第1話 キモオタの恋

文字数 1,123文字

 僕は今まで、僕自身のことをキモオタと自覚したことはなかった。
 今でも、そう思っている。そもそも自分はオタクですらないのに。そんなことは関係ないのだろう。大切なのは外見だ。最も大事なのは、第一印象だ。
 昨日から高校生になった僕は、初日からさっそく悪口を言われてしまった。
 
 「あいつ顔やばくね…キモオタフェイスじゃん…」 

 それが小声であったことから、僕のことを直接非難するものではないというのはわかった。衝撃のあまり、ぼそっと言ってしまった、みたいな感じだろう。そういう事には基本的に慣れている。身体的特徴を小馬鹿にされるなんてことはしょっちゅうあった。しかし、「キモオタ」という言葉は他の罵詈雑言に比べ何か圧倒的なものを持っていた。僕はいつもしていた、「聞いてない振りをする」という事すら忘れてしまい茫然とした。泣きも怒りもしない。でも、ずっと「キモオタ」という言葉が脳にこびりついて離れない。それほどにショックだったのだ。
 周りの人はそんな僕を「見てない振り」をしてくれたようで、それは助かった。だんだんと冷静になる。キモオタか、そうか。受け流した。いや、実際は全く受け流すことが出来ていない。一日経った今日ですら、まだキモオタという言葉について考えてしまうのだから。

 確かに僕は、キモオタかもしれない。少なくとも外見は。まず、肥満体型である。髭はそってもそっても一日でにょきにょき生えてくるくせに、髪の毛は薄くなりかけている。肩にはだいたいいつもフケの雪が積もり、ニキビは成長期の終わった今でもまだ残り続けている。もちろん色白であるから、僕の顔はニキビの赤と髭の黒と地の白でだいぶ色とりどりだ。成長期が終わったといったが、今の身長は170には遠く及ばない。キモオタというと、僕の中では体格が良いイメージがあるので、こればっかりはキモオタっぽくなりたかった。尚、かみ合わせもそこそこ悪い。このかみ合わせの悪さは発言のしにくさ、さらにはコミュニケーションのしにくさに通じるものがあるので、僕の精神面に多大な悪影響を与えたという点で最も嫌いな僕の体の特徴の一つだ。

 確かに、最悪かもしれない。しかし、わざわざ「キモオタ」と評してくるのはどういう…

 「中田くん」

 その一言が僕の脳内会議を終わらせた。
 普段、人の顔なんてまったく見れない僕が、その時視線をすぐにその人の方に向けたのは、その声があまりに綺麗で清純そうなものだったからだろうか。

 顔を見る。相手は若干困り顔だ。なるほど、いつの間にか授業が始まっていたのだろうか、なんて考えることすらできなかった。先ほどのキモオタという言葉から解放された。

 僕は隣の席の女子に一目ぼれしてしまったのだ。
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