新しい出会い
文字数 2,962文字
会場の一角にトヨタ車の集めてある場所があった。
俺は、杏奈さんと一緒にそこに向かった。
珍しいパブリカや初代カローラと並んで、すっげえ奇麗なヨタハチがいた。
そこに俺より少し年長の男が近づいてきた。
そう言うと、山さんは俺の両手を握ってぶんぶんと振って見せた。
山さんは、そう言うとヨタハチのボンネットにすりすりと頬を摺り寄せた。
う…なんかやばい匂いが漂ってる気がする。
ど、ど、ど、どうしました杏奈さん! 目が輝いてますよ!
山さん、いきなり上半身をのけぞらせた。
俺がきっぱり言うと、山さんは大げさに両手で頭を押さえて見せた。
俺は慌てて杏奈の口を全力でふさいだ。いつもの調子を初対面の相手に見せてはいけない。
ここは穏便に、穏便に…
山さんは、パチンと指を鳴らして1回転した。
俺の手の下で杏奈が言うが、外には断じて漏らさせない。
ここで、杏奈さんの前歯が俺の手をかじったので、俺は悲鳴を上げて手を離した。
そんな俺には目もくれず、杏奈は山さんに聞いた。
そうそう、そのころこのトヨタS800は狭隘なサーキットで大活躍してたのさ。本格的なレーシングカーは、当時の富士サーキット今のFISCOで、それ以外の市販車改造レーサーは船橋を筆頭にした小さなサーキットで走ってたんだ。今は狭いと言われる筑波も当時は大きなサーキットに分類されてる。
安奈さんが指を折って数える。
山さん、いきなり本気で泣き始めた。まるで、当時を知っていて悲しんでるような…って!そんなはずねえだろ!誰が見ても20代だこの人!!
うわああ、杏奈さんが本気でもらい泣きを始めたあ!
昔のレーシングカーは安全への配慮が足りてないんだ。でも、レースによって自動車は発達し、どんどん安全な乗り物に変わっていったんだよ。浮谷さんを筆頭に昔のレーサーは車の発達に寄与して散っていった英雄なんだ。
アッパーとボディーとローキックのトリプルアタックが襲ってきたあ!!!
安奈さん、何を思ったから顔を赤くすると、山さんの後頭部を思いきり張った。
肘がキドニーに!
いや、運転は楽だよ。コーナー攻めるのも楽しい。だけど、エンジンやブレーキを当時の状態で乗って居ると、すぐに故障してしまう。どうしても設計が古いからオーバーヒートやブレーキの過熱に悩まされるんだよ。もし、君たちが中身にまでこだわらないなら、直すときには出来るだけ現在の部品を使って、安全性と快適性を考慮するのをお勧めするよ。
どうやら俺様は、難しい選択に直面したようだった。
どうするこの先のレストア計画?
あのヨタハチで峠を攻めるのが俺の夢だ。
となると、やはり…
安奈さんの強烈な平手が、山さんの背中にバシッと決まった。
あれ、絶対手形が付いたと思う…
安奈さん、いきなり両手で俺様の首根っこを掴むと、すごい目つきでこう言った。
俺は、安奈の背負い投げで宙を飛んだ…
何故だああ~~~
まあ、こうしてこの日から山さんとの交流が始まったのであった。
それは、ヨタハチのレストアに画期的な進歩をもたらすことになるのであった。