第5話 追憶

文字数 2,372文字

 公美子side
中学の入学式の日、桜の木の日陰から(かす)かにもれる日の光が眩し過ぎて、門に入る直前、目眩(めまい)を起こしつまずきそうになったところを、誰かに受け止められた。
その方を振り返りお礼を言うと右手で受け止めてくれた彼の笑顔が、とてもまぶしかった。
そして動悸が止まらず、これが初恋なんだと思った。
風の便りで、同学年で一年にして弓道部のエースだと知り、彼に近づきたくて私も、弓道部に入部した。
中々、話しかける勇気がもてないまま、いつの間にか三年生になっていた。
私が、彼の事が好きなのに中々、告白しないので、親友は、じれったく思ったのか、よく当たるという占いの雑誌を貸してくれた。
三年になってようやく彼と同じクラスになれたんだからチャンスよ!っと親友に背中を押され、一か八か星占いの通り、ラッキーアイテムのクッキーを作って渡し、勇気出して告白しようと決心し、彼の靴箱に手紙を添え、校舎の裏庭に呼び出したけど
数時間後にまさかあんな不思議な体験で、彼の秘密を知ってしまうなんて
私は、ショックで自分の布団の中に(もぐ)り込んで泣いていた。
いつの間にか冷えていた身体は温まり、さっきまでクシャミしてたのが嘘のようでクシャミが止まった。
この分だと風邪引かずに済みそうだけど、心の傷は治りそうもないよ
皮肉にも、女性だと知らずに好きになっていて、報われる訳ないし
頭では、恋人は無理でも、親友ならなれるかもしれないと思っても簡単に気持ちを整理するのは、容易ではない。
だってずっと男性だと思い片思いしてたんだから
あ~自分が情けない。
どうしたら気持ちをリセット出来るんだろう
私は、目を(つぶ)って暫く心を無にしてみた。
そうだ!いつまでもくよくよしても始まらないよね?
布団から出るとわたしは、親友になるって決めた事にけじめをつけなきゃと思うようにした。
ようやく落ち着きを取り戻し、涙も止まると
これからは、啓祐に好きな人が出来たら応援してあげよう。
好きな人には幸せになって欲しいもの
そう、これからは親友として、女性だと言うことを隠している以上、色々障害も有るだろうからフォローしなきゃだよね。
そうと決まったら、明日にでも私のメアド教えとかないと
机に向かうと引き出しからメモを出し、スマホのメアドを書いた。
そのメモをクローゼットにかかっている制服の上着右ポケットに入れると
ベッドにもどり、ピンク色のお気に入りのテディベアの抱き枕を抱きしめ、掛け布団を身体に掛けると、明日の事を思いながら、いつの間にか寝ていた。
そして翌朝、思った通り風邪引く事なく、目覚ましが鳴ると、すんなり珍しく起きれた。
昨晩泣きすぎたので(まぶた)は多少重いが、わりと目覚めが良かったので自分でもびっくり
普段なら布団から中々出られないで、起きても暫く頭がぼーっとしているのに、今朝はなんだか頭が冴えてる。
今朝に限って珍しく、スムーズに起きれたから雨でも降るんじゃないかな?
二階の私の部屋の前で、ママ(陽子(ようこ))の声が聞こえてくる。 
陽子「公美子、起きたの?昨日は元気なかったみたいだけどもう大丈夫なの?」
私は、ドア越しで
「もう大丈夫だから心配しないで、もう吹っ切れたから」
陽子「そう、、なら良かったわ。私は貴女が失恋でもして落ち込んでるかと思ったから、、なんだか心配しなくても大丈夫そうね。私が起こさなくても起きれたみたいだし」
「ちょっとママ、余計な事は言わなくて良いから、なんなの?用件を言ってよ」
陽子「怒る元気があるならさっさと下りてきて、冷めないうちに食べなさい。朝ご飯出来てるわよ!」 
「あ?もうそんな時間なんだ!うん、いつもありがとう。今からハイスピードで制服に着替えるから先に下りて待ってて」
階段を下りるママの足音が、私の部屋に響いた。
一階の構造はキッチンとママの仕事場である美容室とで壁で仕切られている。
私は、サッサとクローゼットを開きハンガーにかかっている制服一式に手を掛け、猛スピードで着替え終えると
ドレッサーの鏡の前へと向かい、引き出しの中からブラシを取り出すと素早くとかしうなじ辺りからふたつに分けると昨日から上に置いてある二つのゴムを一つずつ右手で掴むとゆわきツイテールの出来上がり! 
此処までかかった時間はほんの二分
もしかしたら過去最高新記録のタイムじゃないの?
と鏡に映った自分を見て思わずドヤ顔。
そして、階段を駆け下りる。
キッチンのテーブルの背凭(せもた)れ椅子に既に腰掛けているママ。
陽子「そんなに慌ててたら危ないわよ。階段は慎重にゆっくり下りなさいっていつも言ってるでしょ!ケガしたらもともこもないわよ」
「ママ、いつもわるーございました。うん。危ないのはわかってるんだけどついクセでね!テへ」
陽子「全く公美子ったら笑って誤魔化して、まあ、それだけ元気ならもう大丈夫ね。じゃあ、サッサと顔洗って食べて、歯を磨くのも忘れないでよ」
「ハイハイ!わかったから」
いつも口うるさいのはきっと私が生まれる日
パパ(国吉(くによし))が慌てすぎて車に跳ねられ亡くなったからで
なので口うるさいのも仕方ないと私は思っていて決してママのことをウザイと思った事は、一度もない訳で、逆に女手一つで私を育ててくれて感謝さえしている。
「ごちそうさま」
私は、食べ終えると洗面所へ速効!
歯をもうスピードで磨き終えると真っ先に、美容室の正面の引き戸へ向かう。
「行ってきます」
急いで靴を履き終えるとママから学生鞄を手渡され
陽子「忘れ物はないわね?気をつけて行ってらっしゃい」
そして二学期の2日目の朝が始まろうとしている。

第6話 即興練習に続く




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