第5話

文字数 779文字

 奥様は手に持ちっ放しになっていた皿を床に置く。
その時、裏面がちらっと見えた。

「あれ、ちょっと待ってください。その皿……」

私は床に置かれた皿を手にとってひっくり返す。
すると、裏面にはきれいな模様が書かれてあった。

「これは」

模様は熱帯雨林を図案化したようなもので、緑のツタが一周唐草の様に描かれており、その合間に鮮やかな花、となにやらテナガザルの様な猿が唐草のツタにぶら下がっている柄だった。
それが、手のひらに収まるほどの皿の裏面だけに描かれているのである。奇妙であり見事だ。
思わず言った。

「これをいただくわけにはいきませんか?」

確かに骨は不気味だが、皿は見事な一品である。大きさでいっても使えはしないだろうが、飾っておくだけでも映えるような気がする。
あと、少し面白いと思ったのだ。少年時代に思い描いた冒険が、その口を開いて目の前にあるような……
こんなものをお混渡しするわけには……と渋る奥様を半ば無理やり説得する形で貰ってしまった。また、必要であればお返しする、ということなので正式には貰ったとは言い難いのだが。

家へ帰って皿を伏せて置いてみる。
うーん、不自然。
何か物足りないような気持ちになる。

なんとなく、本当になんとなくだが付属の頭骨を皿の上においてみた。
意外にしっくりくる。
しばらくこれでいいだろう。

その夜、奇妙な夢を見た。

その皿の上に猿の生首が乗っているのだ。
ちょうど頭骨を置いたように。
猿はキーキーと耳障りな声で鳴き続けている。
私はそれを布団に寝転がりながらただ一晩中見ている、そんな夢

朝起きると、どっと疲れていた。不思議と恐怖はないのだが、一晩中つきあわされたという疲労感だけがありありと残っていた。
寝ていたはずなのに。
疲れが取れないどころか、一晩中起きていたかのような。
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