天国も

文字数 1,860文字

 その日の夜、要は求に連れられて公園にやってきた

 白い山犬の死神や求の言っていることをまるで信じてはいないが、それでも求の声に答えて要は公園にやってきた

「不自然ですね、あなた」
「何が?」
「要は私の言っていることを何もわからないのでしょう。賢い人間はそういうことをするものでしょうか? 人間、誰だって自分の考えがあります。例えばこしあん派がつぶあん派の味覚なんて理解しないと思います。これは人間なら誰だって当てはまります。自分自身の認識の壁、悪い言い方をすると思い込み……誰だって自分が正しいと思って生きています。ところが要は、私の話を理解していなくてもこうしてついてきて、こんな怪しげな儀式に協力してしてしまう。面白い、実に面白いですよ要は。人間誰もがこんなことできない。私は最初、要は死神のお供としてかなり適役だと思っていました。ところが……あなたはこうしてよくわからない私の話を信じてここまでついてくる」
「いいや、珍しい話でもなんてもない。一説によると男性は全員自閉症らしい。何を言っても理解せず、わかりあおうともしない頭の固い存在、それが男性ってやつだ。そういう前提で考えて生きて、自分の頭は極めて固く、認識の壁、自分自身の厚い壁に覆われているということに気づくと、全然違った世界の見え方ができるようになってくる。さっききゅーちゃんは自分の考えが正しいと誰もが思っているなんて言ったけど、頭の悪い人間はおおよそ全員がそう思っている、自分は正しいと。ところがどんな高尚な考えや思考だろうが、結局は自分で考えたもの、控えめに言ってゴミに等しい浅はかな決めつけに過ぎない。そんなもの信じるよりも、考えに幅を持たせて線引きを複数持ち、融通を効かせて相手の考えを聞いたほうがはるかに有意義だ」
「ふぅん……要が融通が利いて頭脳明晰な理由がわかってきましたね。私もそうやって生きられれば賢くなっていくかもしれませんね」

 それはただの買い被りだよ、要は頭がよすぎて一周しちゃってる

 君はRPGで未経験の勇者のほうが信頼できるだろう?

 もう周回を無限にやってる奴らなんて色々と絶望しているか心が純粋なだけだ、要はどっちだと思う?

 筆者としては両方だと思うねえ

「そんな褒めないでくれ。こう見えても調子に乗りやすい性格でね、褒められるとぼろが出てしまうかもしれない。今こんな感じに」
「あー、そうですか。じゃあ、もっと褒めておきましょう。要が羽目を外せるように」
 キューちゃんママ爆誕
「あー、はいはい。褒められておきますよ。それはさておき、早いところ山犬を呼び出そうか。そのはるかに強大な、10億クラスの死神様を」
「そのいい方やめてください。微妙に私の心の傷をえぐります」
「悪かったな。じゃあ、白銀の山犬を呼び出そうか」
「ええ、やりましょうか」
 求は要からノートを受け取ってそこにいくつかの記号を記した
「今から1000年ほど前の出来事です。ある聖人が、空腹に耐えかねた山犬に自分の肉を食べさせて、山犬の飢えを癒しました。その山犬は聖人に感謝し、以後は亡き聖人のためにその身を捧げるようになった」
「え、何の話?」
「ごめんなさい、ひょっとしたら1500年前だったかもしれません」
「知らんがな。論点そこじゃない」
「取り乱しました。その聖人に身を捧げる山犬こそ、要さんが追いかけている白銀の山犬だと私は推察します」
「ああ、そう……その話が真実である根拠は?」
「さっき、思い出しました。山犬が狙っている人物は私、会ったことあります」
「へー、じゃあ今まで忘れてたんだ」
「どうしてか忘れてしまっていたんですよね」
「なんでそんな重大なこと忘れちゃうの?」
「忘れるからですよ、本当、記憶がどんどんなくなっていくんですよね、私って」
「昔、男性向けの恋愛教本に女の子の記憶は凄い勢いで消えていくって書いてあったけど、あれって本当なの?」
「さあ、私は大切なこと以外は思い出しませんから」
「で、山犬をどうやって呼び出すの?」
「紙に『無創無生、創造なきところ我の在処なし、我は我を葬る、愛しきリリコよ、どうかわかってほしい』と書いてください」
「書いたぞ」
「いや、走って走ってこいつを届けてくれ、夢を見て飛び出した僕の帰りを待つ恋人へのほうがいいでしょうか?」
「前者にしよう、売れているアーティストの歌は死んだも同然だ」
「じゃあ、それで」
 とは言ったものの、割と好きなアーティストをディスられ求は内心ダメージを受けていた
「それじゃあ、白銀の山犬の死神を召喚しますね!」
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