末法の世も
文字数 2,221文字
毛並みが実に美しく、飼いならされすぎて太っているというわけでもない
どこにでもいそうなオオカミの、それこそ自然に生きている崇高さが見て取れる、そういう相手だった
白狼
「だれだ、私を呼んだのは?」
白狼
「ふむ、この世をさまようついでだ。タピオカティーやその他供物をもらえるなら喜んで答えてやろう」
白狼
「いや、私自身は何も口にしなくても生きられる存在だ。できればでいい」
白狼
「やはり供物といえば酒だな。これで頼む」
要は注文を送信した
御高名な死神ともなれば神酒でも注文してくるのかと思えばそんなことはなかった
白狼
「ははは、そういう考え方もあるが、贅沢をしすぎると精神によくないからな。神仏としての徳が高ければ質素倹約に努めるほうがいい場合もある。私はそのタイプだ」
白狼
「それで、尋ねたいこととはなんだ?」
白狼
「いかにも……私の主が狙っている」
白狼
「難しいだろうな。そのリリコさんも内面が死のうとしている。肉体が生きたところで心が死んでしまえば屍も同然。それを私の主は知っている。だから狙っているのだ」
白狼
「例えば要とやら、君は娯楽を一切やらないで何の楽しみもなく生きられるか?」
白狼
「それと同じく生きることが楽しくなければ人間は死んでしまう。そういうわけで私の主はリリコさんを狙っているのだ」
白狼
「ない……今までも死んでいくのを何度も止めようとしたが、もう寿命のようだ。心の命は永遠ではない」
白狼
「いかにも。リリコさんは不老不死だ。意図をもって殺そうとしない限り死なないが、肉体的な寿命を迎えることは永遠にない」
白狼
「とはいえ、人間とは面白い生き物で不死を望む者はそれほど多くない。そなたは死神のようだが、その心配はいらないだろう」
白狼
「うむ、うまいな。最近はこんな酒が簡単に手に入るのか」
白狼
「そうだ、人間は精神の生き物、食べ物があればそれで生きられるわけではない」
ちょっと雑なやり取りだったが、誰かに質問した内容なんてこんなものだろう
要としてはリリコさんが救えないという事実を一つ確認できただけでも十分な収穫だし、白狼にも出会うことができた。
これで一つの仕事が完了したことになる
おおよそ無理な話だろう
死にたくないから死神を撃退しろといったのはリリコさんだ
そのリリコさんが死んでいくのを望んでいるから放置というのはいろいろと矛盾がある
白狼
「いかにも、そこの小さき娘よ、そなたは勘がいいようだな」
白狼
「なら話が早いな。娘よ、お前が彼に伝えてやれ」
白狼
「兼光にどう思われるのか定かではないのでな。私も所詮は誰かに仕える身だ」
白狼
「それでは、失礼する」