Funeral Lullaby

文字数 797文字

背の眼で
互いをけん制している
漂白の夜明けまでは
まんじりともせず
開きっぱなしの瞳孔が炯炯と
照らし出す底の見えない
クレバス
互いを突き落とそうと
隙を窺っている

   いってらっしゃいがもう傀儡の
   作り笑顔のように重くて耐えら
   れそうにないどのような神経で
   毎夜戻ってくるのか

   いってきますと声に出すことす
   ら血を吐くようだ不在の間に出
   奔しようとの頭すら働かないの
   か

脇を持ち上げて高所に放ると
キャ、キャ、
とセルロイド人形みたいに喜ぶ
次第に精神に(うろ)ができ
(そんなときは人まがい、
堕ちるのを故意に捉え損ねる
ゴキュと挫けて
グフゥと呻く
次に放ってもくにゃくにゃして張り合いがない
こんな一瞬の加虐的慈愛のために十月十日
贅沢すぎて身体が震える

濡れたハンカチを
被せる
痙攣する
引き剥がす
抱きしめる
繰り返すうち
唇はいつのまに蒼ざめて
やがて動かなくなる
こんな短時間の倒錯的慈育のために十月十日
非効率すぎて涙がにじむ

そよとも動かぬ夜
落成当初より
やや俯きがちのタワーの麓
風車は
火が付いたように一斉に責め立てる
カラカラカラカラカラ
手足口がもつれ
手足口はもがれ
神谷町駅へと続く石畳をばらばらになって転げ
 落ち
傍らを過ぎゆく
前掛けをした地蔵ら
五体満足なものなどいやしない

六月の花房は幼い頭部
白色 水色 赤紫色
梅雨を含んでたわわに垂れ下がる
通過するたび
非難の流し目を寄越す憎らしさ
小学生がふざけて傘で突いたりすれば
粘っこい脳漿がザ、

横合いから降ってくる

   ただいまの虚ろな響きが奸婦の
   足音にかき消される共犯者の連
   帯など火宅の腹黒

   おかえりの声色に潜む棘が刺さ
   ればいいベッドの窪みに擬態し
   た地獄へ堕ちてしまえば

遊歩道直下
埋め立てられて久しい暗渠から
発情期の猫
に似た哭き声が
沸騰する泡沫のような
異  常  繁  殖

夫たち妻たちのすき間を
高速で這いずり回るようになるまで
あと数夜
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