ex-

文字数 611文字

彷徨の刻に
淵に沈めたはずのエクスが
まろい夢幻の隙間から
おいでおいでを繰り返すので
蒼白く
臆病な面影の屈折する仮想水鏡に
実験的な反射を繰り返すので

蜜月は飛蚊症に冒され遠く霞んでしまう

極度の斜視に怯える潜在下
血涙は脱界面張力 ほんの些か零れ落ちて

なんて卑劣なエクス
陰湿な糾弾
愛ひとすじの不完全履行
溺死とは別の診立てで
腐乱している
自涜する修道士さながら(惜し気もなく)
多情さの例証をあげつらい
貧弱な反駁に
蚯蚓のような母性はのたうち 捩れる

凪いだはずの
湖沼たちに侵入した挙句
遊泳を貪るなんて(足が欠けたまま)
自己本位もここまで居直れば
こちらがフリーズするしか
(脆い背後からエクスの先っぽの濡れた黒くて熱くて硬いものが当たる押し広げようと躍起にな 
 っている)

―ハンズアップ

底無しと気付いて呆然とエクス
立ち泳ぎの(欠く足が、掻く)

エクスが
癇癪を波紋に準えるあまり
胸が粟立ち 仰け反って
髪が脈打ち また仰け反って
醜怪な咳が止まらず 跳ね起きる
毛並みの柔らかな瞑想と
紅桃色の愛くるしいのが
気懸かりそうに見上げる
が 背中をさする程度の憐憫も育たない

塵埃ゆらめく空間を
ぜいぜい喘いで 這い蹲り
辿り着いたシンクに 派手な咳ひとつ
黄痰に絡んで
エクスの矮小化された両足が
ちらり
見えた
ばたばた藻掻いている

眼瞼にまで煩いエクスの明滅
不本意ながら狼煙の準備に着手する

各者各様男の体は賞味しなければ比較材料にすら足り得ないという大義名分の傀儡だと誹られても
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