第7話 キモオタの思い

文字数 910文字

家への帰り道。僕は幸せな気持ちで満ち満ちていた。今日、僕は好きな子と会話をすることが出来た。何度思い返してみても、とても甘い時間だったなと思ってしまう。それだけでも十分に幸せなのに、その上、男子生徒とも会話をすることができたのだ。共通の話題、つまり僕と彼をある程度の強さで結びつけるものが誕生したのは僕の学校生活に良い影響を与えるに違いない。実際に今日は彼とだいぶ語り合い、周りが暗くなるまで学校にいたのだ(彼の部活がちょうど無かったらしい)あぁ、充実してるなぁ。今、自分は幸せなんだ。学校生活も安泰だなぁ。


帰宅して、玄関に置いてある鏡に映った自分の顔が視界に入ってきた。
気持ち悪い顔だ。
身体的特徴のことを言っているのではない。僕は微笑んでいた。でもその微笑みの奥にあるマイナスな感情が表にまで出てきていて、不自然で気味が悪い。
マイナスな感情とは何だろうか?
僕は、廊下を歩きつつ考えた。ああ、そうか、単純にあたりが暗くなってきたから気持ちも落ち込んだのだな。幸せな気持ちは昼の明るさに結びついているわけだから…。

もちろん、わかってる。この感情が、嫉妬と呼ばれるものだと。

自分に話しかけてきてくれた彼には心の底から感謝している。クラスで孤立すること間違いなしの僕に好きなものを語るという機会をくれたのだ。感謝しないわけがない。

嘘だ。僕は彼に心の底から感謝、なんてしていない。僕は嫌悪しているのだろう。彼の身体的特徴の一つ一つすらなんか嫌だなぁと感じてしまう。あの明るさ、僕に話しかけてくるほどの明るさすら、嫌いだ。礼に近づけさせたくない。あの子は天使みたいなものなんだから。汚れとすら思ってしまう。

そういう考えが気持ち悪い。まさにキモオタじゃないか、と自嘲してしまう。でもやはり礼が彼の彼女になっているのがどうしようもなく許せないのだ。

食事中、入浴中、勉強中、彼への嫌悪と自分への嫌悪を何度も何度も繰り返しても自分の心の中で整理がつかなかった。疲労感が増えるばかりだ。

やっぱ夜だからこんなことを考えてしまうのだろう。僕はベッドの上に倒れた。何も考えないようにしよう。明るくなれば気分も明るくなる。今日は、もう寝てしまおう。
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