ヤギ2
文字数 1,233文字
彼らはおいしそうにぺろぺろと大きな月を舐めている。
ずっとやすまず舐めている。
あっという間に月の形が変わってゆき、そして、わずかに月が楕円形になったところで、やっとヤギの紳士が終了の号令をだした。
ヤギたちはみなにこにこと顔じゅうを黄色くしながら屋根の上で思い思いにくつろぎ始めた。
ヤギの紳士が胸ポケットからだしたハンカチで黄色くなった顔を拭きながら屋根から降りてきて、玄関に座ったままだった私の隣に腰を掛けた。
「ええ、ええ本日のご協力ありがとうございます。かれこれ半月ぶりだったものですから、ずいぶん見苦しいお姿をお見せいたしました。
しかし、これからたっぷり半月は月を楽しめます。また、明日月を食べるのが楽しみでなりません。」
「しかし、毎日食べているとなくなってしまいませんか?」
「大丈夫です。半月食べたら、半月食べるのを休んで、月を太らせるのです。そして、また真ん丸に太ったところで私たちが食べるのです。それに、月は太りすぎると空に浮かんでいられなくなりだんだん地面に近づき、最後には破裂してしまうのですよ。」
ここでヤギの紳士は声をひそめて
「ここだけのところなんですがね、実は今日はだいぶ危なかったのですよ」
と笑った。
どうも私の家は月に押しつぶされるところだったらしい。
「そうでしたら助かりました。」
ヤギに紳士は照れ隠しなのか、いやいやと手を振ると
「いやいや、それはそうと、こちらおすそ分けです。こちらこそ屋根を貸していただけてありがとうございました。」
そういってヤギの紳士は私に黄色く光る小さなものを私に手渡した。
「これは?」
「月のかけらです。お口に合うとよろしいのですが」
私は、端っこを少しかじってみる。
月は甘くてそして思ったよりも柔らかく、なにかに例える事もできないような、そんな味がした。
私は正直に感想を述べた。
「今まで食べたどんなものにも似ていない不思議な味です」
ヤギの紳士は穏やかに笑って
「そうなんです。ほかのものでは駄目なのです。」
といった。そして立ち上がり
「そろそろお暇致します。長々とお邪魔いたしました。」
ヤギの紳士がそういうと、会話を聞いていたのか、ほかのヤギたちも引き上げとばかりに降りてきた。
そして、口々に私に礼を言っていく。
「ありがとう。親切な方」
「屋根は広くて快適だったわ」
「また、そのうちよろしく」
そしてめいめいの方向に帰っていく。
あっさりしたものだ。
そして、最後の一匹が見えなくなるころには、空が明けてきていた。
もう月は見えなくなっていた。
逃げてしまったのだろう。
これから半月の間ヤギたちは月を追いかけてゆくのだろう。
月の見える方向にヤギたちは向かっていく。
私はもらった月のかけらをびんにしまい、つぎにヤギのお客様が来た時のために取っておくことにした。
月のかけらは今でも戸棚の中でほの淡く光っている。
ずっとやすまず舐めている。
あっという間に月の形が変わってゆき、そして、わずかに月が楕円形になったところで、やっとヤギの紳士が終了の号令をだした。
ヤギたちはみなにこにこと顔じゅうを黄色くしながら屋根の上で思い思いにくつろぎ始めた。
ヤギの紳士が胸ポケットからだしたハンカチで黄色くなった顔を拭きながら屋根から降りてきて、玄関に座ったままだった私の隣に腰を掛けた。
「ええ、ええ本日のご協力ありがとうございます。かれこれ半月ぶりだったものですから、ずいぶん見苦しいお姿をお見せいたしました。
しかし、これからたっぷり半月は月を楽しめます。また、明日月を食べるのが楽しみでなりません。」
「しかし、毎日食べているとなくなってしまいませんか?」
「大丈夫です。半月食べたら、半月食べるのを休んで、月を太らせるのです。そして、また真ん丸に太ったところで私たちが食べるのです。それに、月は太りすぎると空に浮かんでいられなくなりだんだん地面に近づき、最後には破裂してしまうのですよ。」
ここでヤギの紳士は声をひそめて
「ここだけのところなんですがね、実は今日はだいぶ危なかったのですよ」
と笑った。
どうも私の家は月に押しつぶされるところだったらしい。
「そうでしたら助かりました。」
ヤギに紳士は照れ隠しなのか、いやいやと手を振ると
「いやいや、それはそうと、こちらおすそ分けです。こちらこそ屋根を貸していただけてありがとうございました。」
そういってヤギの紳士は私に黄色く光る小さなものを私に手渡した。
「これは?」
「月のかけらです。お口に合うとよろしいのですが」
私は、端っこを少しかじってみる。
月は甘くてそして思ったよりも柔らかく、なにかに例える事もできないような、そんな味がした。
私は正直に感想を述べた。
「今まで食べたどんなものにも似ていない不思議な味です」
ヤギの紳士は穏やかに笑って
「そうなんです。ほかのものでは駄目なのです。」
といった。そして立ち上がり
「そろそろお暇致します。長々とお邪魔いたしました。」
ヤギの紳士がそういうと、会話を聞いていたのか、ほかのヤギたちも引き上げとばかりに降りてきた。
そして、口々に私に礼を言っていく。
「ありがとう。親切な方」
「屋根は広くて快適だったわ」
「また、そのうちよろしく」
そしてめいめいの方向に帰っていく。
あっさりしたものだ。
そして、最後の一匹が見えなくなるころには、空が明けてきていた。
もう月は見えなくなっていた。
逃げてしまったのだろう。
これから半月の間ヤギたちは月を追いかけてゆくのだろう。
月の見える方向にヤギたちは向かっていく。
私はもらった月のかけらをびんにしまい、つぎにヤギのお客様が来た時のために取っておくことにした。
月のかけらは今でも戸棚の中でほの淡く光っている。