第8話 現実の世界 「サッカー公式戦」
文字数 1,367文字
《現実の世界》
久しぶりの試合に意気込んでいた。ホームで公式戦の初戦である。圭太は必ずゴールを決めてやると気合が入りすぎるくらいだ。自分でも点を取る才能があると信じていたし、いつしか周りも圭太に頼っていた。
実際にチームの得点源で、圭太が点を取らなければ、いつも負けるパターンとなっていた。
すると、前半早々にチャンスが来たのだ。洋平が中盤で狙っていた相手のパスを予想してカット、即、いつものように圭太にDFとDFの間を狙って縦のスルーパスを出した。幾度となく積み重ねてきた練習通りのプレーだ。
走り込んでいた圭太は右足のアウトサイドで絶妙なトラップをして、得意のドリブルでカットインした瞬間、後ろから来た相手はスライディングで止めようとしたが遅れ、圭太の足を引っかけてしまった。
圭太の体が宙に浮きスローモーションのように左手から落下した。
「うおーー!」
悲鳴がグランドに響き渡った。完全なファールだ。キープレーヤーをつぶしにかかる悪質なプレーに見えた。
走って近寄った主審が笛を吹きイエローカードをかざしながら、すぐに担架のジェスチャーをベンチに送った。
「これはやばいぞ!」
そばにいた洋平がベンチに大声で叫び仲間が集まってきて周りを囲んだ。
左腕を抱えた圭太は、くの字に曲がった腕を見た途端に激痛で冷や汗が噴き出てきた。みんなが心配そうに見つめる中、咄嗟に力を込めて無意識に曲がった腕をもとの位置に自力で戻し終わったころに担架がきて、そのまま乗せられ、やむを得ずピッチを去った。
腕を冷やし痛みと闘いながら
「フリーキックは点になった?」
ベンチ横で寝ている圭太は目を濡れたタオルで覆い、折れた腕を抱えながらマネージャーに尋ねた。
「入らなかったわ。残念。」
「そうか」
もう、試合を観戦する余裕もない。
前半終了と共に、圭太は救急でここから一ブロック先にある病院に腕を抱えながら、ひとりで歩いて向かった。
やっとのことでたどり着くと幸いにも、すぐに診察してもらえた。
やつれた頼りがいのなさそうな先生がレントゲン写真を見ながら
「自分で整形したのか?上手くやったな。尺骨が折れているが、二週間でくっつくよ」
先生は変な微笑みを浮かべ、横に置いてある銀色の小さなレーザーガンを手に取った。
慣れた手つきで患部に照準を合わせダイヤルを回し引き金を引いた。
<パシィ、パシィ>
「はい、終了。問題なし。骨はくっついた」
笑いながら先生が言ったその言葉を聞いて圭太は少し安堵した。
うつむいて待合室の椅子に座り、痛み止めの薬と支払いの順番を待っていると、女性がさっと横に座った。
(SHIHOだ!)
シュートボブで背は高くデニム姿、見るからに美女。大人の女性。忘れるはずがない。
気づかないふりをしていると、SHIHOが前を注視しながら小声で話しかけてきた。
「圭太君、私の彼を救ってほしいの。向こうにいるの。私達の世界。そしてあなたの。あなた達が必要なの。世界を救ってほしいの。詳しいことは、いずれ話すから、また今度」
そう言い終えると、足早に病院を後にした。誰かに追われているようだ。
圭太は呆然とし、その時ばかりは腕の痛みを忘れていた。
もう、SHIHOの姿はどこにもなかった。
そして、サッカーの公式戦は初戦敗退となった。
久しぶりの試合に意気込んでいた。ホームで公式戦の初戦である。圭太は必ずゴールを決めてやると気合が入りすぎるくらいだ。自分でも点を取る才能があると信じていたし、いつしか周りも圭太に頼っていた。
実際にチームの得点源で、圭太が点を取らなければ、いつも負けるパターンとなっていた。
すると、前半早々にチャンスが来たのだ。洋平が中盤で狙っていた相手のパスを予想してカット、即、いつものように圭太にDFとDFの間を狙って縦のスルーパスを出した。幾度となく積み重ねてきた練習通りのプレーだ。
走り込んでいた圭太は右足のアウトサイドで絶妙なトラップをして、得意のドリブルでカットインした瞬間、後ろから来た相手はスライディングで止めようとしたが遅れ、圭太の足を引っかけてしまった。
圭太の体が宙に浮きスローモーションのように左手から落下した。
「うおーー!」
悲鳴がグランドに響き渡った。完全なファールだ。キープレーヤーをつぶしにかかる悪質なプレーに見えた。
走って近寄った主審が笛を吹きイエローカードをかざしながら、すぐに担架のジェスチャーをベンチに送った。
「これはやばいぞ!」
そばにいた洋平がベンチに大声で叫び仲間が集まってきて周りを囲んだ。
左腕を抱えた圭太は、くの字に曲がった腕を見た途端に激痛で冷や汗が噴き出てきた。みんなが心配そうに見つめる中、咄嗟に力を込めて無意識に曲がった腕をもとの位置に自力で戻し終わったころに担架がきて、そのまま乗せられ、やむを得ずピッチを去った。
腕を冷やし痛みと闘いながら
「フリーキックは点になった?」
ベンチ横で寝ている圭太は目を濡れたタオルで覆い、折れた腕を抱えながらマネージャーに尋ねた。
「入らなかったわ。残念。」
「そうか」
もう、試合を観戦する余裕もない。
前半終了と共に、圭太は救急でここから一ブロック先にある病院に腕を抱えながら、ひとりで歩いて向かった。
やっとのことでたどり着くと幸いにも、すぐに診察してもらえた。
やつれた頼りがいのなさそうな先生がレントゲン写真を見ながら
「自分で整形したのか?上手くやったな。尺骨が折れているが、二週間でくっつくよ」
先生は変な微笑みを浮かべ、横に置いてある銀色の小さなレーザーガンを手に取った。
慣れた手つきで患部に照準を合わせダイヤルを回し引き金を引いた。
<パシィ、パシィ>
「はい、終了。問題なし。骨はくっついた」
笑いながら先生が言ったその言葉を聞いて圭太は少し安堵した。
うつむいて待合室の椅子に座り、痛み止めの薬と支払いの順番を待っていると、女性がさっと横に座った。
(SHIHOだ!)
シュートボブで背は高くデニム姿、見るからに美女。大人の女性。忘れるはずがない。
気づかないふりをしていると、SHIHOが前を注視しながら小声で話しかけてきた。
「圭太君、私の彼を救ってほしいの。向こうにいるの。私達の世界。そしてあなたの。あなた達が必要なの。世界を救ってほしいの。詳しいことは、いずれ話すから、また今度」
そう言い終えると、足早に病院を後にした。誰かに追われているようだ。
圭太は呆然とし、その時ばかりは腕の痛みを忘れていた。
もう、SHIHOの姿はどこにもなかった。
そして、サッカーの公式戦は初戦敗退となった。