Last subway ride home

文字数 742文字

時間襞の内側は(たなごころ)に無け無しの強情さを秘匿するというその新奇さが地下鉄の実存性を忘失させる(そもそも論として方位と定点に馴染めない)。

口の端に龍神を昇らせて乾いた雲霞のシャッターを開閉する(それが目蓋の)守衛はとても不親切で(縊る力は渾身だ、躊躇いは愚だ)あとさき半刻黙りこくる、途。悄然と順列する陰翳らに優先するも、心苦しい。甘たるいのは二度と。

解答のくるめきが鼓動の水位を押し上げて航海者の目は醒めたように視えない(素性が視えたとして若さやら拗れた母性やらが歪ませたり曇らせたり幻影に恋する企みにしたって骨は拾うだろう)。

チーズを拒んだ鼠、の型の手袋の指、の指し示す空間に現出する陥穽、いわば通過点としての入り口は恋恋と忍び鳴いて、らせん風の階段につんのめる(アイロニー≒落胆まで指弾ないし忠告の信憑性は透けている翅に言い換える)。

耳障りなG#7の制御に急かされ降りていく。肩幅を嵌め込むように。陰翳らは知らされているのだろうか。地下鉄へと導かれる、ハロゲン灯の蒼白、水を打ったような叫びが反響する悪戯はあたかも抒情的解離性に端を発するのだという(深淵を覗かなければ運ばれてもゆけない、ペソアの亡霊をリスボンで無邪気に追い掛ける、それを旅愁だ回帰だと取り繕ってみたところで、もう)ことを。

     視 座 (詩人の眼球)
      の  (を)
     転 換 (何処に据えるのかという脅迫)

断面図は小蜥蜴の巣穴がごとく縦横無尽に各々辿っていくとプラットフォーム迄乃距離は長短一式で乗客らは互いの相貌を憶い出せないまま、改札を出るころには雪片が舞っているだろう。
Nobody is there.

(家路は日に日に()されて)いつ不在するかもしれない。地上に浮上してはやがて廃線する昨日。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み