第41話 向こうの世界 「USBと解毒剤の行方」

文字数 1,064文字

 《向こうの世界》

「徹、何も言わずこれを受け取れ。ジョンからの物だ」
 レオンは警備員なので監視カメラを気にすることなく研究室まで来ることが出来た。ジョンとしてはレオンを巻き込みたくなかったが、キングが異常なほど警戒心が強くなってきているので、徹との接触方法が思いつかなかった。
「何かあれば呼んでくれ」
 レオンは怪しいものがいないか周りを監視しているふりをして研究室を出た。
 徹は感づいていたので、直ぐにUSBをパソコンに差し込んだ。
 (パスワードね。このアルゴリズムでどうかな......ほら、簡単だ)
 モニターを見つめる目が輝いた。
 (これはすごいな。なるほど。これが新薬の解毒剤か。思っていたより複雑だな.......内部調査?こ、これはやばいな)
 徹は背筋が凍った。会社が潰れる。いや、国家が危ないことが資料として事細かに残してあった。
 (それより、解毒剤をまず生成することが先決だ)
 治験された彼らを救い、世界を救うために、責任を感じている徹はすぐ解毒剤の調合に取り掛かった。

 ◇◇◇

 上手く生成できなかったが、形になったのは三日後だった。SHIHOと創一郎のDNA・血液は混合したので、後は圭太とあかりのDNA・血液を入れたら完成だ。
 小さな銀色のジュラルミンケースに入れた解毒剤をジョンに渡すため待ち合わせの場所へ向かった。
「おい、どこへ行くんだ?」
 勝手な行動を許されていない徹は警備員にすぐ引き留められた。レオンの上司の男だ。
「ちょっと、外の新鮮な空気を吸いに」
「そのカバンはなんだ?」
 警備員は徹から無理やりジュラルミンケースを奪った。
「い、いや......」
 カバンを開け何が入っているのか確かめられた。
 中身を見た警備員は面倒くさそうに書類ばかりのカバンを閉じた。
「早く行け。早く帰らないとキングに報告するぞ。外に出すなと言われているんだ」
 邪魔くさそうに言い放った。
 徹は万が一のためにカバンの内部を加工して見つからないように解毒剤を隠しておいて難を逃れた。
「あ、うん」
「太郎はどこ行った?」
「奥でひとりウイルスの研究をしています。入ると感染しますよ」
 徹は警備員を少し脅し、足早にジュラルミンケースを抱えて急いで外へ出た。
 ゆっくりと深呼吸をして、道路わきのベンチに座り、何気なくカバンを横に置いて研究室に戻った。
 傍に立っていたジョンはすぐにそのベンチに座り、カバンを受け取り車に戻った。
 (後は圭太とあかりの血液をSHIHOから受け取り解毒剤を調整するだけだ)
 猛スピードでジョンは車を走らせた。

 



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登場人物紹介

SHIHO。(シャロン)「向こうの世界」で大東亜ファミリー製薬株式会社の社員として潜入捜査中。二つの世界を救おうと奮闘。

圭太。「現実の世界」を生きる高校二年生。あかりの事が昔から好きだが、告白できないでいる。

キング。「向こうの世界」大東亜ファミリー製薬株式会社社長。一代で会社を築き上げた。

ライアン。「向こうの世界」キングの右腕。大東亜ファミリー製薬株式会社をキングと共に作り上げた。

創一郎。「向こうの世界」で生きる。SHIHOの同僚であり、恋人。

あかり。「現実の世界」圭太の幼馴染。

ジョン。特別捜査官。「向こうの世界」シャロンの同僚。シャロンを助けるために奔走する。

堂下先生。「現実の世界」圭太とあかりの塾の先生。

徹。「向こうの世界」創一郎の弟で大東亜ファミリー製薬株式会社の研究者。

蓮。「現実の世界」圭太の弟で若き天才研究者。

ケイン。「向こうの世界」で特別捜査官のボス。シャロンの親代わり。

京野。「現実の世界」あかりの友人。

デモン。「向こうの世界」の国家安全保障局の局長。

洋平。「現実の世界」圭太の親友。

レイチェル。シャロンの妹で小学校の教師。シャロンと血はつながっていない。

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