第9話 キモオタの夢

文字数 707文字

一週間後。彼らは別れた。
あまりにもあっさりとその事実は彼の口から告げられた。朝から二人のことを見ていて、確かによそよそしいなとは思っていたが、まさか別れていたとは。昼、屋上にて、僕にそのことを伝える彼の顔に悲しみとかそういうものは全く見られない。清々しいとまではいかないが、プラスな感情を抱いているのは確かだった。こいつはすぐに次の人を見つけるだろうな。
この別れにおいて、彼以上に喜んでいるものがいる。僕だ。喜びというか、安堵というか。この二人のいちゃつきを近くで見せつけられ、その上別れそうで別れないみたいな状態になり誰よりもヤキモキしていた。二人が別れるというのは、夢に見る程なんどもなんども考え、期待するも現実はそううまく行かないことを知っていたから諦める。でも諦めきれず祈ってしまう。そんなループの中で僕の精神はどんどんすり減っていった。しかし、神は僕を見捨てなかったようだ。見事に二人は絶縁した。僕としてもとても信じられない。こんなにも都合のいいことが起こるだろうか。いや、たしかに願いが成就した。人の不幸で喜ぶなんて良くないが、それでも僕はやはり嬉しい。僕が今後、礼の彼氏になれるかどうかとかそういう問題ではないのだ。礼の元彼氏であるあいつの友達として、礼の愚痴を聞かないといけないという状況が解消されるというのがとにかく嬉しい。本当に、嬉しい。僕は幸福感を安堵をしみじみかみしめる。周りの風景がやわらかな光を放つように感じられた。夏へと向かうこの時期の嫌な日差しも春のように柔らかく、僕を祝福してくれるような。よし、これから頑張ろう。清潔感第一に精進しようじゃないか。

茶色。面。板。ああ、天井。
夢か。
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