モーニングルーティーン

文字数 634文字

覚醒してすぐさま、永年親しんだ容れ物(機能面及び意匠の観点から旧式となつて久しいと雖も多少の愛着を寄せてはゐる)の上部にある突起に、夕べ煮沸消毒を済ませ一晩寝かせておいた脳味噌を嵌め込み、次に慎重に臍の位置を定めてから(のち)は只ひたすら退屈な取扱説明書に従つて五臓六腑を設置していくのだが(この過程にcréativitéやoriginalitéを付加する余地はなく、あらゆる譬喩が遮断されてしまふ)、première impressionといふ他者のjugementを病的に窺ふ癖の抜け切れなひあなたは、顔の造作調整だけは念入りで、毛むくじやらの目ん玉や恋人の生殖器を愛撫するにはその容積に難のある口などを、神経張り詰めて調節し終へれば(sexualitéは世間の天候によつて都度左右されるのであり、他人の目配せがこれを宣告する)、残るは人間活動に不可欠な各種の液体、腺、声帯、踵etc.を適宜注入或いは組み立てていけばいいのであつて、此処まで凡そ十一分と二十五秒で完遂するやうになつたは日々鍛錬の賜物

あなたの朝はかうして始動する

さういへば、十六の秋口頃まで「こころ」といふものを奥深くに忍ばせてゐた気もするが、いつかその段取りを失念してしまひ、萎縮しながら一日を過ごしたけれど何等の支障不都合を被らなかつたので、無用の長物と妙に納得し省くやうになつて爾来けふに至る

あなたは最早何処に了つたのかすら憶へてもゐない(不意に掌など重ねられても風化した花崗岩のざらざら/不感!)
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