第2話 キモオタの前進

文字数 725文字

教室での顔合わせの後に入学式があったのだがいつのまにか終わっている。
僕はずっと浮いているかのような気持ちだった。あの子のことが忘れられない。顔も声も忘れられないなんて表現が陳腐なのは分かっているが、そうとしか言えない。
この感情が恋というものだと考えた時、恥ずかしさと自己嫌悪が同時に襲ってきた。僕なんかが恋愛対象にしてしまってごめんなさい、そんな申し訳なさも。ぷわぷわしている。マイナスな感情があっても、興奮とも幸福感ともいえぬ(もしかしたらどちらもあるのかもしれない)変な状態にあるのだから明らかに異常だ。異常ではあるが、元に戻りたいとは思わない。この感情のままでもいいかもしれない…
 自嘲したり満足したりを繰り返して家路についた。帰路においても先ほどの心のなかの議論が永遠と続いたのだった。
 
 ぺちっ。

家に帰った時点では、自嘲という気持ちの方が勝っていた。何を考えているだ自分は、という意味でのセルフビンタである。僕みたいなキモオタの恋がどうして成就しようか。するわけがないだろう。そんなことは分かってる。僕は自分自身が現実志向であると認識しているつもりだ。諦めるしかない。僕は机に向かう。勉強をしよう。しょうもないことなんて考えている暇があればすこしでも自分のためになることを。

「中田くん」

ああああああぁぁぁあああああ!!心の中で絶叫する。僕は居ても立っても居られなくなって、布団に飛び込んだ。心の絶叫が外に漏れて、布団に吸収させた。頭がすっからかんになるまで叫び続けたい。
なんか、楽しい。
喉の痛みが許容量を超えて、叫びは終わる。僕は体のエネルギーを全部使いきった。そのまま布団に身を任せて、寝ることにしよう。
ちょっと、すっきりした気がする。
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