文字数 582文字

手荒にされて
打ち棄てられた土手の叢
口元の血をぬぐえば
そこはかとない可笑しみが
鳥瞰すれば
傷だらけの泥人形に見えるのでしょう
くっくっと 忍び笑い
くっ くっ

しのび わらい

絞められた 喉元から
くっ
くっ
くっ と

いいえかねてより空いておりました
無数の穴が
大小さまざま空洞の内は
風の吹き渡る夜もあれば
紅い雨降りしきる時節もあって

塞いでくれればいいものを
卑しい冒険心を満たすだけ
穴を拡げるだけ拡げて

臆病者よ

虫取り網を持った少年たちが駆け巡る
今しがたの風貌のない男もそうでした

小心者よ

かけがえのない あるいは
取るに足りない わたしの
組織の一部が穴という穴
から土壌へと染み出して
足元の川へ合流し
遡ってゆくのです

蒸留酒のような
初秋の草いきれ
醸されて
永遠の腐敗が始まりかけて

そのとき

残照に 土手の草葉が
ゆ う ら ゆ ら
先端で 二匹の蟷螂が
交尾をしているのでした

魅入れば 雄の頭が 
ない
雌が(齧って)しまったのでしょう
まぐわいのさなかに
昂揚のあまりに

律儀な雄はそれでも
腰をひくつかせています
くい くい

葉を揺らすほどに

嗚呼、恍惚・・・・・・

いいえ摂理というより甘やかな
共依存
核へと通ずるひとつの穴から
黒く細長いわたしが這い出でて
寄生しましたから

それは男をあやつり
水辺へと
連れ戻すでしょうから

くっくっくっくっ
忍び笑いが
くっ
くっ

絞められた 喉元から

舌先はねぶります
歯間にはさまった


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