第6話

文字数 1,084文字

その次の日も同じ夢を見た。
眠っているはずなのにスッキリしない。
原因は明白だったが、認めてしまうのが嫌で皿と骨をおいていた。
しばらくそんな生活が続いた。

そんな折に皿をどけてその下の埃を払おうとしたところ、誤って手を滑らせてしまった。
皿も骨も無事だったのだが、頭骨に下顎の骨がないことに気がついた。
皿の入っていた木箱の中を探ると、頭骨の下に敷いてある薄紙の、さらに下に
こまごまとした骨がたくさん詰まっているのを発見した。
下あごの骨はすぐ見つかった。
あまり、骨には明るくないのだが、これで間違いはないだろう。
歯まできっちり揃っている骨はこれだけだから。
そしてもともとあった頭骨と組み合わせておいてみた。

其の夜は少し頭が高くなった猿の首があった。
首は甲高くキイと鳴いた。
それだけの夢だった。
相変わらず疲れてはいるものの、ずっと持っている違和感のようなものは少し
減ったような気がする。

その日から、骨を探して組み合わせていく作業が始まった。
間違っていたらすぐわかった。
夢に出た猿がおかしな姿になっている。
本来腕の生えているはずの場所にスネが生えていたするのだ。
柄が見えるように伏せて置いていた皿は元に戻した。その上に猿の構造通りに骨を積み上げていく。

手が完成した時には手を叩き、足が組み上がったら踊りだす。
夢の中の猿は愉快なものだった。
疲れや抱えていた違和感も猿の完成につれ、取れていった。
猿といる時間は文字通り夢のように楽しく、音楽に合わせて猿と踊ったり秘密の冒険に出たりした。

呪われているのではないかと思った事を忘れるような、夜に眠ることが何よりも楽しみになるようなそんな日々がしばらく続いた。

ある日突然、猿が夢に現れなくなった。
いつものように眠りにつくとそのまま夢は見ず、いつの間にやら朝になっている。
骨と皿は何時ものように何食わぬ顔で鎮座している。
元々、いつのまにか見ていた不気味な連作の夢だった。
在宅仕事で人との関わりも少ない生活の中、猿はこの家の彩りでもあったのだ、とそう思った。

見なくなって2週間ほど経ったある日の出来事だった。
奥様から電話がきた。
簡潔に内容をかいつまむと骨と皿を返してほしいとのことだった。
元々大先生が子供のときより、言いつかってきた物だという。
探せなくて困っていたそうだ。
私も、タダで分けてもらったものでもあるし、何よりも私の仕事が終わった、ということが
わかったので、未練はなかった。
私が必要なのは猿を組み上げる事までだ。
そう思うと、ストンと納得した。
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