シャンバラも

文字数 1,909文字

空からノートが落ちてきた

それを一富士要(いちふじ かなめ)は拾ってしまう

 要

「ふぁ? derth note?」

(いや、たぶんこれはデスノートと読んでほしいんだろうな。そんな空気がする)

 特に強い根拠があるわけじゃないが、要はそう思った

 次のページをめくると下手くそな手書きの英語で次のように書かれていた

下手くそな理由?

なんだろうな、英語の初心者が書いたみたいな文字だったからだ

「ふーん、このノートに名前を書かれた人間は死ぬ……」
「いや、呪殺よりも殺し屋雇ったほうが早いぞ、復讐代行業者なんてネットにちらほらいるのに。このノートの製作者はそんなことすら知らないで作ったんだろうな、正直かわいそうだ」
リティイーター特有の超現実主義発動中
「くだらねー!」

 要はノートを道に投げ捨てた

 すると電信柱の陰から要を覗いてくる人物がいた

 ご丁寧に黒い和服に彼岸花をあしらえていて、なんかいかにも死神っぽい服装をしている彼女は要を見て何かを期待してる

じーーー
「ごめん、俺空気読めないから、何か言いたいことがあるんだったらはっきり言ってくれる?」

 死神

「呪い殺せ」

実のところあの世は美しい場所らしい

なら、ここまで頭の中お花畑の死神もあるいはありかもしれない

「ごめん、俺が間違ってた。もっとオブラートに包んでくれ」
「ノート拾って好きなように殺せ」
「うん、それじゃあ、俺忙しいから」
「待って」

 死神のような服装をした女の子は要に泣きついた

 柱の陰から身を乗り出して、ノート拾いかけの要の右足に抱き着く

「誰か殺さないと私昇進できないんです! 死神の長に!」
「あ、そ、俺忙しいから」
ちょっとかわいそうすぎないか?
「そうだ、お前を殺せば……」
「君、名前なんて言うの?」
「日嗣坂求(ひつぎさか もとめ)と申します。この物語のメインヒロインですよ」
実のところあの世は美しい場所らしい

なら、ここまで頭の中お花畑の死神もあるいはありかもしれない

ここまで実直な発言が許されるとは……

「難しいな。ちょっとここに漢字で書いてみれくれる?」
「はい」
「へー、面白い漢字してるねえ。ちなみにデスノートって効果出るのにどのくらい時間かかるの?」
「10秒程度で……がはっ……く、苦しい……たすけ……」
「さて、面倒は終わったから行くか」
 2秒後
「本当に殺してしまった、実際効果があるなんて思いもしなかったんだけど、きゅーちゃんには悪いことしちゃったなあ」
「なんですかきゅーちゃんって?」
「生きとったんか、われ」
新手のお笑い芸人?
「死神をノートの力で殺すことはできませんよ。というかしょっぱなから殺してくるとかあなた悪魔ですね」
「いや、お前こそ素直に名前書くとか馬鹿だろう。もっと相手を出し抜いたりとかできないわけ?」
「できないんですよねえ」
撤回だ

お笑い芸人はもっと高度な嘘で相手を騙すからな

こいつらに芸人センスはない

「そんな奴が死神の長になれたりするんだろうか?」
「多分……無理でしょうね」
「無理なものを目指して意味あるの?」
「頑張ることに意味があるんじゃないですか」
「そうかな? 不可能なことに価値はないよ。できないことに価値はないよ。夢を追いかけるのは自由だけどな」
「人間のくせに、夢も希望もないことを言いますね」
「いいよ、このノート持っておく。気が変わった」

 何が要をそう言わせたのか今は分からない

 ただ、求の言っていることがあまりにもまっすぐだったので要は心を打たれたのだろう

「あれ? 気が変わっちゃったんですか?」
「そうだよ。悪いか?」
「案外融通の利く方ですね」
「いや、単に可能性を捨てられないだけ。人殺しと同じで相手を殺したら生まれ変わらせることができない。俺はきゅーちゃんという可能性を捨てきれないだけさ」
「どういうことですか?」
「自力で考えられればキューちゃんももう少しまともになるさ」
「さっきから偉そうに。一度も死んだことないくせに達観したみたいな素振り、見ていてイライラします」
「もっとオブラートに包んでくれ」
「あきらめないで挑み続ければいいのに。諦めたらそこで終わり、諦観の先に未来はありません」
「まあ、いいでしょう。私が長になって成長すればあなたの考えも変わるはず。そこで見ているがいいですよ」
「期待させてもらうとしましょうかね」

 どういうわけか二人は意気投合してしまった

 求の言っていることが要に突き刺さりすぎたのか……いや、ひょっとしたら要は要でイライラしているのかもしれない

 性格柄、味わうストレスはイライラではないかもしれないが、怒りに似た感情をその心象に湛えた

 向ける矛先はなく、単にその怒りが自分に突き刺さっているだけかもしれないが……

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