第6話 ざまぁ、DV男 ー泣き寝入り馬鹿女との決別ー
文字数 1,977文字
先ずは鳩尾を蹴られる。
息が出来ない。
そんでいつもの通り髪を掴まれて、振り回される。
次に飾り棚に身体を打ち付けられるのも、いつもの通り。
まだ駄目なのかな、もう少し殴られない、と。
どうせ次は顔を殴られる筈、と、思ったら今度は膝蹴りだった。
でも、いつもより弱い。
よし、ここで、眼の廻りの青タンを映るように、と。
で、叫ぶ。
「助けてーっ、殺されるぅ」
上手く撮れたかな、青タンと声。
そろそろか、そろそろ、の筈、だ。
こいつが弱るのは。
あっ、と、思ってたら、パンチ弱っ、てか、当たんないんだけど。
奈津子や雪乃が言ったように、こいつが倒れるのはもうそろそろの気がする。
あっ、意識が朦朧として来たみたい。
フラフラしてるぞ、立ってられないんかぁ。
そんでもって、あっ、倒れた。
私は隠しカメラのレンズに向かって片手で『OK』を作った。
そして叫ぶ。
「倒れたよーっ」
次は玄関まで走って行って玄関のドアを開ける。
ここまで打ち合わせ通りに運んだ。
リビングに戻る。
さっきコーラの中に入れた睡眠薬が効いて、フローリングの床の上に突っ伏している馬鹿男を私は上から見下ろしてやった。
こんな風にこいつを見下ろすのは初めてかも知れない。
だって、いつも、いつも、ぶん殴られたり、蹴られたり、で、這い蹲っていてのは、私の方だからだ。
つい一週間前だった。
奈津子と雪乃にこのことを打ち明けたのは。
専門学校で一緒だった私達。
奈津子と雪乃は親友だけど、私とはそれほどでも。
で、その私の卒業した帝都トラベル専門学校、通称『帝トラ』の同窓会に行ったとき私は眼帯をしていた。
眼ばちこって言ったけど、勿論この目の前で突っ伏している馬鹿男に殴られたせいだった。
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最初はあの二人に言うつもりなんかなかったし、このことを分かって貰ったり、ましてや馬鹿男への復讐に協力して貰うなんて思ってもなかった。
そんでもふたりが同じ男に二股かけられてた話聴いてると、何かこのふたりになら打ち明けてもいいかなって思った。
生理の日に同じ男として、マジで血縁関係なんだよって笑ってるふたりを見てたら、信用してみよっかなって。
そんで眼帯を取って馬鹿男にDV受けてて、おまけにお金も無理矢理持ってかれることも打ち明けた。
そのとき何かすっきりした。
スカッとまではいかないけど、心につっかえていた何かが取れた感じで。
で、ふたりは言ってくれた。
スカッとしようよって。
考えてみれば毎日こいつに殴られたり蹴られたりしないように怯えて、そんでも毎日DV受けて。
でも直ぐにこいつの方から謝って来るんだ。
泣きながら、『遥(はるか)ごめんね』って。
ほんで、『俺には遥が必要なんだ』って。
こんなニートのDV男の何が良かったんだろう。
私ってひょっとしてMなんかな。
DV受けることが好きなんかなって。
そんな風に変な納得の仕方をしようとしたこともあった。
でも同窓会の日、奈津子と雪乃に言われた言葉で気付いた。
ふたりは代わる代わるにこう言ったんだ。
『遥はその男に恋してるんじゃないんだよ』、って。
『遥はその男に恋してる遥に恋してるんだよ』、って。
何か眼が覚めた気がした。
で、一年もの間私に対して暴力をふるい続けたこの馬鹿男に、復讐してやることにした。
こいつにざまぁって言って、スカッとする為に。
ピンポーン。
玄関のベルが鳴って奈津子と雪乃が入って来た。
「上手く撮れてるよ、遥」
第一声に奈津子がそう言ったかと思うと、雪乃は結束バンドをバッグから取り出しながら続けた。
「さあ奈津子この馬鹿男縛るの手伝って。
買い取り業者が来る前にふたりでバスタブの中に放り込もう。
馬鹿男が騒ぎ出すと買い取り業者が不審に思うからね。
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で、遥はこいつのロレックスとかクロムハーツのアクセとか、テーブルの上に並べて。
あんたから毟り取って買ったの、全部だかんね」
奈津子と雪乃は今まで私の持ってなかったものをくれた。
これを勇気と言うのかどうかは分かんないけど、でも今の私は馬鹿男にDVを受けて泣き寝入りしているだけの馬鹿女では、絶対にないと言うことだけは言える。
私はその言葉に従い奈津子と雪乃で結束バンドを嵌めようとしている馬鹿男の腕からロレックスを剥ぎ取り、次に胸からクロムハーツのネックレスも剥ぎ取った。
ふーっ、と、息を吐いた私は、その後奈津子と雪乃と三人で眼を合わせて肯き合った。
して、私は大声で叫んだ。
「っしゃーっ、やるぞぉ!」
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