火車

文字数 463文字

四ツ辻
囲いへ通う男を待ち伏せ
車になる
十三夜

手練れ糸で絡めた木偶(でく)
馭者に
据え
往来を飛ぶ
男を乗せて

坂道を転がるうちに
男の真心が振動へ伝わり
肺腑の火口から噴き出す吐息は
火焔
腰の骨 脚の関節を砕いて回す車輪は
火花
管から穴から目玉から滴るしずくは
燃油
身を焦がし立ち昇るは
大火柱

男が燃え上がり
のたうち回る

執念深い舌を這わす
血気盛んな炎は
地獄(リンボ)の生きた業火である
(目論見は自壊して
    修羅道へと落つ、

往来へ飛び出した泥棒猫
炎も厭わず 男を抱きかかえ
共に燃え上がる
忌まわしい肉が焦げる臭気
いやらしく噴き零れる蒸気
静寂を震わせ
星々の好奇な目
を爛爛と輝かせる

いや勢いを増していく焔
二体の炭は絡み合ったまま
ほろほろ と
崩れ落ち て

憐れみの手
差し伸べられた馭者の
無垢なる手
一瞥するや こちらも
熱い旋風に巻き込まれ

あまねく炭化に
ぼうぜんと佇む
蒼い月夜の
十三夜

車体は焦がれつつも
芯から冷えている

ちろちろ残り火発する掌を
(幸福や安寧なぞ掴みかかれば
           たちまち
             灰となり、
手鏡として

自死より(むご)
この
果てなき凍― 
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