彼女はコズミック・ガール 1

文字数 1,949文字

彼女はいきなり真由美の前に現れてインタリオと名乗った。

「こんにちは。私はインタリオ。ちょっと道を聞きたいんだけれどいいかしら」

真由美は手に持っていたカッターナイフを今まさに腕に当てるとこだった。

「猫、がしゃべった……」

インタリオはしっぽを振った。

「猫ってなにかしら。私、そんなのじゃないわ」

「猫、」

「だから猫じゃないってば。これは借りただけなの!」

「借りた?」

インタリオはしっぽをバンバンと窓の枠にたたきつけながらいらいらした様子で言った。

「すぐそばで倒れてたのよ。弱ってたから体をもらったの!悪い?」

真由美が赤い目で答える。

「わかんない。」

「で、教えてくれるの?くれないの?」

「何を?」

「ば!しょ!」

「……いいよ。すぐ済むなら」

真由美は持っていたカッターナイフの刃をしまい、インタリオのいる窓の枠に置いた。
インタリオは嫌な顔をしながら、真由美のいトイレの床に飛び降りる。

「ふぅ。この重力、やっぱり慣れないわ。重すぎるのよ。」

真由美はそんなインタリオをぼんやりとみている。
インタリオは床に飛び降りると、向きを変えトイレの壁に映像を映して見せた。
真由美は目を見開く。

「すごい……どうやって」

「量子の粒に色を付けて平面の空間に記憶を映し出すの。」

真由美はインタリオを見る。

「あなた、何者?」

「あなたたちの言葉で言うと、ハイペリオン超銀河団所属アンナメリア銀河群
 左腕中央部、六分儀座の近くから来たの、そうねえ、分かるように言うと宇宙人よ」

「ウソ……」

「別に、なんでもいいでしょ。早く教えて」

真由美は映し出された映像を見る。
それは、なんというか、”絵”だった。
不穏な天気の中、小舟が高い岩でできた島に入場しようとしている、そんな絵。
真由美は言う。

「これ、絵だよ。」

「絵って何?」

インタリオは首を傾げた。

「うーん、とペンとか絵の具とかで題材はいろいろだけど……描くもの」

「さっぱりわからないわ」

真由美は困り果てて、ハンカチをポケットから取り出した。
花柄の普通のハンカチ。

「ここにプリントされているのも絵、かな」

インタリオはしげしげと眺める。

「へぇ、人間ってのはこーんな模様作るのねぇ」

インタリオは楽しそうに言う。

「そういえば、人間て記憶のやり取りできないんだっけ?」

「記憶のやり取り?」

「ええ。機関をくっつけると記憶を情報としてやり取りできるじゃない。
 ないから、代わりに言語なんてもの発明したんでしょ」

「うーん、代わりにかどうかはわかんないけど、絵も言語と似たようなものだと思う。
 言葉にはしづらかったり、伝えやすくするために使うんだと思う。」

「ふーん、コミュニケーションっていうんだっけ?そういうの」

「……うん、多分」

「じゃあ、これは”絵”なのね」

「うん」

「これはどこ?」

「わかんない」

「なんでよ」

なんでっていわれても。

「絵のある場所なのか、絵のモデルになった場所なのか、いろいろあるもの」

「知らないわ。とりあえず絵のある場所で良いわよ。」

インタリオは特に考えもせずに言った。
真由美は困り果てる。
知らない絵の場所っていっても……
えーと、小舟があって、その上には全身白い人が立ってて、島は岩でできてるっぽいけど
木もみっしり生えてて、真ん中には船用の門が開いてて、海は黒。
だめだ。見たことない。


「ごめん、わかんない」

「そう、いいわ。いきなり悪かったわね。まぁ、絵ってことがわかっただけでもよしとするわ」

そういってインタリオは窓に飛び乗る。
そして、そのまま窓から飛び出した。
その拍子に窓枠に置いていたカッターナイフが落ちる。
カラン
床に当たって音が響く。

「宇宙人さん!私、美術に詳しい人知ってるの!その人に聞いたら何かわかるかもしれない!」

気が付いたら真由美は大声で叫んでいた。
インタリオ、黒い猫はぎょっとした様子で振り向き、すぐさま戻って窓に飛び込んだ。

「私の名前インタリオ!びっくりするじゃない!この体は音に敏感なのよ!」

真由美は自分が叫んだ衝撃でへたり込んでいた。

「私、あんな大きな声、久しぶりに出したよ」

「よかったじゃない。さっきより元気そうよ。あんた」

「そうかな」

「ええ、頬も紅潮が見られるし、目も合うわ。」

「私、絵について詳しい人知ってるの。一緒に探そう。イン……タリオ」

「あんた、名前は?」

「真由美。斎藤真由美」

「真由美ね。よろしく、頼むわよ」

インタリオが肉球を真由美の膝に乗せる。
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