白玉楼も

文字数 2,098文字

 夕方になった

 求がいた公園はすでに日が沈み、人気はなくなってきた

 するとどうだろうか、公園から見える海の向こう、ちょうど陸と陸をつないでいる橋の上を数体の白い山犬が歩いている、それが見えた

 具体的にはベイブリッジの上を白い山犬が歩いていた

 これは偶然ではない

 なぜか?

(嘘が……全て嘘なことなんてないですからね。それこそさっきの人は何かを呼び寄せている。自身の情報を断片的に明かすことによって)
(あの人は……おそらく断片的には本当のことを言っていますね)

 その白銀の山犬は一瞬、求を見た

 求は死神で、白銀の山犬も多分死神

(ライバルですね……ひょっとしたら、私よりもはるかに伝統があって実力も上、すでに長以上の存在かも)

 なんや?

 あの世にもそんな明確な上下関係あるの?

 大抵の人間、あの世は平等で救われてるって感じがあると思うんだけど、死神でこの関係性って、夢壊れまくりだな、おい

(まあいいでしょう。私には要がいます。実力で勝てないなら束になってかかるまでですからね)

 山犬は求の死神としての格が低すぎて、チラ見してきたが、距離的にも興味的にも眼中にない

 そりゃプロの野球選手が小学生の草野球を見て盛り上がるわけがない

 それは死神の世界でも全く同じ

(とりあえず、要のところに戻りますか)

 求は素早いステップで拠点に戻る

 そこでは要がタッパーにご飯をよそって、そこに熱湯を注いで粗末なおかゆにして食べている姿があった

「え、なんですか、それ?」
「おかゆだよ」
「いや、違いますよね?」
「おかゆだよ」
「信じてはもらえないでしょうが、私はあなたの頭脳に期待しているんです。いや、逆に一周回っちゃったんですか?」
「いや、さすがに冗談だよ、これはおかゆですらない。それは認めるとして、俺が寝てた間、平気だった?」
「ええ、平気ですよ。寂しくはありませんでした。要こそ私がいなくて寂しくありませんでしたか?」
「いいや、そんなことはない」
「そうですか」
「寝てた間なにしてたの?」
「乙女のプライバシーにずけずけ入ってくる人は嫌いですよ」
「ああ、そう。ごめん、言いたくないならいいや」
「逆に質問ですけど、要は私の死神としての成り上がりを応援してくれるんですか?」
「それこそ男のプライドを傷つけるような質問はしないでほしいな。さっき求が黙秘したんだから、俺も黙秘で構わないね?」
「残念ながら私に平等は効果ありません。私は黙秘しても構いませんが、立場が対等ではありませんから、要は話してもいいんじゃないですか?」
「あぼーん、そういう高尚な説明とかじゃなくて、単に興味ないから黙りたかったんだ。実のところ興味ないんだよ」
「自分のことでいっぱいいっぱいですか、ひょっとして?」
「そうだね、そんな感じ」
(ふむ、要に余力を持たせなければ私に協力はしてこないでしょうね、これは。要もいい人そうだし、恩返しを期待できる相手かな?)
「要は最近どんな感じ?」
「最近か……そうだね、不労所得で食っていける金持ちを見てしまって若干辛いね。慰めてくれないか?」
「よしよし、辛かったですね」
「慰められても相手が死神じゃあな。でも、こっちは働かなくちゃ贅沢ができない人間だからねえ。今もこうやっておかゆ食ってるし、実のところ嫉妬で若干心が痛い」
「嫉妬してもいいのでは? 私に平等は効かないから。そういう感情も認めざるを得ないですね」
「じゃあ、今日もお仕事なのでね」
「どんなお仕事ですか?」
「白い山犬の死神を見つけて来いってお仕事だよ。きゅーちゃんじゃないよ」
「私、そいつ知ってますよ」
「何でもする、そいつの情報を教えてほしい」
「では今回は特別に対価なしで教えてあげましょう。その死神、死神世界では相当なやり手です」
「サラリーマンで言うとどのくらいの年収の人かな?」
「軽く年俸10億の野球選手ですね」
「それは凄いのかな?」
「凄いですね。私がどんなに頑張っても戦えない相手です。白い山犬の死神を私が超えるには、あなたの力が必要です」
「その死神はどこへ行けば会えるかな?」
「このクラスになってくると存在ではなく現象のようなものになってしまいますから、条件がそろえばすぐにでも会えます」
「すまない、言っていることがよくわからない」
「例えば、原始時代であっても火薬は持ち込めれば火薬として作動しますよね。条件さえ整えば発動する、そういうものです」
「うん、大体理解した。白い山犬の死神も嵐とか川の流れとかと同じで現象なのか」
「そうです。仏さまが死んで世界の法になったように、白い山犬の死神も世界の法、ルールと同体です」
(まあ、なんとなくは分かるけど腑に落ちないな。俺もその白い山犬の死神とやらを拝見すれば納得できるかもしれないけど)

 求は山犬の謎を解き明かしているが、要は解き明かしていない

 二人の温度感の差が激しいが、たぶん要の器量なら平気だろう

「多分だけど、キューちゃんの話を俺も山犬を見れば納得すると思う。どうすればその山犬に会えるんだい?」
「そうですか、見たいですか。だったら、私が条件をそろえて呼び出してあげましょう。ちょっと私についてきてください」
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