第27話 現実の世界 「退院」

文字数 941文字

 《現実の世界》

 何日入院していたんだろう。奇妙なことが次々に起こるものだ。
 圭太は大きい鞄を抱え、病院を出たら、あかりが外で立って待っていることに気が付いた。
「もう大丈夫なの?」
 圭太は心配してきてくれたんだと思うと申し訳なかった。
「うん。ありがとう。全く平気だよ。あかりはどう?」
「たぶん大丈夫」
 あかりの笑顔が特効薬だと日々思い知らされる。
「ご両親は?」
 圭太は親のことなどすっかり忘れていた。父親は仕事が転勤になって、それを追いかけて、身の回りの世話の為に母が出て行ったのだった。
「当分の間は帰ってこないみたい」
「そうなのね。大変ね」
 あかりは自分たちの周りが少し変だと感じ始めていた。
「これからどうするの?荷物置いたら食事でも行く?」
「そうだね。久しぶりに外のご飯が食べたいなぁ」
 二人きりで歩くのも久しぶりで、外の空気も良く、圭太は自由を肌で感じていた。
 しかし、空を眺めるあかりの横顔がいつもと違って、悲しく見えた。
「あかり、どうかした?悩み事でもあるの?」
「う、うん」
 うつむいた時、話すべきかどうかを悩んでいる様子が見て取れた。
「なんでも話して欲しいし、力になるよ」
「うん......そうね。わ、わたしね、違う星に行く夢をみるの。よくわからないけど」
 あかりは遠くの空を見つめ、ゆっくりと歩き出した。圭太もそれに合わせて歩調を合わせた。
「ちょ、ちょっと待って、それでどうしたの?」
 その咄嗟に出た圭太の言葉はあかりにすでに知っていることを気づかれたかもしれない。
「その星はね、こっちとよく似た星でほとんど同じような生活をしているの」
 あかりはすべてを事細かに思い出そうとしていた。
「それが夢とは思えなくて、とてもリアルすぎて」
「へぇー。もしかしたら本当にあるかもね。奇跡の星がもう一つあるなんてすばらしいかも」
 圭太は信用していないような適当な返事で話を流そうとした。
「それで圭太もいたの。そこに。シュートカットの素敵な女性と」
 圭太は背筋が凍った。
「そ、それ.....本当なの?本当に僕なの?」
「間違いないわ。わたしが圭太を見間違えることなんかありえないわ」
 
 あかりは思い切って打ち明けたものの、やはり困り果てていた。それは悲しみなのかどうかは分からなかった。










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登場人物紹介

SHIHO。(シャロン)「向こうの世界」で大東亜ファミリー製薬株式会社の社員として潜入捜査中。二つの世界を救おうと奮闘。

圭太。「現実の世界」を生きる高校二年生。あかりの事が昔から好きだが、告白できないでいる。

キング。「向こうの世界」大東亜ファミリー製薬株式会社社長。一代で会社を築き上げた。

ライアン。「向こうの世界」キングの右腕。大東亜ファミリー製薬株式会社をキングと共に作り上げた。

創一郎。「向こうの世界」で生きる。SHIHOの同僚であり、恋人。

あかり。「現実の世界」圭太の幼馴染。

ジョン。特別捜査官。「向こうの世界」シャロンの同僚。シャロンを助けるために奔走する。

堂下先生。「現実の世界」圭太とあかりの塾の先生。

徹。「向こうの世界」創一郎の弟で大東亜ファミリー製薬株式会社の研究者。

蓮。「現実の世界」圭太の弟で若き天才研究者。

ケイン。「向こうの世界」で特別捜査官のボス。シャロンの親代わり。

京野。「現実の世界」あかりの友人。

デモン。「向こうの世界」の国家安全保障局の局長。

洋平。「現実の世界」圭太の親友。

レイチェル。シャロンの妹で小学校の教師。シャロンと血はつながっていない。

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