地縛

文字数 444文字

一日目
ドアノブががちゃがちゃ騒ぎ出す
あなたは気にしない

二日目
スコープ越しの真っ赤に充血した目と目が合う
あなたはまだ気にならない

三日目
ユニットバスの折り戸のすき間から
弦掛け(のこぎり)が忍び入る
気にしたところでもうおそい

最終日
排水溝がうまそうに飲み干す
春雨 挽き肉 ときどき白子
ほくほく湯気立つ白子(ほんのり桜色)
あなたはもう気にすることもできない


いつかの朝に目覚めたら
知らない同居人が くつろいでいて
だけどあなたは血吸い(びる)
やや気にかかる

這い寄ると 怯えて哭いた
上下左右の壁が迫るかのごとく
(事態の究明と
 ひとしずくの赤い抱擁に
 飢えているだけ)
いつも置き去りにされる血吸い(びる)
わりと気にしている

顔ぶれは変わる ひんぱんに
塩がもられた
酒がおかれた
札もはられた
いっとき縮んでも
残された骸から
体が生え
吸盤が生え
同じくるしみが生える
あなたはひどく気にしている

とうに外を忘れてしまった
ピンで留められた 標本箱の外側
這っても這っても出てゆかれない
この部屋の
外側

自由な死の世界

あなたはもはや気になってしようがない

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