ボディーも取扱注意だぜ
文字数 1,851文字
エンジンは回ったが、キャブレターを確認するには、電装系の動作確認もいる。
ちょっと借りられる工具の関係と時間の都合で俺はそれを後回しにして、錆びだらけのヨタハチの車体を何とかすることにした。
今日は車屋のおっちゃんであるケンさんは外出していてガレージには俺一人だった。
毎回何かしら文句言うくせに、杏奈は今日も顔を出す。
意外とヨタハチが気にってるのかな?
杏奈が片手を上げ、俺の顔をじっと見た。
ああ、ボディーの塗装ってすんげえ金かかるんだ。だから、試運転の時はまだ塗れないと思うぜ。まあ、たぶん色味調整して削った所だけスプレーガンで塗装なら、少しは安く済むけどさ、それまでは錆落とした部分はまだらに銀色になるってことな
速攻で杏奈が告げてきた。
何故か、杏奈の瞳がトロンとなった。
なんだ?
どうした?
つま先に激痛。
すっかり慣れてきた杏奈の踏み付け攻撃が右足にクリーンヒットしていた。
返事は来なかったが、とりあえず俺は床の具合を見るため、シートの取り外しをし、バンパーやミラー類を外した。
すっかり部品の外れたヨタハチは、丸っこい独特の姿が際立った。
俺は補強が必要な個所を見つけると、水性マジックで印をつけていった。
そんな俺の作業をじっと見ていた杏奈が、遠慮がちに言った。
杏奈がいきなり、スススッと近づいてきた。
俺は首をかしげたが、その間に杏奈はケンさんの事務所に行ってマジックを持ってきた。
作業はサクサク進んだ。やっぱ二人だとはかどるぜ。
修理箇所は意外と多く、車体はそこらじゅうが×印で埋まってしまった。まあ、この時代の車は元の外板が厚めだから、裏打ちはコンマ何ミリかの板で済むかな。
とか思いつつ、俺が修理箇所に顔を近づけた時だった。
俺は杏奈の付けた印にさらに鼻を近づけそれを嗅いだ。
そのマジックを見て俺は絶叫した。
裏打ち個所は、修理終わったら表の印は拭き取るだけなんだよ。油性だと、シンナーじゃないと落ちないから、塗装被膜に影響出て全面的に塗り直さないとだめになるんだ。これ、もう、部分ペイントじゃ無理。全面塗り直し確定…
がっくり肩を落とす俺に、杏奈が両手を合わせて謝ってきた。
まあ、これがきっかけとなり、杏奈はヨタハチのレストアになし崩しで引っ張り込まれ、俺と一緒に泥沼であえぐことになるのだが…
とにかく、まだまだ修理の道のりは長いのであった。