐、凄いよ、、この調子で明日も朝起きたらストレッチやってね。毎朝やっていくうちに骨盤も安定してくるよ。そうだ!啓祐、、勘違いしてると思うから言うけどダイエットの為にやってるんじゃないからね。あくまでも朝の目覚めをよくするためだよ、、女の子に戻る前に規則正しい生活リズムを取り戻すための第一歩としてのストレッチだからね~それと、啓祐が気にしているほど太ってないよ~これ以上痩せたら健康的に良くないし、、ちゃんと1日三食しっかり食べてよ」 
「はい、公美子、、わかったよ」
ミルキー「ミャー、、」
ミルキーは、起きたようで、丸くなっていた身体を起こすと大きく口を開けて前足で伸びをしながら畳に爪を引っ()けて欠伸(あくび)をしていた。
そのかわいさと言ったら言葉で上手く表せるのは難しいが、オレの凹んだ気持ちを(いや)すだけの力は充分あると思う。
ミルキーは、突然歩き出すとひっくり返っているオレの胸の上まで上がって来ていきなり足踏みし出し、オレの右側の頬をペロペロなめ始める。
「ミルキー♪やめろって、、ちょっと痛いから、、爪たてんなって、、頬も、、舌ざらざらして少し痛いし、、こら、、わかったから、、遊んで欲しいのか?」
公美子「ミルキー、すっかり啓祐になついちゃったね♪、、足踏みするってことは甘えたいって意志表示してる証だし、、何より頬を舐めるってことは啓祐を気に入ったってことだしね」
公美子も起き上がり態勢を変えてオレの右側にしゃがみこむと微笑みながら教えてくれた。
「そうなんだ、、猫って舌ざらざらしてるなんて舐められなきゃずっと知らないでいたかも、、あとさ、、ミルキー、、急に舐めるのやめて顔を前足で掻いてるけど、、これもなんか意味があるわけ?」
公美子「うん、、雨が降っているか、、これから降りだすみたいだね。猫の毛って雨が降る頃合いになると湿気で(かゆ)くなるようだよ、、このあいだテレビでたまたまやってて知ったんだけどね。」
「へー、、そうなんだ、、て事は今、雨降ってるってこと?今朝天気予報見てねえから、、外の様子気になってきたよ」
そう言えば、雨戸がガタガタうるさい気がする。
公美子がテレビのリモコンで電源を入れると天気予報が丁度やっていて気象予報士のお姉さんが言うには台風が関東に上陸していて強風で物が飛んでくる恐れがあるので外出は危険なので控えるよう、また台風は今晩中にも反れるらしい。
もしかすると今晩も泊まった方が良いのかも?
明日はいつもより早く起きて家に帰ろう。
「公美子、わりーけど今晩も泊めてくれるかな?」
公美子「良いよ、、流石に台風真っ只中帰るのは危険だもんね、、そのあいだ女の子に戻る練習進めようね」
「うん、ありがとう。」
公美子「早速だけどさっき言った台詞を女の子らしく喋り直してみて」
「さっきの?えっと、、なんだっけ?」
公美子「今から言うからメモできる準備してて」
「おー!待ってて、おばさんに紙と鉛筆借りてくるよ」
公美子「わかった。待ってるよ、、その前にお腹空いてない?起きてから私たちなにも食べてないよ?」
「そう言われてみれば、、1日三食大事だよな」
公美子「啓祐、ごめん。偉そうなこと言った方が朝食忘れるなんて説得力ないよね」
「そんなの良いってオレ、、違ったわたしも忘れてたんだから、、なんか言い慣れてねえから照れくさいよな、、////」
ミルキー「ミャーミャーミャー」
ミルキーは、オレの身体から離れ公美子の方へ向かうと前足で意志表示する。
公美子「ミルキーもお腹空いたの?一緒に下へ下りようか」
正座態勢に切り替わっている公美子の膝にミルキーは顔を左右にスリスリ(こす)って甘えている。
そんなミルキーの様子を愛しそうに微笑みながら頭を撫でて言うのだった。
オレは、外の様子が気になり窓の方へ向かうと内側の窓を開け、雨戸を左側だけ横に引いて開けると凄まじい暴風と共に雨が部屋へ入って来たので慌てて内側の窓だけ閉めた。
激しく降り続ける雨の音と強風が窓に当たる音がシンクロして止みそうもないことを物語っていた。
「公美子、天気予報通り外出るの無理そうだな」
公美子「そうね。、、、啓祐も一緒に来て」
そう言うと立ち上がり下へ下りていく。
ミルキーはそのあとを付いていく。
オレも立ち上がりミルキーの後ろに付いていくのだった。
公美子「ママ~おはよう!」
下りきると美味しそうな匂いのする扉の向こう側に話しかける。
陽子「おはよう~今朝は久々のトーストとハムエッグとコーヒーよ、、、慌てずにゆっくりね」
向こう側から声が聞こえてきたので話の内容で台所だということがわかった。
公美子「そんなのわかってるから、、、それよりママ、ミルキー帰ってきたよ。」
そう言うと公美子は扉を開けた、、と同時にミルキーは小走りになり「ミャーミャー」甘ったるい声を出しママに飛び付いた。
陽子「キャーミルキー?お久しぶり~どうしてたんでちゅか?、、、よしよし」
公美子のママはグッドタイミングで飛び付いたミルキーを上手く両手で受け止めるとミルキーの(あご)の下をなでなでしながら言うのだった。
ミルキーは、それに答えるかのように喉をごろごろしたあとミャーと一声ないた。
陽子「丁度良かったわ。今、ふたりを呼ぶとこだったのよ」
そう言うと冷蔵庫から缶詰を取りだし食器棚から小皿を出すとそれを小皿に入れるが上手い具合に盛れないようで食器棚にまた向かうと引き出しからスプーンを取りだしスプーンでなんとか小皿に全部綺麗に入れられたようだ。
おばさんの顔つきで何となくわかった。
その小皿を床に置くとミルキーは寄ってきて、はじめは味を確認するかのようにペロペロ舐めたあと、モグモグ食べ始める。
なんて可愛いんだろう、、、
テーブルにはおばさんの手作りのハムエッグ、トーストが三人分のお皿に一つにまとめて盛っており、三人分のマグカップにはコーヒーが注がれてそれぞれの椅子の前に置いてある。
陽子「啓ちゃんはお客様だから奥の席へどうぞ、、公美子は隣がいいわよね?」
公美子「う、、うん。そうだね。色々と教えられるし、悪いところとか気づきやすいもんね。」
「おばさん、おはようございます。オレ、、違ったわたしは構いませんけど、、なんだか緊張しますね。」
公美子「啓祐!先ず歩き方ががに股になってる、、内股に歩くよう意識してみて」
席へ向かおうと歩き出したら早速ダメ出しされた。
もう訓練始まってんだな、、、
「ごめん、、、気をつけるよ」
そう言うとオレは意識して内股で歩くよう努める、、、なんか歩きにくい、、これで良いのか自分じゃわからないので
「公美子、、、こんなでいいのか?」
公美子は眉間にシワを寄せて
公美子「啓祐、、、違うでしょ、、、そう言うときは、、公美子、、、これでいいのかな?でしょ?、、、またはじめからやり直し、、、」
おー!こえー、、
「はい、言い直します。公美子、これでいいのかな?」
公美子「うん、大丈夫だよ。その歩幅忘れないでね。学校でも歩く練習、本当はした方が良いんだけど、、どうする?」
「誰も居ないときにするよ。歩幅だね」
漸く席に腰かける。
公美子「ブー、、そこで足組まない。骨盤がずれやすくなるのと姿勢が悪くなるんだよ。朝のストレッチは骨盤を正しい位置に治す効果としてもやってるからちゃんと意味があるんだよ。最初は辛いかも知れないけど、毎朝ストレッチする事で段々足組まなくてもいられるようになるからね。これなら学校でも練習出来そうでしょ?」
「ハァ~(溜め息)」
陽子「公美子?はじめから飛ばしすぎじゃないの?啓ちゃん、可哀想じゃないの、、練習も必要なのはわかるけど、、先ずはお腹空かしてるんだから朝食食べ終えてからにしなさい。」
おばさんはオレが溜め息ついてお腹空いているのを察し、公美子に注意してくれた。
ハァ~おばさん、ありがとう。と心の中で呟く。
公美子は、舌打ちして眉間にシワを寄せてとても機嫌が悪そうに見えた。
公美子「だって、ママ~時間がないんだよ~、凄い切羽詰まってるんだから」
陽子「なんでそんなに焦ってるの?」
公美子「今日9月9日でしょ?来月中旬までには女の子に戻さなきゃならないんだよ」
陽子「来月中旬までって、、公美子、なに期限決めて啓ちゃんにプレッシャー(あお)ぐようなことしてるの、、もっとゆとり作ってあげなきゃ駄目じゃない。」
公美子「だって、約束したんだもん。」
陽子「誰と約束したっていうの」
公美子「それは、、、////(赤面)別に良いじゃない、、誰だって」
陽子「男の子ね?、、、公美子、、顔に出てるわよ。」
公美子「もう、、ママったら~、」
あれ?10月末までじゃなかったっけ?と思いつつも
「あの~おばさん、オレ、、いやわたしは大丈夫なので喧嘩やめましょうよ、、折角作って下さったのに冷めちゃいますよ。女の子に戻るって決めたのは自分ですし、溜め息ついてすみません。食べましょう、、、」
オレがあいだに入り(なだ)めると二人は急にだんまりして同時にトーストを口に加える。
オレはと言うと足を組むのをやめて同じくトーストからかじりついた。
公美子「啓祐?食事済んだらわたしの部屋で色々調べよう、、」
「調べる?」
公美子「うん、こんな天気だから外出られないじゃない。だからオンラインショッピングで参考になる本を購入しようと思うの」
「なるほど」
陽子「啓ちゃん、おばさんのお気に入りの洋画のDVD貸してあげるから参考に見とくといいわ 」
「洋画?」
陽子「そ、かなり古いミュージカル映画なんだけど結構参考になると思うわよ」
「タイトル何ですか」
陽子「マイフェアレディ」
公美子「あ!わたしその映画みたことある。簡潔に説明するとがさつなヒロインが社交界にデビューしても可笑しくないほどにレディに変身する話だよ」
「ふーん」
まさにオレじゃんか、、
確かに参考になりそうだな
こうしてオレの人生初の女の子に戻る特訓が始まった。

第三章
第三章 登場人物に続く

 
 
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