第11話 それでも

文字数 763文字

『今日の夜少し会えませんか?22:00に○○公園で待ってます。』
そんなメッセージが届いたのは、あれから3日後だった。
『会いたい。絶対行く!!』
きっと、告白の返事だ。約束の時間まで、期待と不安で押し潰されそうになりながら待ち続けた。

「あ、おまたせ。」
「待ってないので、大丈夫です。」
デートでもないから、5分前に着くように行ったら、もうさえがベンチに座っていた。暗くて顔がよく見えない。静かに隣に座る。何を話せばいいのか分からない。
「お話があって……。」
「もしかして返事?」
「は、はい。」
俺は体の向きを変えて、さえの横顔を見つめる。さえはこっちを向こうとしなかった。
「す、好きなんて言われたの初めてで戸惑いましたが、嬉しかったです。ありがとうございます。」
「うん。」
「……。」
さえが何にも言わないから、俺も何も言わない。さえの言葉を急かす必要はない。夜は長い。ゆっくり待とう。二人の間に流れた沈黙をかき消すように、さえが立ち上がった。街灯に照らされる場所に映し出されたさえの顔は……。
「さえさん?」
少しだけ潤んだような目、震えた手足。その手の先に握られているものは……。
「ごめんなさいっ…」
「おい!」
腹の前で止められた手に握られていたのは、小さな小刀。瞬発力……とでもいうか?命の危機が迫った瞬間、人は早く動ける。だからか、彼女の手は簡単に止められた。
「何のつもり……。」
それ以上は言葉にならない。さえの目からは大粒の涙がこぼれ落ち、震える手から小刀が、地面に落ちたからだ。
「好きなのに……。」
言葉に詰まるように、さえが明かしたさえの本性は驚くべきものだった。

「それでも、私を好きでいてくれる?」
さえの不安そうな表情に、俺はふっと笑いかけ、そのまま彼女を抱き締めた。
「それでも、俺はさえが好きだ。」
夜の公園で、二人の唇は重なった。
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登場人物紹介

菊川さえ

トールトのスパイ。竹下翔を殺すよう命令される。

完璧主義で、何でもできる。恋愛に興味が無い。

竹下翔

詐欺師。菊川さえを騙そうとする。

明るい性格で、誰とでも仲良くできる。

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