第11話 キモオタの最期
文字数 1,322文字
僕は自分の心情にあわせて、ここ1か月は奥まった道を選んでいた。ほとんどの学生はここを通らないだろう。やや治安の悪い場所だ。
僕はゆっくりとその場を後にした。しばらく歩いてから走り出した。ぬるい風すら心地よい。今までの鬱屈とした気持ちが晴れていく。
正夢だったのかもしれない。この写真を礼に見せれば、今の険悪な関係はより悪化すること間違いなしだ。あの二人が別れたなら、礼との接点をもっと増やして、共通の話題とか作ったり同じ大学行ったり…そんな妄想をしてしまう。あの一枚の写真は僕にその権利をくれるのだ。そう考える権利を。
そんなことをしても良いのかと思う気持ちもある。あいつとの関係は壊れるのではないか。撮影者が僕であることがバレなくても、礼と僕が仲良くなれば当然あいつとの関係は悪くなるだろう。それはそれでよいかもしれない。
罪悪感なんてないけども、一つ疑問が上がる。あいつは二股なのか?相手の女子に勝手に抱きつかれただけとか、幼馴染だとか。
彼女は傷つくだろうか?この写真を見てショックを受けるだろうか。
そんなことを考えて眠った。また夢を見た。礼がはしゃいでいる。笑っている。感動している。おちゃらけている。泣いている。怒っている。手をつないでいる。話している。渋い顔をしたりふざけた顔をしたり。
相手の男は僕じゃないようだ。
目覚めは悪くない。変に清々しい。そして登校する。
彼女に会った。礼はあの時と同じように、全く同じように息を切らしていて、そして笑っていた。
それと同時に、すでに薄れかけていたあの写真の存在意義が完全に消えた。
「はぁはぁ…。おはよう…」
この三か月、ただただ救済を望んでいたわけじゃない。鬱鬱としていただけじゃない。
「いかすみの人だよね…ふー学校行こ…」
諦めという感情も同時に育っていた。
「最近暑すぎないー?」
固執が強かった。もっと自分を磨けば、時を待てば勝手に良い方向になると。
「いやぁー本当に、温暖化だねー」
自分から何もアクションしないことが現状維持という形で自分を縛り付け苦しめている。
「ところで君、パスタ好きだよねー。いかすみ以外だと何が好き?」
諦められていないことの証拠だ。
「あーボロネーゼね。おいしーよね」
でも、今、僕は固執から解放された。いや、解放されることを選んだ。
あんな写真なんていらない。あれこそ固執の象徴だ。
僕がすべきことはもはや一つだ。
僕は顔をあげ、礼の顔を見る。
礼はすこし驚いたようだがすぐに表情をやわらげた。
「どうしたの?」
彼女の目を見ながら、声を震わせながら僕は言った。
それは諦めの結果の一言。
「好きです」
*************************************************
あの時のうるさい蝉の声が、やけに耳にこびりついている。
返事なんてもう決まっていた。僕はきっぱり交際を断られたわけだ。
僕の気持ちは平穏そのものだった。僕の中の汚いものがさっぱり消え去ったからだ。
あの時、僕の内のキモオタが死んだ。
キモオタの恋はこうして幕を閉じた。
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僕はゆっくりとその場を後にした。しばらく歩いてから走り出した。ぬるい風すら心地よい。今までの鬱屈とした気持ちが晴れていく。
正夢だったのかもしれない。この写真を礼に見せれば、今の険悪な関係はより悪化すること間違いなしだ。あの二人が別れたなら、礼との接点をもっと増やして、共通の話題とか作ったり同じ大学行ったり…そんな妄想をしてしまう。あの一枚の写真は僕にその権利をくれるのだ。そう考える権利を。
そんなことをしても良いのかと思う気持ちもある。あいつとの関係は壊れるのではないか。撮影者が僕であることがバレなくても、礼と僕が仲良くなれば当然あいつとの関係は悪くなるだろう。それはそれでよいかもしれない。
罪悪感なんてないけども、一つ疑問が上がる。あいつは二股なのか?相手の女子に勝手に抱きつかれただけとか、幼馴染だとか。
彼女は傷つくだろうか?この写真を見てショックを受けるだろうか。
そんなことを考えて眠った。また夢を見た。礼がはしゃいでいる。笑っている。感動している。おちゃらけている。泣いている。怒っている。手をつないでいる。話している。渋い顔をしたりふざけた顔をしたり。
相手の男は僕じゃないようだ。
目覚めは悪くない。変に清々しい。そして登校する。
彼女に会った。礼はあの時と同じように、全く同じように息を切らしていて、そして笑っていた。
それと同時に、すでに薄れかけていたあの写真の存在意義が完全に消えた。
「はぁはぁ…。おはよう…」
この三か月、ただただ救済を望んでいたわけじゃない。鬱鬱としていただけじゃない。
「いかすみの人だよね…ふー学校行こ…」
諦めという感情も同時に育っていた。
「最近暑すぎないー?」
固執が強かった。もっと自分を磨けば、時を待てば勝手に良い方向になると。
「いやぁー本当に、温暖化だねー」
自分から何もアクションしないことが現状維持という形で自分を縛り付け苦しめている。
「ところで君、パスタ好きだよねー。いかすみ以外だと何が好き?」
諦められていないことの証拠だ。
「あーボロネーゼね。おいしーよね」
でも、今、僕は固執から解放された。いや、解放されることを選んだ。
あんな写真なんていらない。あれこそ固執の象徴だ。
僕がすべきことはもはや一つだ。
僕は顔をあげ、礼の顔を見る。
礼はすこし驚いたようだがすぐに表情をやわらげた。
「どうしたの?」
彼女の目を見ながら、声を震わせながら僕は言った。
それは諦めの結果の一言。
「好きです」
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あの時のうるさい蝉の声が、やけに耳にこびりついている。
返事なんてもう決まっていた。僕はきっぱり交際を断られたわけだ。
僕の気持ちは平穏そのものだった。僕の中の汚いものがさっぱり消え去ったからだ。
あの時、僕の内のキモオタが死んだ。
キモオタの恋はこうして幕を閉じた。
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