第14話 現実の世界 「謎の堂下先生」

文字数 1,293文字

 《現実の世界》

 すでに故障していたエレベーターは動いている。
 
 あかりは、塾の講義が始まるのを教科書を広げ待っていたところに、圭太が慌てて走ってきて、あかりの隣の席に座った。
「間に合った!調子はどう?」
 息を切らしながら、いつもの挨拶をした。もう合言葉のようになっているのだ。
「来るのが遅いわね。私は大丈夫、ちょっと頭痛がするだけ」
 あかりは少し疲れた様子でこめかみを押さえた。
「頭が痛いの?実は僕も本調子じゃないんだ。腕は治ったというのに」
 左腕を回しながら、笑顔であかりを見たが反応なし。
「ねえ、それはそうと、野球部の京野とはどうなっているの?」
 タイミングを計りながら、それとなく聞いてみようとしていたが、ついつい口に出てしまった。
「どうして?」
 あかりは不思議そうな顔で何かノートに書き写していた。
「この前、京野と楽しそうに話しているのを見かけたからさ」
「そうだったの。京野君は楽しい人だからね。京野君の事よく知ってる?」
「いや、あまりよくは知らないよ。でも、良い奴みたいだよ。たぶん」
「そうだね」
 
 <ガラガラガラ>
 
 教室のドアが開いた。一瞬にして騒がしかった教室が静かになった。
 入ってきた先生はいつもの冴えない太った先生とは違ったからだ。
 若くて眼鏡をかけているがスポーツマンタイプ。女性にモテそうな風貌だ。
「今日から数学は私、堂下が担当します。前任の山下先生がお辞めになられたので」
 教室が騒がしくなった。
「私は本当は数学が嫌いです。語学の方が専門で好きです。ただ数学を教えるのは得意です」
 誰も話を聞いていないかのように静かになった。
「さて、どこまで進んでいたのかなぁ」
 先生が話を始めたとき、
 <ウーウーウーウー>
 急に大きな警報音が鳴り響く。
 みんな周りをきょろきょろと見て確認しだした。
「えっと、ちょっと状況を確認してきます」
 そう言って、慌てて先生は教室を出て行った。
 しばらくすると、校内放送で駐車場のスプリンクラーが作動したとのことが告げられた。
 戻ってきた先生が
「今日は授業中止です。ボヤがあったみたいなので残念ですが休校です」
 そう告げると、生徒たちは一斉に道具をカバンにしまい始め、続々と教室から出て行った。
「僕たちも帰ろうか。それとこれ」
 圭太が借りていた英語のノートをあかりに返した。
「そうね」
 二人は同時に立ち上がろうとした時、目の前に堂下先生が立っていた。
「圭太君とあかりちゃんだね」
「ええ」
 なぜ名前を知っているのか疑問だ。
「最近、不思議なことはないかい?」
 初めて会った先生がそんなことを聞くので、ふたりは戸惑った。
「どうしてですか?」
 圭太が尋ねた。
「いや、ちょっと気になることがあってね。身の回りで何か変わったことがあったら、必ず教えてくれないか。ささいなことでもいいから」
 そう言って足早に教室を出て行った。
「どういうことかしら?」
 あかりと圭太は見つめあって、不安な気持ちが二人の心の中で広まった。

「そういえば圭太、この前、急に消えたよね。姿が消えたような」
「え?」
「私から逃げてるの?」
 いたずらっぽい笑顔であかりは言った。







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登場人物紹介

SHIHO。(シャロン)「向こうの世界」で大東亜ファミリー製薬株式会社の社員として潜入捜査中。二つの世界を救おうと奮闘。

圭太。「現実の世界」を生きる高校二年生。あかりの事が昔から好きだが、告白できないでいる。

キング。「向こうの世界」大東亜ファミリー製薬株式会社社長。一代で会社を築き上げた。

ライアン。「向こうの世界」キングの右腕。大東亜ファミリー製薬株式会社をキングと共に作り上げた。

創一郎。「向こうの世界」で生きる。SHIHOの同僚であり、恋人。

あかり。「現実の世界」圭太の幼馴染。

ジョン。特別捜査官。「向こうの世界」シャロンの同僚。シャロンを助けるために奔走する。

堂下先生。「現実の世界」圭太とあかりの塾の先生。

徹。「向こうの世界」創一郎の弟で大東亜ファミリー製薬株式会社の研究者。

蓮。「現実の世界」圭太の弟で若き天才研究者。

ケイン。「向こうの世界」で特別捜査官のボス。シャロンの親代わり。

京野。「現実の世界」あかりの友人。

デモン。「向こうの世界」の国家安全保障局の局長。

洋平。「現実の世界」圭太の親友。

レイチェル。シャロンの妹で小学校の教師。シャロンと血はつながっていない。

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