第1話 ざまぁ、二股男 ーいつも通りにー

文字数 1,393文字

 私が気付いてないとでも思ってんのか、って、今この場で言ってやってもいいんだけど、でも、今はまだダメ。
 雪乃との約束があるから。
 に、しても、こいつ、さっきからやたらと距離を詰めてくる。
 確かに昨日まではこいつじゃなくて、あっちゃんだったけど。
 今は、何か、あっちゃんって、心の中で字を思い浮かべるだけでムリ。
 ホンっ、と、むかつく。
 ソファに座ることさえ嫌だったんだけどぉ。
 名前を替えてまで私を裏切ったこいつ、原淳(はらあつし)の横になんて・・・・・。
 でも気付かれない為には昨日までと一緒じゃなきゃ。

 他の女とやったこいつ。
 それがどこかの知らない女とだったら、一発ぶん殴るか蹴り入れて終わってたかも。
 でも絶対に赦さない。
 ぶっ殺す。
 まさか雪乃と、こいつが。 
 しかも雪乃を騙してた。同時に私も。
 ふたりを騙してまで、ふたりと寝たこいつ。
 うざっ、そんなこいつがこんなに傍、に。
 私がわざといつものように振舞っているせいだろう。
 遂に私の肩に顎を乗せてきた。
 きもっ。
 でもお生憎さまぁ、
 絶対にお前なんかとはもうやらないから。
 あっ、こいつっ、脚に手を伸ばしてきた。
 そんで何かこいつ、ストッキングにめっちゃ興奮してる。
 スカートだけはやめようって。
 そう決めたからこそ、今日はワンピじゃなくってショーパン穿いてきたのに、はぁって感じ。
 逆にこいつを興奮させてる、私。
 みじめ・・・・・。
 そう言えば昨日の夜から今朝ここに来るまでいっぱいいっぱいで、こいつがストッキングに興奮するの忘れてた。
 昨日厚めの黒タイツの爪先んとこ穴開けちゃって、黒のストッキングしか家になくって、まさかこいつを喜ばすことになるなんて。
 最悪ぅ。
 あっ、もう脚に手が掛かった。
 そんなにやりたいんかよ、この馬鹿は。
         ー1ー

 やっぱストッキングにめっちゃ興奮してる。
 あっ、遂に脚を舐め出した。
 きも過ぎぃ。

 こんな女とやりたいだけの、こんな見境のないストッキングに興奮する変態男と、何で私は付き合ってたんだろ。
 そんなこいつでもこいつのこと昨日までは何もかもが可愛いって、こいつの何もかもを愛せたのに。
 
 片手で脚を触りながら舐めてくる馬鹿男。
 イグアナみたい、だ。
 何でこんな男、と。
 もう片方の空いてる手で今度は胸に手を掛けて来た。
 胸を揉まれると怒りが込み上げてきた。
 同じ事を雪乃にしたことは分かっている。
 ひとつ間違えていたら私と雪は・・・・・。
 これ以上こいつには何もさせない。
 一気に立ち上がった。

「ちょっ、シャワー浴びて来るわ」

 そう吐き捨てた。
 それなのにまだ脚を掴んで離さない馬鹿男。

「そんなぁ、後にしようよぉ」

 駄々を捏ねるような声で縋って来る。
 きも過ぎる。
 勢い良く脚から馬鹿男の手を振り解いた。

「今っ」

 と、背中で返事してさっさとバスルームに向かった。
 シャワーなんて浴びる、か。
 そう声を出さずに呟いてバスルームの外から手だけ伸ばして、シャワーを出した。
 あの馬鹿男の耳にシャワーの音だけ届くようにしたかったからだ。
 
 そして1分後には玄関のチャイムが押される筈だ。
 雪乃の指、で。
         ー2ー
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